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お客さまと共に取り組む価値創造

2016年1月号

デジタルビジネス推進部 上級テクニカルエンジニア 幸田敏宏

事業環境が激しく変化する時代に企業が競争力を持ち続けるためには、既存事業だけでなく革新的な新規事業にも取り組む必要がある。スピード感を持った検討のためには企業の枠を超えたオープンイノベーション・共創の取り組みが重要である。

ユーザーの要望や共感に応えるというユーザー基点のイノベーションへの取り組みが注目を集めている

 良いモノを作れば売れる時代は終わった――最近、日本企業からこうした声を聞くことが多くなった。品質に優れた製品、たくさんの機能を詰め込んだハイスペックな商品を出せば売れる時代が終焉を迎える中で、多くの企業が旗印に掲げるのが、「イノベーションの創出」である。

 しかし、「イノベーション」と名のついた専任の部署を設立し、活動を始めても、すぐに壁にぶつかるといったケースが少なくない。何から始めればよいのかわからない、何を軸に検討すればよいのかわからないなど、理由はさまざまであるが、実際にイノベーションの創出に成功した企業はどれほどあるのだろうか。

 こうした中で、これまでのマーケット起点や技術起点のアプローチに代わり、この2~3年注目を集めているのが、「デザインシンキング」などのユーザーの真のニーズに着目した、ユーザー基点の取り組みである。海外では10年ほど前から注目を集めてきたが、日本でもようやく広く知られるようになってきた(※1)。

 「企業には、従来のように技術革新の追求に留まることなく、ユーザーの要望や共感に応える新しい価値・サービスを創出することが求められている」内閣府による『科学技術イノベーション総合戦略 2015』(※2)の中にもこうした記述がある。

 では、「ユーザー基点」ということはユーザーにニーズを聞いてまわればよいのか、というと、話はそう簡単ではない。特別なトレーニングを受けたユーザーでない限りは、従来の延長線上の発想にとどまり、斬新なアイデアは出てこないケースが一般的である。革新的な技術や製品であればあるほど、「この技術で何をしたいか?」とユーザーに問いかけたところで、その価値がイメージできず、返答に困ってしまうだろう。一方、企業側もニーズが不透明な技術や製品には投資しづらく、『鶏が先か、卵が先か』というジレンマに陥る。

 そこで、イノベーションの創出には、「ユーザー基点」と「技術起点」を融合させた新たなアプローチが有効と考える。つまり、ユーザー基点で課題・価値を定義する一方で、技術起点で解決方法を模索し、サービス像を具体化していく。この2つの接点にこそ、真のイノベーションの機会があるのではないか。

企業におけるオープンイノベーションの取り組みには課題がある

 近年の事業環境変化のスピードに耐えうるイノベーションを自社のみで生み出すことは難しい。そこで、ユーザー基点のアイデアや革新的な技術を社外から獲得するオープンイノベーションの取り組みが盛んになっている。中でも、ユーザーとともにサービス発想からプロトタイプ開発までを行うハッカソンや、スタートアップがピッチ(※3)を行うコンペティションが花盛りである。

 ハッカソンやコンペティションは、実際のユーザーを巻き込みコンシューマー向け(BtoC)のサービスを検討する上では一定の成果が上がっている半面、企業内(inB)や企業間(BtoB)サービスを検討する上ではいくつかの課題もある。

 まず、自社のコア事業に関わる課題は対象としにくいという点だ。コア事業にかかわる課題は社外秘の場合が多く、オープンな場に提示することは難しい。そのため、本当に解決したい課題ではなく、周辺課題の検討にとどまってしまうことが多い。次に、自社の強みに結びつかないアイデアになってしまう、という点も挙げられる。業務ノウハウ等の既存事業の強みはコア事業にかかわる課題同様、社外秘である場合が多い。暗黙知になっていることも多く、一部を切り出し、社外に提示することは難しい。そのため、着眼点は良いが自社の強みを活かせないアイデアになってしまう。

サービス利用者と提供者が垣根を越え、一緒に検討することで新たな価値を作り上げる「共創」

 これらの課題を解決し、なおかつ新規性に富んだサービスを検討するには、ある程度クローズドな場で、サービス利用者となる実際のユーザーと先進的な技術を保有する者が同じテーブルにつき、新技術の活用方法や新しいビジネスモデル、付加価値を模索する「共創」のしくみが有効である。

 その際は、実際にプロトタイプなどを作成し、試行を通じた検証を行うことが重要である。机上の議論だけではサービスの本当の価値を理解してもらうのは難しい。「百聞は一見にしかず」ではないが、ユーザーに実際に体験してもらうことで、ようやくサービスの価値をイメージし、具体的な検討に入るための土台ができ上がる。

 既に海外では、どちらかというとイノベーションとは縁遠く感じられる金融機関においても、共創の取り組みが行われている。たとえば米ウェルズ・ファーゴ銀行は2014年9月に「デジタル・イノベーション・ラボ」を開設した。先端技術が顧客との接点をどのように変えるのか、プロトタイプを実際に顧客に使ってもらい、フィードバックを受ける場を設けている。ラボにはウェアラブルデバイスやスマートTV、センサーなどを活用したデモアプリケーションが設置され、正式なサービスリリースに先んじた検証が行われている(※4)。

 NRIも2012年から「NRI未来ガレージ」という取り組みを推進している。ユーザー企業が持つニーズや業務ノウハウ・アイデアと、NRIが持つ先端ITの知見やリーン開発(※5)などの開発手法、コンサルティング能力を持ち寄り、クローズドな場でアイデアの企画から現場を交えた実証実験までを主導するものだ(図表)。参画企業は実践知としてのノウハウの蓄積と新技術を自社に適用した場合の具体的な効果を検証できる。また、これまでにない機能やサービスの実現につながる。新たなビジネスの種を模索する活動ともいえよう。

1) 例として米バンク・オブ・アメリカが2005年に、デビットカードの新規顧客獲得を狙い開始したサービス「Keep the Change」が挙げられる。対象のデビットカードを使い買い物などをした場合、支払いの1ドル以下の金額を繰り上げ引落し、余剰分を利用者の預金口座に振り込むサービスだ。貯金をしなければならないが、支出はドル単位で大まかに計算したい、というユーザーのニーズに着目したサービスで、利便性と共に意識せずとも貯金が出来るという効用が響き、1年間で250万人の新規顧客を獲得した。
https://www.bankofamerica.com/deposits/manage/keep-the-change.go
2) http://www8.cao.go.jp/cstp/sogosenryaku/2015.html
3) スタートアップが投資家に対し、資金の獲得を目的に、ソリューションのコンセプトやアイデアをアピールすること。一般的なプレゼンテーションと比較し、数分程度の短い時間で行われることが多い。
4) 同行の調査では若者層の73%が銀行ではなくGoogle、Amazon、Appleなどのサービスから満足を感じている、というデータがあり、他の業界のサービスも参考にしている。
http://www.finextra.com/news/fullstory.aspx?newsitemid=26525
5) リーン開発とは、アジャイル開発を実践するためのソフトウェア開発手法の一つ。米マサチューセッツ工科大学(MIT)がトヨタ自動社の生産方式を研究し体系化した、生産管理手法の一つであるリーン生産方式の考え方を、ソフトウェア開発に応用したもの。顧客への提供価値を意識しながら、ムダを省きスピード感を持ってその価値を実現する。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

幸田 敏宏

幸田敏宏Toshihiro Kouda

NRI IT Solutions America出向
上級テクニカルエンジニア
専門:顧客との共創によるサービスデザイン

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