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国際金融センター機能の強化へ向けた取引所をめぐる課題

2016年3月号

未来創発センター戦略企画室 主席研究員 大崎貞和

日本の国際金融センター機能を強化するためには、その中核を担う取引所の競争力強化が必要である。そのためには、総合取引所の実現に加えて、取引所とフィンテックの連携の容易化や代替取引市場の位置付けの見直しといった規制改革が求められる。

総合取引所の実現を

 日本における国際金融センター機能の強化は、古くて新しい政策課題である。金融センター機能の中核を担う機関の一つは、株式やデリバティブの市場を開設する取引所であり、国際金融センターとしての地位向上策とは、取引所の競争力強化策でもある。

 日本の取引所の競争力強化という観点からは、2013年1月の東証と大証の経営統合による日本取引所グループ(JPX)の発足が、画期的な出来事だったと言える。しかし、JPX発足以前に提起されたコモディティ(商品)を含む幅広いデリバティブを取り扱う総合取引所設立の構想は、法改正や再三の閣議決定にもかかわらず、実を結んでいない。2015年6月の「日本再興戦略」でも総合取引所の「可及的速やかな実現」がうたわれた。

 総合取引所構想実現への最も現実的な選択肢は、JPXグループによる商品市場の開設だろう。その最大のネックは、法令上、商品取引所を所管する経済産業省による同意が必要とされていることである。

 同省は、JPXによる市場開設よりも東京商品取引所(TOCOM)によるLNG(天然ガス)や電力のデリバティブ市場開設が先決と主張する。しかし、TOCOMの経営は苦しく、その存続可能性すら危ぶまれる。他方、JPXがLNGや電力の市場を運営できないとする根拠は薄弱であるように思われる。

 エネルギー価格の下落などで世界のコモディティ取引拡大の勢いはひと頃ほどではなくなっている。とはいえ、中国市場の躍進など競争環境は厳しい。国内における商品価格形成の場を維持し、日本の国益を守るためにも、JPXの総合取引所化へ向けた関係者の英断が求められている。

フィンテックとの連携容易化

 近年、金融とIT(情報技術)を融合させるFinTech(フィンテック)に対する注目が急速に高まっている。新興ベンチャー企業が手掛けることの多いフィンテックは、金融サービスのあり方を大きく変える可能性を秘めていると言われる。

 昨年末にまとまった金融審議会ワーキング・グループの報告書では、銀行グループによるフィンテックへの出資を容易にすることが提言された。順調に行けば、現在開かれている通常国会で必要な法改正が行われることとなろう。

 これは重要な一歩だが、海外では、銀行のみならず取引所も、事業提携や出資によって新興フィンテック企業との連携を強めている。フィンテックが扱う技術の中には、ブロックチェーンなど、これまで取引所が提供してきた機能に取って代わるようなものもあるだけに、当然とも言える。

 ところが日本の法制では、金融商品取引所は、原則として「取引所金融商品市場の開設及びこれに附帯する業務のほか、他の業務を行うことができない。」(金融商品取引法87条の2第1項)とされており、海外のライバル取引所のような柔軟な事業展開は難しい。日進月歩のIT技術革新から取り残されないためにも、早期に法改正へ向けた検討を始めることが望まれる。

代替取引市場の環境整備

 金融センター機能の強化という観点からは、やや逆説的だが、取引所のライバルであるPTS(私設取引システム)やダークプールといった代替取引所市場をめぐる制度の整備も重要である。かつては一つの取引所に売買を集中させることで公正な価格形成と円滑な株式流通が実現すると考えられていたが、現在では、多様な注文執行の場が競争することでこそ、市場全体の質的な向上が図られるという考え方が有力になっているからだ。

 米国や欧州では、伝統的な取引所と競争しながら売買シェアを高めてきた代替取引市場が、大きな存在感を発揮している。それに対して、日本株を取り扱うPTSは、1998年の金融ビッグバンで解禁され、2010年代に入って取引量を伸ばしてきたが、取引シェアは5%程度にとどまる(図表参照)。その一つの要因は、PTSは信用取引を取り扱えないとする規制が残り、個人投資家の売買注文を取り込めないからである。

 PTSによる信用取引の禁止は、運営会社が個人投資家の取引口座を直接保有すれば利益相反の危険が大きくなることが根拠とされる。しかし、現在株式PTSを運営する2社は、いずれも個人投資家による口座開設を受け付けていない。この問題は、制度上の位置付けがあいまいなままの国内におけるダークプールに対する規制の再検討とともに、正面から検討されるべきであろう。

 JPX発足時の公正取引委員会による審査の過程でも、株式取引が独占的になることへの懸念が示されていた。競争促進につながる制度見直しが求められる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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