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金融ITフォーラム報告

2016年2月号

竹端克利, 富永洋子, 國見和史

野村総合研究所(NRI)は2015年11月19日、「金融業界のイノベーションが未来を創る」をテーマに「NRI金融ITフォーラム2015」を開催した。

 2015年の流行語大賞を金融業界だけに絞ったならば、満場一致で「FinTech(フィンテック)」だったのではないだろうか。既に、ITなくして金融ビジネスは成立しないほどその関係は密接ではあるものの、これほどまでに注目を集めるのは、金融業界全体でイノベーションに対する期待が高まっているからであろう。

 本フォーラムでは、金融業界の皆様と、金融ビジネスを取り巻く環境変化や勃興しつつある新たなビジネスモデルについて考察するとともに、イノベーションへとつながるであろうアイデアを共有したいと考え、計33コマのセッションを用意した。当日は、銀行、証券会社、保険会社、運用会社などから合計894名のお客様にご参加いただいた。

 ここでは、基調講演、特別講演をお引き受け下さった日立製作所 相談役の川村隆様、内閣官房参与 イェール大学名誉教授の浜田宏一様、内閣府大臣官房 番号制度担当室長の向井治紀様、日本銀行決済機構局 参事役の小早川周司様、大阪取引所 市場企画部長の飯村修也様、鹿児島銀行 営業支援部の藪谷真喜子様の講演を紹介する。

日立グループ経営改革の真髄~ザ・ラストマンの覚悟~
株式会社日立製作所 相談役 川村 隆氏

 日立製作所は2009年3月期に当期純利益で大幅な赤字を計上した。これは製造業のワースト記録である。当社は同年4月から大改革を行い、2年で黒字に回復させることができた。

 この改革の意思決定は私と副社長の6人で行った。副社長5人は子会社の経営に携わった経験があり、迅速な決断に慣れていた。私自身も社長と会長を兼務し、スピード第一主義をとったのである。

 改革の基になったのは、「100日プラン」である。これに沿って様々な改革を同時進行で行った。大きな決断の一つがテレビの自社生産からの撤退だった。人員配置等の課題もあり、完了までに3年以上かかった。より成果が早く出る施策として、上場子会社5社の完全子会社化も実現した。改革は社内の新陳代謝を促すものであり、痛みを伴う。それを実行するにはトップマネジメントの「徹底してやる」という決心が何より重要である。

 改革を行えるトップリーダーのあるべき姿は、「目的意識型」だと考える。集中力が高くエネルギッシュであり、かつ毎日の混乱の中でも沈着冷静。真に大切な目的の遂行に時間を割くことが必要だ。日々の課題に心を奪われていてはいけない。

 リーダーの役割は、①形勢を読み、②理想的な解を探り、③現実的な戦略を描き、④それをステークホルダーに語り、⑤断固実行することだ。この中で「語る」と「実行」は特に重要だと思う。当社も海外売上比率が50%に迫っている。トップが国内外の拠点を回って社員と今後の改革や成長戦略について話し合うことが必要だ。そして「抵抗勢力」と戦いながら改革を断固実行する。その際、小さな成果でもステークホルダーに充分説明しながら進むことが重要である。

 当社は2003年にガバナンス改革を行い、執行と監督を分離すべく委員会等設置会社に移行した。2012年からは取締役の過半数を社外取締役にした。業績を海外標準レベルに押し上げることも念頭に、取締役12名中8名を社外、うち4名を外国人(2名は女性)としている。社内の論理で物事を決めず、グローバルな視点と多様な価値観を経営に反映することが目的である。

 最後にCMでもおなじみのハワイの日立の樹を紹介したい。この樹は130歳、手を掛けてメンテナンスされている。これを見ると、経営者は植木職人と同じだと思う。成長する枝を伸ばして、悪い枝を切っていく。何事も「新陳代謝」が必要なのである。

アベノミクスの理想と現実
内閣官房参与 イェール大学名誉教授 浜田 宏一氏

 2008年以降の世界的な金融危機に際し、日本の景気後退の「谷」は、問題の震源地であったアメリカよりも深かった。これは、先進国が積極的に金融緩和を進める中で円の独歩高が生じ、日本の輸出が深刻な打撃を受けたからである。当時、私は日銀の金融緩和が不十分であると批判し、大胆な政策の必要性を訴えたが、日銀のみならず日本の多くの学者から、金融緩和は無効だとの反論を受けた。しかし、「アベノミクス」以降の状況を見れば、金融緩和が為替や株価を通じて大きな効果を発揮したことは明らかである。

