1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. デジタルイノベーションPreview
  6. ディープラーニングによる人工知能の進化とそのインパクト

ディープラーニングによる人工知能の進化とそのインパクト

2016年2月号

デジタルビジネス推進部 上席研究員 古明地正俊

ビッグデータの増大と機械学習技術の進化により人工知能に3度目のブームが訪れている。ブームを牽引しているのは、ディープラーニングと呼ばれる機械学習技術である。機械学習をシステム開発に適用するには、技術の特性を良く理解するとともに、従来のシステム開発と機械学習を利用したシステム開発との違いを良く理解する必要がある。

 人工知能(AI)が3度目のブームを迎えようとしている。ブームを牽引しているのは、ディープラーニング(深層学習)に代表される先進的な機械学習手法の実用化と、それを支える画像やテキストなどのビッグデータ(非構造化データ)の増大である。

Watsonは従来型機械学習の集大成

 ディープラーニングとは異なる、従来型の機械学習を利用したシステムの代表例がIBMのWatsonである。Watsonは自然言語を解釈し、自身が蓄積している情報をもとにした仮説の生成や評価を行うことにより人間の意思決定を支援する。IBMはこうしたシステムを「コグニティブ(認知)コンピューティング」と呼んでいる。

 Watsonは、米国の人気クイズ番組「Jeopardy!」で、本や百科事典など2億ページ分のテキストデータ(70GB程度、約100万冊の書籍に相当)の知識をたずさえ、人間のクイズチャンピオンに勝利したことで一躍有名になった。これを契機として、IBMはWatsonの商用化に向けさまざまな活動を続けており、2014年10月には、Watson事業を統括するWatson Groupの本部をニューヨーク市のシリコンアレー地区に開設するとともに、「Watson Client Experience Center」と呼ぶ支部を世界5カ所に設置している。

 IBMは、米国ではヘルスケアや医療分野からWatsonの適用領域拡大を進めてきたが、日本国内では、メガバンクのコールセンター業務や保険会社の支払い業務支援への適用など、金融機関向けのプロジェクトを中心に推進している。また、日本語化に関しては、現在ソフトバンクと開発を進めており、2016年前半に日本語対応版がリリースされる予定である。

ディープラーニングによる機械学習のブレークスルー

 機械学習にはさまざまな手法があるが、近年、特に注目を集めているのがディープラーニングである。従来の機械学習では、パターン認識などのタスクを実行する際に対象物のどのような特徴に注目すべきかを人間が指定していた。しかし、タスクや対象物によっては人間が特徴を指定することが困難なため、その適用領域が限定されていた。一方ディープラーニングは、特徴をデータから自動的に抽出する「表現学習」と呼ばれる機能を有しており、従来型の機械学習の限界を越えられるのではないかと期待が高まっている。

 現在利用されているAI関連技術について、その適用領域と開発・運用コストの関係を図表1に示した。

 ルールベースのAIは、人間が専門家の知識をルールとして記述することによってAIを実現しようとするものである。この技術は、前回のAIブームの時にエキスパートシステムを構築するためなどに利用された技術であるが、ルールの構築に手間がかかるため、あまり普及することはなかった。また、Watsonに代表される従来型の機械学習技術は、ルールベースのAIと比べると適用領域が広いが、特徴の設計に人手を要するため、タスクによっては開発・運用コストが大きくなるという欠点がある。ディープラーニングはこうした欠点を克服するものと期待されており、音声認識や画像認識の分野では人手を介することなく良い成果が得られている。しかし、自然言語処理に関しては、まだ従来技術と比べて必ずしも良い成果が得られておらず、今後の技術革新が期待されている。

AIがシステム開発に与える影響

 AIを企業の情報システムの一部として活用する場合、そのシステム開発は今までのシステム開発とは大きく異なることを理解する必要がある。現在のシステム開発とディープラーニングなどのAIを利用したシステム開発との違いを図表2にまとめた。

 AIを活用するためには、基盤から開発方法論に至るまで、従来型のシステムとは異なる部分が多い。特に注意が必要なのは、機械学習を利用するシステムは処理フローなどで定義をしないため、結果として構築されたシステムが要件と照らし合わせて適切であるか否かの評価が困難な点だ。

 また、ディープラーニングを利用したシステムは、特徴を人手で設定する必要がないことが大きな利点であるが、システムが特徴をデータから自動的に抽出するため、結果的にどのような特徴を利用しているのかが分からず、内部状態がブラックボックス化してしまう。そのため、機能面や性能面で不具合があった場合、系統だった対応をすることが難しい。ベンダーに開発を委託した場合には、システム納品後に契約面でのトラブルが発生する可能性もある。

 こうした問題を少しでも回避するためには、技術の提供者側と利用者側が協力し、実証実験などを通じて、技術適用に関する経験を積むことが今まで以上に重要となる。また、そのような活動を推進するためには、先端技術と業務の両方に精通した人材が今後益々必要となるだろう。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

古明地正俊

デジタルビジネス開発部
上席研究員
専門:先端IT動向の調査分析

この執筆者の他の記事

古明地正俊の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています