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量的・質的金融緩和の持続可能性

2016年1月号

金融ITイノベーション研究部 主任研究員 竹端克利

日銀による量的・質的金融緩和が3年目を迎える中で、「いつまで国債を買い続けられるのか」という持続可能性の問題が意識され始めた。今後、日銀が政策に関する説明を行う際は、「効果があること」に加え「持続可能であること」も説得的に示す必要があり、コミュニケーションの面でも難しい舵取りが求められる。

3年目を迎えて強く意識され始めた問題:「日銀はいつまで国債を買い続けられるのか?」

 日銀が「量的・質的金融緩和」(以下、QQE)を開始してから3年目が経過しようとしている。「戦略の逐次投入はしない」という方針の下、「2年程度で2%程度のインフレ目標を達成する」という「短期決戦型」の政策として導入されたQQEだが、ここへきて「QQEの長期化」が意識されるようになってきた。理由は、インフレ率が目標の2%から一貫して遠ざかり、目標達成の時期が数回にわたって後ろ倒しされてきたためである。

 さらに最近では、「QQEの長期化」に関連して、もう一つの問題も指摘されるようになってきた。それは、「日銀はいつまで国債を買い続けられるのか」という持続可能性の問題である。日銀は現在、長期国債の保有残高が年間80兆円ずつ増加するペースで買入れを続けているが、償還を考慮した長期国債の新規発行額は年間30兆円程度。発行量以上に日銀が買い上げるため、いずれ「限界」が来るだろうという訳だ。

 もっとも、大量の国債を保有しているといっても、発行残高全体に対するシェアは30%強であり、100%に達するのはまだ遠い先ではないかという見方もある(※1)。しかしながら、「100%未満だから問題ない」と考えるのは次の理由から適切ではない。第1に、日銀が過度に国債を買い入れることで、市場機能が低下してしまう。これは、QQE導入以降の比較的早い段階から、債券市場参加者を中心に指摘されてきた問題である。第2に、政策に対する信認の問題である。仮に市場参加者から「この政策は続けられない」と認識されてしまうと、当初の意図とは逆に長期金利が急騰するなど、市場を不安定化させてしまう可能性がある。この点は、日銀の金融政策決定会合においても同様の指摘がされており、公表された議事要旨(2015年1月、2月、3月開催分)を読むと、少なくとも2015年の早い段階で国債買入れの継続性に関する指摘(※2)がなされている。さらに、2015年9月と10月の会合では、ある委員によって「国債購入の持続性を高めるため」に、毎月の国債買入れ減額が提案されている(※3)。

 第3に、民間金融機関の担保需要や生命保険会社のALMなどを考慮すると、現実問題として民間セクターが国債保有をゼロにすることは不可能であるという見方である。この点については、IMFのエコノミストや日本経済研究センターが興味深い予測を発表している(※4)。彼らは、銀行の担保需要や生命保険会社のALMなどを加味した「日銀による国債購入可能額」を推計している。IMFの推計では2017年から18年、日経センターの推計では2017年前半には日銀による国債購入が限界に達するとされている。前述の2点は定性的な議論だが、3つ目の点は、遠からず買入れの限界を迎えることを定量的な根拠でもって示されている分、より現実味を帯びた問題として認識せざるを得ない。QQEの「長期化」と「持続可能性」。2015年は、これらの問題が本格的に意識され始めた年であった。

2016年度の展望:インフレ率が目標に向かったとしても・・・

 4年目を迎える2016年度以降は、どのような展開を辿るだろうか。まず、日銀の見通しとは逆に、依然としてインフレ率が目標から乖離し続ける場合を考えよう。自然に考えると追加緩和が必要になるだろうが、今のように「量」を重視する枠組みを前提で考える限り、国債以外に残された手段はあまり多くない。ETFやJ-REITは増額可能という見方もあるが、これらは元々「量」を追求する手段として位置付けられていた訳ではないし、QQEの波及チャネルである実質金利にどう効くかも判然としない。国債以外の債券のうち、社債と外債を除いた「準ソブリン」を考えると、地方債や政府関係機関債が浮上してくる。ところが、これらの債券の2015年6月末時点における発行残高はそれぞれ74兆円と77兆円である(※5)。合計でも150兆円程度であり、規模の面から早晩「天井」に達する可能性が高く、大きな期待はできない。したがって、仮に追加緩和が検討される場合には、「量」を重視する枠組みそのものが見直される可能性があると思われる。

