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国内リテール証券会社の対面営業チャネルの方向性

2016年2月号

金融コンサルティング部 主任コンサルタント 石井英行

対面営業を主力チャネルとする国内リテール証券会社は、預かり資産残高に比例した手数料収入に重きを置くビジネスモデルに舵を切りつつある。各社は、営業員の提供サービスの幅を広げ、質を高めるために、組織的な支援に取り組んでいる。

金融庁が提唱する「フィデューシャリー・デューティー」

 金融庁は「平成27事務年度金融行政方針」の中で、「フィデューシャリー・デューティー」という概念を用い、金融商品の販売会社に対し、真に顧客のためになる質の高い金融商品・サービスを提供し、顧客の安定的な資産形成に資することを要請し、投資信託の回転売買や不透明な手数料体系などには警鐘を鳴らしている。

 また日本証券業協会が毎年実施する「個人投資家の証券投資に関する意識調査」では、個人投資家の証券購入(保有)目的の上位に「長期資産運用のため」「老後の生活資金のため」という項目が毎年並び、「短期的に儲けるため」を大きく上回る(図表)。老後や年金への不安が根強い中、リテール証券会社に対し、長期的かつ安定的な資産形成・運用の指南役を期待する声は強い。

初めての投資で、店舗のある証券会社はシェア低下

 一方、個人投資家の取引チャネルとして、店舗のある証券会社の存在感は、従来に比べて低下している。野村総合研究所が2013年に実施した「NRI生活者1万人アンケート調査(金融編)」によれば、1998年の投信窓販解禁や1999年10月の手数料自由化以降、初めて投資をする際に選択する取引チャネルとして「店舗のある証券会社」のシェアは低下し、「店舗のある銀行」「ネット専業証券」のシェアが上昇している(※1)。

 ネット専業証券の商品サービスは年々進化している。例えば、ロボ・アドバイザーによる投資一任運用サービスは、既に日本市場でも導入が進んでおり(※2)、近年、対面営業チャネルで拡大してきたラップ口座サービスも、オンラインと競合する時代になりつつある。対面営業チャネルを主力とするリテール証券会社は、オンラインチャネルとは異なる価値の提供が求められている。

証券会社の対面営業チャネルの収益構造改革

 このような状況から、一部のリテール証券会社は、株式や投資信託等の売買手数料を中心とする「フロー型」から、投資信託の信託報酬(代行手数料)のように手数料収入が預かり資産残高に比例する「ストック型」へと収益構造の移行を進めてきた(※3)。営業員の業績評価基準も、預かり資産の純増額(※4)や新規資金導入額を重視する会社が増えている。取引回数ではなく、運用結果を反映した預かり資産残高に比例する手数料体系は、顧客志向の営業をアピールするのにも一役買っている。

 また各社は、顧客の保有資産に関連して様々な収益機会を捉えることを模索している。近年、対面営業の現場では、株式や投資信託、SMA・ラップ商品等に加えて、保険、不動産売買仲介、相続・事業承継コンサルティングなど、商品サービスを多様化させている。

 こういった収益構造改革は、営業員にとっては大きなチャレンジである。顧客の預かり資産を拡大するためには、単一の投資信託への関心のみを確認する営業では足りず、顧客の運用方針やリスク許容度、現有資産を把握した上で、最適なポートフォリオを提案するスキルとコミュニケーション能力が必要となる。また、保険、不動産、事業承継、相続など各分野の個別専門知識も要求される。さらに、回転売買の抑制により、一人の顧客から得られる手数料には限界がある中で、多くの営業員は定期的に訪問する顧客の数を増やす傾向にある。

 今や対面営業チャネルを担う営業員は、提案の質や幅を追及しながら、コミュニケーションを継続的に行う顧客の数までも増やす努力を求められている。

営業員を組織的に支援する仕組み

 しかし、一人の営業員が単独で対応できることには限度がある。そのため、近年、一部の証券会社では、営業員を組織的に支援する取り組みを進めている。ここでは、米国や日本の事例をいくつか紹介したい。

 一つは、個々の営業員の提案の質にバラつきが生じないようにするための営業支援ツールの導入である。例えば、米国のウェルズ・ファーゴでは、「エンビジョン」という資産運用プランニングツールを用い、人生のゴール設定、シナリオ分析、ポートフォリオ提案、運用開始後のモニタリング等の一連のサービスを効率的に提供している。日本市場でも、同様の営業支援ツールを導入、もしくは導入を検討する動きが進んでいる(※5)。

 また、複数の営業員や支援スタッフがチームを組むことで、営業員の提案の質や対応口座数を引き上げる取り組みもある。米国では、80年代以降、メリルリンチなどが対面営業にチーム制を導入している。得意分野が異なる複数の営業員が互いの担当顧客に対し連携して提案を行ったり、ポートフォリオ策定や口座モニタリングを支援するスタッフや口座開設事務・問い合わせ等を代替するアシスタントを配置することで、より多くの顧客対応が可能になり、かつ提案力も向上させている。

 日本でも既に、営業員の事務作業の効率化を目指し、各営業店が担ってきた一部事務を切り離し、コールセンターや特定部署に集約したり、外部委託するケースが見られる。ただ、これらの取り組みでは、営業員と集中対応先との連絡や引き継ぎに課題を残す会社も多く、顧客サービス品質を低下させない運営力が求められる。また、営業店内の取り組みとしては、営業員の一部事務を支援スタッフや総務課が代替する例がある。ここで成果を出すためには、個々の営業員と、支援スタッフや総務課との間の事務プロセス標準化が不可欠であり、現場の混乱を回避する配慮が必要となる。

 今後、対面営業チャネルは、顧客と直に対話できる強みを活かし、提案の質と幅でオンラインチャネルとの差別化を目指していくだろう。そのための組織的な支援の在り方が、競争力を左右することになりそうだ。

1) 個人の金融行動や意識に関する全国規模の調査として、訪問留置法(一部、郵送回収、Web回答あり)で実施。全国の18歳~79歳の男女個人10,073人から回答を得た。1990年代に投資を始めた人の64%は店舗のある証券会社を利用したが、2012~2013年に投資を始めた人では店舗のある証券会社の27%に対し、ネット専業証券が13%、店舗のある銀行が52%となっている。
2) オンライン上でいくつかの質問に回答すると、リスク性向やライフステージ等に応じたポートフォリオをETF等の商品で提案、運用開始後はリバランスを自動的に行うサービス。お金のデザインやエイト証券は、国際分散投資が行えるETFラップ口座を提供中。マネックスグループとクレディセゾン、米系運用会社バンガードグループは2015年11月に共同出資の資産運用会社を設立し、2016年春より少額から投資可能で低コストのラップ口座サービスを開始予定としている。
3) 例えば野村證券は、営業部門において、2020年3月期までに、ストック収入(投資信託の信託報酬など、預かり資産に対する継続的なサービスによる収入)で費用の50%をカバーする体制を目指している。
4) 例えば、投資信託等の販売額から売却額や償還額を控除した金額を純増額として算出するケースがある。
5) 例えば野村證券では、「相続」「家族」「税金」「趣味・娯楽」などのキーワードと関連知識を記載した「ハッピーライフ・カード」を使い、人生のゴールやライフイベント等を話し合う営業員を支援したり、ヒアリングをもとに将来キャッシュフロー予測や最適資産配分、相続税シミュレーションなどを行うファイナンシャルプラニングツール等を備えている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

石井英行

石井英行Hideyuki Ishii

金融コンサルティング部
上級コンサルタント
専門:金融機関経営や営業戦略

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