1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. リテールビジネス
  6. 求められるキャッシュマネジメントの高度化

求められるキャッシュマネジメントの高度化

2016年1月号

証券ソリューション事業九部 グループマネージャ 荒巻奈留美

金融機関のキャッシュマネジメント業務ではシステム化の対応が遅れている場合が多い。自社の資金管理のほか、仕組み債など金融商品のキャッシュフロー管理や規制対応のためにも、管理の高度化が求められている。

企業の家計簿管理ソフトであるキャッシュマネジメントシステム

 「300万人が選んだ全自動家計簿・・・」このようなキャッチフレーズを耳にする機会が多くなっている。家計のキャッシュイン・キャッシュアウトを口座残高と連動させて管理するもので、現金やクレジット、電子マネーという決済手段を含めて管理することも可能だ。企業が行うキャッシュマネジメントも、基本コンセプトは家計と同じである。企業における資金の過不足を把握し、不足の場合は資金を手当てし、余剰の場合は運用を行う。これに加えて、本社と支店などの個別管理や、グループトータルで管理を行う等、さらに高度な管理をする事例もある。

 金融機関におけるキャッシュマネジメントは、筆者のヒアリングベースではあるが、想像するほど先進的なシステムで運用されているケースばかりではない。管理が複数システムにまたがっていたり、人手によるフォローが介在するといったことが障害となっているようである。前者のケースでは、各部署の個別最適でシステム構築や外部システムを導入したり、金融機関同士の合併による類似システムの統合に時間がかかっているという状況がある。後者では、システム全体の投資額や予算配分が少ないことから、システムがカバーする業務の割合が小さく、どうしても人手による管理の割合が増えていく、という事情が背景にある。

インフラ整備が進まないキャッシュマネジメント業務

 このように、金融機関でキャッシュマネジメントを含む決済業務に対するインフラ整備が積極的に行われていない理由には、以下の2点が考えられる。

 1点目はその金融機関におけるコストセンターという立ち位置である。社内の予算配布や、ITリソースの割り当ては、プロフィットセンターに優先的に配布される。フロントからの要望に応えるため、決済業務を司る部署では、システム体制が整備されていなくても、派遣社員等の要員増強を行うことなどにより、日々の決済を完了させる。トラブルが起きなければ、社内では問題視されない。

 2点目は、商品の多様化や、決済の複雑化による業務の細分化や専門化が進み、会社として業務の実態が把握しにくい点が挙げられる。決済業務の実態を理解している経営層は、決して多いとは言えないだろう。資金決済がどのような金融取引に付随するものか、決済相手が誰か等の発生要素により、様々な業務フローや顧客調整、決済方法が求められる。具体的には、株式や一般債、国債で決済内容の事前確認方法や決済方法が異なることや、顧客の要請により決済の口座を使い分ける、といったことが通常業務として存在し、業務を複雑化させている。これらは、業務を属人化させることに繋がり、直接の上司でも、しっかり理解できているか不安だと言う声が多く聞かれる。

 しかし、決済に関する業務は今後ますます複雑性が増し、決済時限の短縮化等、スピードも要求されていくと考えられる。人手に頼り、状況が把握されていない現状は、可視化の観点において、潜在的なリスクが大きいと言えよう。進められるところからインフラ整備を含めた見直しを行うことが必要だろう。

仕組債等の富裕層向け商品の拡充を阻む複雑なキャッシュフロー管理

 キャッシュマネジメントと言えば社内の資金管理というイメージがあるが、金融機関の場合は扱う商品が金融商品であることから、商品に関連したキャッシュフローの複雑かつタイムリーな管理も必要となる。

 その一つの例が仕組債である。プライベートバンクや銀証連携という言葉が聞かれるようになって久しいが、このようなビジネスでは、従来型の商品ではなく、個別のニーズにあったオーダーメード型の仕組債をはじめとする商品やサービスを提供することが多い。

 このような商品は、販売した後のキャッシュフローの管理が複雑である。毎日の利金・償還金計算に加え、オプショナル条項があるため複数の判定条件によってキャッシュフローが変わる商品も多く、これをモニタリングし適切な判断をしなければならない。一時的な資金手当が必要になることもあり、高い専門性が要求されるのである。また海外休日の突然の変更についても、常にモニタリングを行い、自社の取り扱い銘柄のキャッシュフローに影響していないかを見極めることが必要である。日本の投資家に向けた金額計算や決済日管理には精緻さが求められるため、負荷が高い業務となる。

 こうした業務も手作業で行われる部分が多く、複雑で手間がかかるキャッシュフロー管理業務がネックとなり、取扱ボリュームの拡大や、商品の多様化などのサービス向上ができないケースが数多く見られる。このような管理については、システム化を実施することで業務を効率化し、取扱量や商品種類の拡大や、各顧客それぞれに見合った質の高いサービスの提供を目指すべきであろう(※1)。

規制強化によっても求められるキャッシュフロー管理の高度化

 もう一つキャッシュマネジメント業務に大きな影響を与えるのが規制である。バーゼルⅢでは、自己資本に対する規制に加え、流動性に関する2つの指標の導入を定めている。1つ目の流動性カバレッジ比率(LCR(※2))は30日間のストレス下で流出する資金に対する流動性の確保を示す指標で、2つ目の安定調達比率(NSFR(※3))は1年長の中長期的な資金調達に関する指標である。現在段階的に適用されているが、これらの比率のモニタリングにはキャッシュフローを管理するシステムが欠かせないと考えられる。

 事業環境は絶えず変化している。取扱商品や取引種類が多様化し、取扱ボリュームは増加する。金融危機以降、規制がより強化され、今後も安全性や安定性の要請は高まるものと考えられる。決済時限も短縮化し、キャッシュフローの管理業務はより複雑化していく傾向にある。業務がシンプルであった時代の発想のままでは、リスク管理も覚束なく、サービスの拡張性にも課題があることを、企業全体として理解する必要がある。今後のキャッシュマネジメント業務全般について、ハイレベルな視点で見直す機会を設けてみてはいかがだろうか。

1) NRIでは、資金管理や、店頭デリバティブや仕組債のキャッシュフロー管理を同時に取り扱うことが可能なソリューション「VOLCS」を提供している。
2) LCR:Liquidity Coverage Ratio
3) NSFR:Net Stable Funding Ratio

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

荒巻奈留美

荒巻奈留美Narumi Aramaki

KDDIデジタルデザイン(株)出向

注目ワード : BIS(国際決済銀行)