 「アベノミクス」の開始以降、GDPギャップは着実に縮小しており、日銀は現在ほぼゼロとみている。特に労働市場では就業者が150万人近く増加し、失業率が3.1%へ低下するなど、完全雇用が達成されたと言ってよい。ただ、この間にいくつかの問題も生じた。第1に、消費税増税によって景気が後退した。諸外国との間で法人税率の引下げ競争が繰り広げられる中、将来的には税収を消費税に頼らざるを得ないことは理解できるが、2014年4月の消費増税は、デフレ脱却との関係では急ぎ過ぎた感がある。第2に、原油価格が1年間で半値以下に下落した。原油価格の下落は、国民の実質購買力を増加させるよい面があるが、実際のインフレ率を低下させることで、デフレ期待からインフレ期待への転換を遅らせる恐れがある。第3に、中国の経済成長が鈍化するなど外需が弱含んでいる。中国の技術面、ハードウェアは健在であり、中国人観光客による「爆買い」に象徴されるように、購買力は着実に成長しており、長期的に見て中国の経済成長力は高い。ただ、中国を先頃訪れた際にも感じたが、中国政府が市場経済に対する公権力の統制力を過信している点は気になる。人民元に対する態度もちぐはぐであり、短期ないし中期的には、中国が抱える様々な問題が表面化する可能性もある。

 これらの問題を理由に「アベノミクス」が失敗したと評価するのはフェアではない。少なくとも、原油価格の下落や中国の成長鈍化は、日銀や日本政府にはコントロールできない要素である。

 日本の構造改革の柱であるコーポレート・ガバナンスの強化に関しては、企業の経営者に対して自社の株価にもっと関心を持つよう求めたい。経営者が株価の上昇を通じて株主を尊重しない限り、前向きな投資は生まれてこない。株主や労働者に利益を配らず、実物投資や株式投資に控えめで、しかも内部留保を流動資産中心の形で持つという企業の態度は、日本経済の潜在成長率を引き下げているといえよう。

マイナンバー制度活用によるイノベーション
~民間、主に金融機関での活用拡大に向けて~
内閣府 大臣官房 番号制度担当室長 向井 治紀氏

 マイナンバー制度は2016年1月から社会保障、税、災害対策の3分野で運用が開始される。よく誤解されるが、個人情報は一元管理されるのではなく、年金なら年金、税なら税と各行政機関のデータにマイナンバーを付して分散管理されるため、まとめて情報が漏れることはない。機関間の情報連携は、必要となった場合に情報提供ネットワーク・システムを介して行われる。

 個人番号カードはさまざまな用途で利用可能で、表面は本人確認、裏面は番号確認の機能を持つ。ICチップは券面記載事項などとともに、公的個人認証サービスの電子証明書を格納している。公的個人認証サービスは民間事業者にも開放され、ネットバンク、ネットショッピングでの顧客登録時の本人確認、その後ログイン時のユーザー確認に利用可能となる。

 また、2017年1月開始予定のウェブサービス、マイナポータルでは、自宅のパソコン等から①行政機関間の個人情報のやりとり確認、②個人情報の内容確認、③行政サービスなどの通知確認が可能となる。引越等のライフイベントに複数の手続きを官民横断的に行える「ワンストップサービス」などの機能も合わせて導入される予定である。

 マイナンバー制度を今後どのように利活用するかは、国が閣議決定した「世界最先端IT国家創造宣言」で具体的に示されている。これに基づいて、現在、個人番号カードをクレジットカード、キャッシュカード、ポイントカードなど各種カードや、健康保険証として利用可能とすることが検討されている。また、マイナポータルの閲覧には個人番号カードを読み取るためのICカードリーダーが必要となるが、スマホのNFC機能を用いて読み取る実証実験も行っている。さらには、公的個人認証サービス機能をスマホのSIMに格納し、サブカードとして使うことも検討中である。希望者は端末内で生体認証を行うことも可能となろう。

リテール決済システムを巡る最近の動向
日本銀行 決済機構局 参事役 小早川 周司氏

 日銀ネットとは、日本銀行と金融機関等の間の資金や国債の決済を担う、わが国決済システムの基幹インフラである。このうち資金決済システムでは、2014年中に1営業日当たり約125兆円の決済を行った。

 わが国では、決済システムの安全性と効率性の向上のバランスを取りながら、決済サービス高度化に向けた様々な取り組みが進められている。こうした中、2015年10月に全面稼動した新日銀ネットは、①最新の情報技術の採用、②変化に対して柔軟性の高いシステム、③アクセス利便性の向上を基本的なコンセプトとするものである。2016年2月には、稼働時間の更なる拡大(19時→21時)を予定している。これを通じて、海外市場との決済時間帯の重なりが増え、例えば、海外との円建て顧客送金の迅速化や、グローバルベースでの日本国債の有効活用が期待される。