 逆のケースとして、日銀の見通し通りにインフレ率が2016年度後半にかけて2%に向かっていく場合はどうか。目標達成が見通されるのだから、いわゆる「正常化」に向けた議論に軸足が移ると見られがちだが、残念ながらその可能性は低いと考える。なぜならその翌年度、つまり2017年4月に消費税の増税が控えているからである。前回の増税(5%→8%)の後に、2014年4-6月の実質GDP成長率が▲7.7%(年率)まで落ち込むなど、経済に深刻なダメージを与えたことは記憶に新しい。このため、次に増税(8%→10%)した時も、景気の後退は避けられないと見るべきであろう。

 そうだとすると、仮に2016年度後半にかけてインフレ率が目標に向かったとしても、近い将来の景気後退が予想される状況で、日銀が「粛々と」正常化に軸足を移し始めるのは現実的ではないように思われる。2016年度後半時点においては、少なくとも2017年4-6月のGDP統計の発表を待つなど、増税による経済への影響を見極めたいという判断になるのではないか。

 ただし、この場合悩ましいのは、増税による景気への影響を見極めている間に、IMFや日経センターが指摘する「買入れの限界に到達する期間」に差し掛かってきてしまう点である。結局、2016年度中にインフレ率が日銀の見通し通りに推移したとしても、政策の軌道修正を検討せざるを得なくなる可能性が高いと思われる。

 金融政策決定会合の議事要旨を読む限り、本稿執筆時点(2015年11月末)では「政策の持続可能性」を問題視している政策委員は限定的と見られる。しかしながら、本稿でみたとおり、4年目を迎える2016年度においてはより現実的な問題として顕在化する可能性が高い。これまで日銀は、長期的には持続が難しいと思われる規模の買入れ額を示すことによって、「短期決戦」に対する日銀の「本気度」や、政策効果の確からしさを示してきた面がある。しかしながら今後は、追加緩和にしろ、政策の軌道修正にしろ、日銀としては「効果がある」ことを説明するだけでは不十分であり、「持続可能である」ことも同時に示していく必要があるだろう。これまでとは異なるロジックで市場とコミュニケーションをとる必要が出てくるだけに、日銀にとっては難しい「節目」を迎えることになりそうだ。

1) 2015年11月時点における長期国債発行残高に占める日銀保有分のシェアは33%である。
2) 2015年の1月20、21日開催分、2月17、18日開催分、3月16、17日開催分の議事要旨には、「複数の委員は、国債の買入れを継続することは技術的には当分可能であるとみているが、先行きにおける持続可能性についても留意しておくことが必要であると述べた」と記載されている。
3) 2015年の9月14、15日開催分、10月6、7日開催分の議事要旨には、「ある委員は、日本銀行の国債購入に限界が生じると意識されれば、タームプレミアムが大幅に上昇するリスクがあり、国債購入の持続性を高めるためにも、当面の購入継続方針の表明とともに、買入れ額の減額措置を行う必要があるとの認識を示した」と記載されている。
4) S. Arslanalp & D. Botman(2015)“Portfolio Rebalancing in Japan: Constraints and Implications for Quantitative Easing”(IMF Working Paper)、岩田一政・左三川(笛田)郁子・高橋えり子(2015)「日本銀行の量的・質的金融緩和(QQE)政策、2017年半ばにも量的限界に」『2015年度金融研究班報告 概要』(日本経済研究センター)
5) 日本銀行「資金循環統計(2015年6月速報値)」より。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

竹端克利

竹端克利Katsutoshi Takehana

金融イノベーション研究部
上級研究員
専門:マクロ経済分析、金融政策分析

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