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店頭デリバティブ清算機関の複数並立による影響

2016年1月号

NRIアメリカ リサーチアナリスト

清算機関の複数並立は米国において金利スワップの取引価格に影響を及ぼした。今後清算集中が導入される欧州でも同様の可能性があり、清算機関の選択においてはトータル・コストの十分な把握、評価が求められよう。

 金融危機を受けて店頭デリバティブ取引に中央清算機関(CCP)の利用義務づけ(清算集中)がグローバルに進められている。危機以前はLCH.Clearnet(以下、LCH)1社であった店頭デリバティブ清算事業には、欧米日の大手取引所グループが傘下の上場商品取引のCCPを活用して相次いで参入した。各CCPは多くの利用者を取り込むために提供サービスの差別化を図っている。例えば、特定のバイサイド・セルサイド等の参加者をターゲットとするもの、他の店頭デリバティブや先物とのクロスマージンを提供するもの、適格担保の多様化やレポ取引の担保を店頭デリバティブ取引の担保として再利用することを可能とするもの等である。

 相次ぐ参入や差別化の取り組みはCCP間のサービス競争を促進し効率を更に高めることが期待される。他方、同一商品に複数のCCPが並立することによる影響が意識されている。実際、米国では、サービス形態が異なる2つのCCPが並立することにより、同一の金利スワップ商品において取引価格が開くという現象につながった。

米国におけるCMEとLCHの価格スプレッド

 米国における金利スワップ取引清算では、世界最大手のLCHと後発のCMEの2つのCCPが、清算集中の導入前から主にディーラー間取引で用いられていた。その中で清算集中が2013年3月に導入され、さらに顧客取引(※1)の一部にCCPの利用が義務付けられた。結果、米国市場における金利スワップの清算取引量は2015年11月現在1週間あたり約3兆ドル(※2)となっている。

 顧客取引の清算集中が始まった当初は、複数の清算機関が並立するようになっても金利スワップ取引価格には特に大きな影響もなく処理されていくように見られた。しかし2015年3月頃を境として、同じドル建て10年物金利スワップであっても、CMEで清算される取引とLCHで清算される取引の間の価格スプレッドが拡大し、2015年5月には2bps以上となる事態が発生した。

 その理由としてCCPの参加者層の違いが指摘されている。CMEは先物取引とのクロスマージンサービスや社債を含む多様な適格担保要件を提供することで、清算集中の導入前から特定のバイサイドに好んで利用されてきた。清算集中後も、多くのバイサイド(顧客)は自身が行う金利スワップ取引の清算をCMEで行うことを希望した。一方、バイサイドの取引相手となったディーラーは、ヘッジ取引の清算については長らく大手ディーラー間取引で用いてきたLCHで行うことを継続した(※3)。

 顧客取引とヘッジ取引それぞれに異なるCCPを利用することは、2つの異なる証拠金および破綻基金の管理をディーラーに強いる。また、各CCPにおいて偏ったエクスポージャーが積み上がることによりネッティング効率を著しく低下させる。とりわけ、バイサイドの取引が多く、固定金利支払い/変動金利受取りに偏りがちなCMEにおいてネッティング効率の低下が大きく、CMEがディーラー等に要求する証拠金額などが急激に高くなった(※4)。そのため、ディーラーはCMEで清算する顧客取引の価格を引き上げざるを得なくなり、結果当該価格スプレッドの拡大へつながってしまったようである。

 上記の状態が続けば顧客離れにつながりかねないためCMEは2015年6月に証拠金計算方法の見直しを図った。また、CMEにおける顧客取引への偏りが減り、LCHにおける顧客取引の割合が増加したことなどから、スプレッドは徐々に縮まった。こうして2015年8月下旬には従来の標準スプレッドに戻りつつあると見られた。

 しかしながら、2015年9月初めより価格スプレッドは再度上がり始め2015年11月にはドル建て10年物金利スワップの価格スプレッドが3bpsまで拡大してしまっている。CCP間の価格スプレッド拡大の要因としては顧客取引とディーラー取引の需要と供給のみならず、破綻基金、適格担保、ネッティング効率、クロスマージン、当初証拠金における担保の効率性、当初証拠金要件などが存在するため、実際の原因判定は容易ではない。

欧州におけるCCP-EurexおよびLCH

 欧州における店頭デリバティブ取引の清算集中の導入は今のところ、2016年第2四半期と見込まれている。欧州の主要CCPとなるLCHおよびEurex Clearingは清算サービスを拡充している。とりわけ後発となるEurex Clearingはクロスマージンの提供のみならず、破綻基金について株式デリバティブ、上場金利デリバティブ、店頭金利スワップ、レポの4つの市場における基金を統合することにより、基金差入額の約30%引き下げを実現している。加えて、Eurex Clearingは同社が扱うレポ市場(Eurex Repo)および店頭デリバティブ市場(EurexOTC Clear)の参加者が、資金提供側としてGC Pooling(バーチャル担保プールを用いたレポ)にて受領した担保を店頭金利スワップ取引の当初証拠金担保として再利用することを可能としている。

 これらEurexにおけるサービスはセルサイドにおける清算コストの大幅な削減につながることが期待され、2016年にようやくクロスマージンを開始する予定のLCHに対する差別化策になると見受けられる。またEurexはバイサイド向けのサービス強化にも注力しており、ディーラー間取引の清算を中心としてきたLCHと比べて、CMEと同様に、清算利用者の属性にも相違が出てくる可能性があると見られる。

 上記のとおり欧州においては今後、清算集中の導入に伴い複数のCCP並立とサービス競争が一層激しくなるとみられ、米国での先行事例から、市場では欧州でも異なるCCPを利用する市場参加者間での価格スプレッドの発生を想定する声が多い(※5)。したがって、清算集中に伴い清算機関の利用を始めたり増やしたりする市場参加者、とりわけバイサイドには、利用する清算機関の選定において、クロスマージンの提供など証拠金や破綻基金負担の大小に加えて、取引スプレッドなど、トータル・コストの十分な把握、評価が求められるであろう。

1) ファンド等の機関投資家(バイサイド)とディーラーの取引。
2) CFTC Weekly Swaps Report(Release date 11/18/2015)
3) 同社を利用する取引の流動性は高い状態が保たれた。
4) 従来もCME清算取引とLCH清算取引の間で価格スプレッドは存在したが、平均して約0.15bps程度であったため、この程度のスプレッドについてはディーラー側で吸収し顧客取引の価格への反映は行ってこなかった。
5) 実際にどの時点で、何を要因とし、どの程度のスプレッドとなるかは、清算集中開始後に明らかになっていくであろう。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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