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グローバルで展開される投資銀行向けユーティリティ・サービス

2016年2月号

グローバルソリューション事業一部 上席コンサルタント 平中直也

投資銀行において、ユーティリティ・サービスの利用がグローバルの潮流となりつつある。単なるコスト削減ではなく、業務をより効率的かつ高品質で継続するためにユーティリティ・サービスのより有効的な活用が必要となる。

グローバル潮流となるユーティリティ・サービス

 投資銀行においては、手数料収入などの継続的な減収により、コスト削減が重要な経営課題となっている。そのため多くのグローバル投資銀行は、コストセンターとされるポスト・トレード業務のアウトソースを進めてきた。アウトソース方法は「Labor Cost Arbitrage」と呼ばれるものが一般的で、金融機関がその国で現在行っている業務を、そのまま人件費の安い地域で行うというものである。アウトソース先の地域としてはインド、シンガポール、中国等が多い(図表点線部分)。

 しかし、「Labor Cost Arbitrage」には以下のような課題があった。

  • 為替変動の影響を受けるため、オフショアリングの人件費削減効果が不明瞭となる。
  • 長期雇用の慣習がない国では、アウトソース先での社員の転職が多く、人材が安定しない。結果、常に教育に関わる一定のコストが必要になる。
  • 人件費の安い地域に業務を移管したとしても、業務そのものはサービスを展開する国の制度やマーケット慣習に従う必要があるため、それに関連するITインフラは独自に構築しなければならない。

 このような状況から、投資銀行はLabor Cost Arbitrageとは異なるアウトソーシング・モデルへの転換を図っている。その一つがユーティリティ・サービスと言われるアウトソーシング・モデルである。

 ユーティリティ・サービスは、アウトソース先の国から実際に決済業務等を実行する本国に業務を戻すところから始まる。制度変更等の情報をタイムリーに入手したり、各決済機関との接続性を考慮すると、本国のローカルルールに柔軟に対応するには本国で業務を行うことが最善だからである。ただ、業務を本国に戻した場合でもコスト削減効果は出す必要がある。それを解決するのが、その国(本国)において業務プロセス自体をアウトソースとして請け負うユーティリティ・ベンダーの活用である(図表左側)。

 一般にユーティリティ・サービスは、他社と差別化を行う必要のない業務プロセスを、業務範囲と業務プロセスを見直すこと(TPO(Target Operating Model)と呼ばれる)により標準化し、それをITと組み合わせて請け負うサービスである。すなわち業務プロセスのアウトソーシングであるBPO(Business Process Outsourcing)とITO(IT Outsourcing)を組み合わせて汎用化し、それらを複数の金融機関に提供するものだ。グローバルでは様々なベンダーが、このようなユーティリティ・サービスに参入しつつある(※1)。

ユーティリティ・サービスの具体的メリット

 一般にキャピタル・マーケット分野における業務では、口座開設、取引の発注から決済・対客報告等までのフローを、様々な例外処理を即時に判断しながら、流していかなければならない。またETFの組成業務や新規の株式上場に関わる事務等、プロセス自体も多岐にわたる。

 さらに制度変更が毎年のように発生し、金融機関は迅速な対応を求められる。例えばグローバルで進められる決済期間の短縮化(日本では国債T+1や、株式T+2)や、当局への各種報告の変更である。制度変更がなされると、その都度、業務へのインパクトの調査・分析を行い、業務プロセスの変更・再構築の必要性を検討しなければならない。当然それには多くの時間や人的資源を割かなければならないが、何よりも影響が大きいのは、それを支えるITインフラの変更が必要なことである。

 オフショアサイトへのアウトソースでは、こうした対応は本国の拠点で行う必要がある。しかし、BPOとITOを併せ持つユーティリティ・サービスを用いれば、金融機関は、業務プロセスの再構築からITインフラ整備まで外部にアウトソースでき、制度変更への対応の手間から解放されることになる。また、人件費、管理コスト、家賃といった具体的なコスト削減にもつながる。そのほか、1)固定費であるコストの変動費化、2)特定のスキルを持った人員に依存することからの脱却、3)業務プロセスの変更に伴うリソースの再配置からの解放、といった副次的な効果も享受できる。これらの効果により、リスク管理もより効率的になるというベネフィットもある。

ユーティリティ・サービスを利用する際の注意点

 一般に、一連の業務プロセスの一部だけ(例えば照合業務だけ)にユーティリティ・サービスを利用しても、そのベネフィットは限定される。ベネフィットを最大限に活かすためには、例えば株式関連のポスト・トレード業務であれば、クリアリング・決済からレポーティングまでのすべての業務領域において活用するべきである。すべての業務プロセスを提供しているベンダーのサービスを利用してこそ効率性が享受できるのである。また、その国のマーケット慣行に精通し、制度改正への柔軟な対応が可能なだけではなく、高度なセキュリティが確保されているか、BCPの体制が堅牢か、SLA(※2)に基づいたガバナンスがなされているかがポイントとなってこよう。加えて重要なことは、BPOを効率的かつ安定的に支えるための強固なITインフラを併せ持っていることだ。

 キャピタル・マーケットの領域においてユーティリティ・サービスの活用はグローバルな潮流となりつつある。こうしたサービスを用いて徹底的なコスト削減・効率化を行い、新商品の開発等、より戦略的な領域に投資できる投資銀行と、そうでない投資銀行との間には、収益性に大きな格差が生じることが想定される。早晩日本においても、ユーティリティ・サービスの活用が活発に議論されることとなるであろう。

1) グローバルでみると既に複数のベンダーがユーティリティ・サービスを展開している。アクセンチュアがAPTP(Accenture Post Trade Processing)というブランドで、またサンガードもバークレイズの上場デリバティブ・OTCデリバティブの領域でユーティリティ・サービスを開始している。
2) Service Level Agreementの略で、サービスを提供する側とその利用者の間に結ばれるサービスのレベル(定義、範囲、内容、達成目標等)に関する合意書。SLAにより、サービスを提供する事業者が、契約者に対して、どの程度まで品質を保証できるかを明示する。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

平中直也

平中直也Naoya Hiranaka

NRIプロセスイノベーション(株)
出向

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