 次に企業財務の高度化を巡っては、企業間取引の決済に際して取引関連データを電子的に交換する仕組み(金融EDI<Electronic Data Interchange>)を実現するための取り組みが続けられている。現状、売方・買方の間では、モノの流れに関する商流情報と、その決済に関する金流情報が必ずしも連動していないように窺われる。このため、売掛金の消込み等に多大なコストがかかるとの声が聞かれる。金融EDIでは、インボイスに含まれる情報を送金案内に付加することによって、商流情報と金流情報を連動させることができる。これによって、企業では、売掛金の消込み作業等が自動化され、社内資源のさらなる有効活用が期待される。実際、これまでの共同実証結果をみると、金融EDIを通じて、①卸売業では売掛金消込業務にかかる時間を年間1,680時間、②小売業では販売条件・リベート入金管理業務にかかる時間を年間9,250時間削減することができたと報告されている。金融EDIの実現に向けては、幅広い関係者の協力が必要となるほか、それに含まれる情報の標準化といった課題も指摘されている。中央銀行としては、関係者と協力しながら、わが国決済サービスのさらなる高度化に貢献していきたい。

JPXデリバティブ市場拡大に向けた取り組み
~次期デリバティブ売買システムの稼働~
株式会社大阪取引所 市場企画部長 飯村 修也氏

 2013年1月に東京証券取引所と大阪証券取引所が経営統合し日本取引所グループ(JPX)が誕生、デリバティブは大阪取引所(OSE)で扱うことになった。

 この5年間、OSEは市場の利便性向上のため様々な施策を実施してきた。制度改善としては、特に2011年に実施した取引時間延長が挙げられる。これは海外の情報が日本株の株価にも影響する状況に対応したものである。現在は午前3時まで取引を行える。

 OSEのデリバティブ市場には、大きく国債先物と株式指数先物がある。取引は日経225株式指数関連商品(特に日経225mini)が中心となっており、取引高の86%を占めている。昨年には新商品として、JPX日経400先物を上場した。日経225関連商品の拡張も推進しており、ボラティリティインデックスやWeeklyオプション(毎週限月)も開始している。

 長期国債先物は、国債の金利水準が低位に留まっていることもあり、取引高は伸びていないが、高い流動性を保持している。超長期国債先物も商品性を変更して再上場した。新しい指数の算出も予定している。

 2016年も様々な施策を打つ計画である。まずインフラ面では取引システムとして次期J-GATEを稼働させ、大幅な性能改善を行う。それに合わせ、新制度・新商品を導入する。制度では取引時間をさらに延長し、午前5:30までとする。米国時間もカバーし、更なる取引機会を提供できることになる。またTrade Guardを導入し誤発注防止などリスク管理強化を図る。新商品では、マザーズ指数先物、JPX日経400オプションの他、FTSE中国50指数、台湾加権指数の2つの海外指数先物を上場する。

 現在のOSEデリバティブ取引は、海外取引所と比べても、国内の株式指数関連に大きく偏っている。今後はアセットクラスの拡大、海外指数の取り込みなど商品の幅を拡大していきたい。また中長期的には総合取引所としての品揃えの実現を目指したいと考えている。

銀行の新成長分野「医療介護ビジネス」への取り組み
株式会社鹿児島銀行 営業支援部 医業推進室 藪谷 真喜子氏

 われわれ鹿児島銀行の経営理念に「地域貢献」がある。中期経営計画のマスタープランでも地域産業振興に積極的に取り組むことを掲げているが、「医療介護」は、同計画に基づきクラスター化を推進している5つの産業分野のうちの1つである。鹿児島県は人口当たり病床数が全国第2位で病院数も非常に多く、当行の医療介護施設への融資額はかなり大きい。

 当行の医療・介護ビジネスは、営業支援部の医業推進室が中心となってソリューションの提供、営業推進を行っている。具体的には、医療機関の開業、事業承継、建て替え、病床再編、経営改善などについて幅広い支援を行っており、医療機関債も取り扱っている。

 Trovo-medicalは、医療・介護施設を多面的に分析して営業支援やリスク管理に活用することを目的として、当行がITベンダーのインビオ社と共同開発したシステムである。国、地公体のオープンデータなどをもとに医療施設の各種情報が毎日更新され、例えば医療機関の病床機能や施設基準の分析、施設を取り巻く医療マーケットの分析、開業や事業承継の予測、地域ごとの病床需要の予測などができる。当行では当システムの利用によって、医療介護事業者向け融資残高が順調に増加しており、業務の効率化や分析力の向上によって提案内容の質も向上した。

 このTrovo-medicalは、平成27年4月に設立したサザンウィッシュ社(株主は、鹿児島銀行、NRI、インビオ、かごしま新産業創世ファンドなど)を通じて外部にも販売している。金融機関だけでなく、薬品卸会社、駐車場管理会社、製薬会社にも利用が拡大しており、今後はリース会社、証券会社、小売、コンビニなどにもユーザーを増やしていきたい。当システムのユーザー間での情報交換も行われており、そうした連携が、医療機関やドクターへの複合的な情報提供や、よいソリューションの提供につながることも期待している。



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※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

竹端克利

竹端克利Katsutoshi Takehana

金融イノベーション研究部
上級研究員
専門:マクロ経済分析、金融政策分析

富永

富永洋子Hiroko Tominaga

金融ITイノベーション事業本部
金融イノベーション研究部契約研究員

國見和史Kazushi Kunimi

金融ITイノベーション事業本部
金融イノベーション研究部契約研究員

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