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中国株式市場乱高下の元凶

2015年12月号

NRI北京 金融システム事業部 上級研究員 孫錫寧

中国株式市場の乱高下では、証券当局の金融イノベーションに対する規制が未熟であり、政策で市場をコントロールしてきた管理手法が逆に市場を制御不能に陥らせてしまったことが大きな要因といえよう。

中国株式市場の乱高下

 今年6月に始まった中国の株価暴落は衝撃的であった。代表的な上海総合株価指数は、6月12日に2008年1月以来の最高値である5,166を付けた後、8月26日の2,927まで急落、下げ幅は43.4%となった(図表1参照)。

 株価暴落により「中国発世界同時株安」、「中国株式災害」等が叫ばれ、全上場会社の半分以上にあたる1,439社が株式売買の一時停止を申請するとの異常事態となった。政府は7月以降様々な株価下支え策を相次いで打ち出し市場に介入したが、効果は薄く、株価下落が続いた。

 「株価乱高下」の元凶を究明しようと当初から国内外の専門家が一体となって、包括的、マクロ的、政治的な角度から討議が行われた。状況が少し落ち着いた現在、金融とITの観点から客観的に振り返ることにする。

 今回の株式市場の上昇局面は不動産投資規制で余剰資金が株式市場に回ったことが原因であるという観測が一般的であった。しかし、市場好転の起点14年12月10日(指数2,940、時価総額22.13兆元)、株価ピーク時15年6月12日(同5,166、41.09兆元)、暴落後8月26日(同2,927、23.72兆元)の3時点のデータを比べてみると(図表1)、20兆元弱の時価総額の変化は、資金のレバレッジが相当効いていたことを抜きにしては考えられない。

 証券監督管理委員会(証監会)は9月2日、システムベンダー3社に対し、HOMS(※1)等の場外配資(※2)システム(後述)を提供したとの理由で、また9月10日には大手証券四社に対し、それらシステムの利用禁止令を無視して継続して使用したとの理由で、それぞれへの処罰を公表した。ここで乱高下を解明するキーワードとなるのが「場外配資」、「HOMSシステム」、「レバレッジ」である。

イノベーション業務に対する規制の未熟が明らかに

 中国では、2010年に株価指数先物と信用取引(中国では「融資融券」)が導入された。「①口座開設2年以上、②50万元以上の資産を持つ、③レバレッジは4倍まで」との条件のもと、投資家は証券会社から通常レバレッジ1倍で信用取引サービスを受けられる。導入当時は株式市場の低迷の中であまり注目されなかったが、理財商品に対する規制を受け不動産投資の余剰資金が徐々に株式市場に回ってきた2014年11月ごろ、「場外配資」との相乗効果でレバレッジが急拡張した。

 「場外配資」とは、元々存在する民間融資会社が株式購入のための資金を融資するという民間信用取引である。その特徴は資金融資だけで空売りができないことである。株式市場好転の中で、条件の厳しい証券会社の信用取引を利用できない、または利用したくない投資家はこの「場外配資」に目を向けた。

 中国全土に1万社ほど存在するといわれる「場外配資」を提供する融資会社は、HOMS等のシステム・プラットフォームを利用して、証券会社に開設された自らの口座の下に、証券会社に知られることなく顧客用の子口座を作り、投資家にレバレッジを提供してきた。これらの融資会社の貸出金利は年間20%前後であり、委託保証金(担保)の70%~80%まで株式の含み損が拡大すると顧客に強制的に損切りさせていた。融資会社が貸出金や利息を取り損ねることはないが、投資家が全ての損失を被る仕組みといえる。

 図表2は、中国株式市場の乱高下の要因を整理したものである。「場外配資(HOMS)」と「強制決済・配資崩壊」というハコを除けば、中国の株式市場も一般的な信用取引や指数先物のある株式市場と同様であった。市場好転時には、投資家がレバレッジをかけて収益を拡大すると同時に、株価も上昇し、相場はさらに上昇する。一方、相場下落時には、追証解消のため処分売りが加速し、レバレッジも縮小するため、株価下落が進む。要は、信用取引とレバレッジは相場と連動しながら調整していくのである。

 今回の場合、「場外配資(HOMS)」と「強制決済・配資崩壊」の存在が、レバレッジの急拡大・縮小、大量の指数先物売り等につながったことが暴落の元凶だと指摘されている。場外配資の強制決済により株が売られて株価の下落が進むと、株を売ろうとしても売れず、指数先物売りを先行させざるをえなくなり、さらに株安が加速し、一段と強制決済が増えるという制御不能の悪循環に陥ってしまったのである。

 証券当局は、当初は「場外配資(HOMS)」を利用したレバレッジの拡大による株価高騰を黙認していたが、後にバブル化しつつある市場を規制しようとした時には、場外配資の全容を把握することができなかった。また、レバレッジをかけた信用取引と指数先物売りの相乗効果で株価が連鎖的に暴落することに対する認識・理解も十分でなかった。自信を持って行った「政策調整」も「市場介入」も的を絞れず、金融イノベーションに対する規制が未熟であることが明らかになった。

 最近また、大手証券会社の経営陣が事情聴取され、乱高下の原因究明が簡単に終わる気配はなさそうであるが、今回の暴騰・暴落で、イノベーションをしっかり解明した上で規制しなければ中国株式市場の将来がないと有識者が認識するようになった。今後の改善に期待したい。

1) HOMSとは、中国金融システムサービス提供会社である恒生電子社が開発した「恒生発注管理システム」の略称で、もともとはファンド向けに開発されたシステムである。その特徴は2つ。
①ファンドが管理している資産を分散し、複数のトレーダーに任せることができる。これにより、トレーダーの取引成績を評価でき、リスクコントロールもできる。
②口座を柔軟に分割できる。これにより、ファンドは自身が発行した複数の商品の管理責任を、複数のトレーダーに振り分けることができる。
2) 「場外配資」とは、民間の融資会社が購入株式を担保として一般投資家に株式購入のため資金を融資するという民間信用取引である。高いレバレッジをかけて信用取引ができるという特徴(功罪)がある。融資会社が証券会社ではないので、証券会社が行った信用取引(融資&融券)業務と区別するために「場外配資」と称す。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

孫錫寧Xining Sun

NRI北京 金融システム事業部
上級研究員
専門:中国証券IT

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