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海外トピックス

2016年1月号

・受託者責任の対象拡大に意欲を見せる米労働省
・決済サービスの多様化を規制が後押しするEU
・米SEC、投資信託の流動性管理を強化する規制案を提案

受託者責任の対象拡大に意欲を見せる米労働省

 米労働省(DOL)は、広く証券ブローカーに対しても、顧客に401(k)プランや個人退職口座(IRA)など退職プランの投資アドバイスを提供する場合には受託者責任を課す規制案の制定に意欲を見せている。一般に、証券取引委員会(SEC)が監督する「投資顧問業者」と「証券ブローカー」はどちらも顧客に投資アドバイスを提供するが、証券法に基づき顧客の最大利益を図る受託者責任を課されているのは前者のみで、DOLは特に後者と顧客との間の利益相反を懸念していた。

 DOLの規則案は、従業員退職所得保障法、内国歳入法上の受託者が提供する「投資アドバイス」の定義をより包括的なものにして、受託者の範囲を401(k)プランやIRAなどの投資家に対する広範な投資アドバイザーに広げるもの。但しこれと同時に、「受託者」として通常なら禁止されるコミッションなどの報酬慣行を証券ブローカーらが続けられるように、①自分が受託者であることを顧客に契約で明示すること、②顧客の最大利益を図るアドバイスを提供すること、③顧客に取引コストを詳細に開示すること、などを条件にこれを認める規則も提案された(「最大利益契約(BIC)」免除規定)。

 証券業界はDOL案に強く反発しており、①BIC免除規定を満たすための負担が大きすぎる、②DOLではなく、証券監督機関のSECが退職プラン以外の投資家を含むすべての投資家に同じ基準で受託者責任の規則を制定すべき、と主張している。DOLでは業界の懸念に聞く耳を持つとしながらも、同案を支持するオバマ大統領の任期最終に当たる2016年中の成立を目指している。

決済サービスの多様化を規制が後押しするEU

 EU域内のリテール決済に関する法的枠組み「決済サービス指令」を改正する新指令(PSD2)が2015年11月、欧州連合理事会で採択された。EU加盟国は2年以内に国内法化しなくてはならない。

 改正は多岐に及ぶが、特に注目されるのは新たに「決済開始サービス(PIS)」と「口座情報サービス(AIS)」を「決済サービス」の定義に加え、規制の枠組みに取り込んだことである。PISは、ネットショッピングのサイトと支払人のオンライン銀行口座をつなぐ決済サービス。支払人がネットショップでPISでの支払いを選択すると、オンライン銀行口座からショップの口座に簡単に送金することが可能で、ショップ側も直ちに入金を確認できる。一方、AISは、利用者が持つ複数のオンライン銀行口座にアクセスして情報を集積するいわゆる「アカウントアグリゲーション・サービス」。いずれのサービスも近年利用が拡大しており、オランダでは、オンラインショッピング決済の半分以上が同国の代表的なPISであるiDEALで行われているという。

 PSD2は、これらサービスの提供者(「サードパーティ業者」)に対して決済の安全性を図るためのさまざまな規制を課すと同時に、彼らが銀行などの決済口座に円滑にアクセスすることを助ける規定も盛り込んでいる。たとえば、銀行などは、1)支払人のPISを通じた決済指図を客観的理由なく直接の指図と区別して差別的に扱うこと、2)これらのサービスの提供についてサードパーティ業者にわざわざ契約の締結を課すことを禁じられた。

 今回の改正によって、サードパーティ業者がEU共通のルールや基準で銀行の決済口座にアクセスできるようになれば、PISやAIS業務はEU全域で展開しやすくなると考えられる。一方で、PISを通じた決済が増えれば、銀行にとってはカード業務など既存のビジネスに影響が出る可能性もある。

米SEC、投資信託の流動性管理を強化する規制案を提案

 米証券監督委員会(SEC)は2015年9月、ミューチャルファンドやETFなどオープンエンド型ファンド(MMFを除く)の流動性管理を強化するための包括的な規則案を提案した。主な提案内容は、1)各ファンドに流動性管理プログラムの導入を義務づける、2)ミューチャルファンドに「スイングプライシング」の利用を認める、3)ファンド資産の流動性に関するデータやスイングプライシングなどについて開示・報告を義務づける、というもの。

 1)の流動性管理プログラムは、①ポートフォリオ資産を換金性によって6つに分類すること、②キャッシュフロー予測などに基づいてファンドの流動性リスクを評価すること、③3営業日以内に換金可能な流動資産の割合の下限を設定すること、などが含まれ、取締役会の認可と監視を義務づける。一方、2)の「スイングプライシング」は、ファンドに大量償還が発生した場合などに、償還した投資家にファンドの資産売却にかかるコストを転嫁するため、ファンドの純資産価値(NAV)を調整する仕組み。ファンドのNAV希薄化を防ぎ、それ以外の投資家を保護する。欧州市場では既にスイングプライシングを採用する有力ファンド会社も少なくない。概ね好意的に受け入れられているようで、業界ガイドラインが設定されている国もある。

 SECでは、本規則以外にも資産運用業に関連して、2015年12月に、1)投信やETFのデリバティブ利用に関する規則を提案しており、今後さらに、2)混乱時などの投資アドバイザーの事業継続計画に関する規則、3)大手の運用会社やファンドにストレステストを求める規則を提案することも検討している。これら一連の規制改革は投資家保護ばかりでなく、資産運用会社が金融市場にもたらすシステミック・リスクへの対応という側面も強い。

 米国では、主に金融安定監督評議会(FSOC)が金融安定性に対するリスクを特定する責務を担っている。FSOCでは2016年初めにも、資産運用業の商品や業務が金融システムに及ぼすリスクに関する分析結果を公表する予定であるが、SECの規制改革はこうしたFSOCの動きを先取りして補完するものとも考えられる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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