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保険業界におけるデジタルマーケティング

2015年12月号

保険ソリューション事業本部事業企画室 上級コンサルタント 山崎道雄

保険販売における申込み・契約プロセスのデジタル化が展開されているが、インターネットによる直販の市場シェアはいまだ低い。情報洪水時代における若年層を中心とした消費者の行動は変化しており、保険会社は顧客接点とロイヤリティの創造のために、デジタル情報の活用を求められている。

保険販売プロセスのデジタル化

 景気回復の見通しが定まらない中、長らく続いた不況が植え付けた生活防衛意識と「メリハリ消費」の傾向から、保険にかけるお金は極力減らしたいという消費者のマインドは引き続き根強いと想定される。既存大手と比較して保険料の価格競争力に優れるダイレクト損保やネット生保にとっては顧客獲得の好機が継続するものの、市場の競争は激化(※1)しており、その市場占有率はいまだ低く(※2)、収益性向上のための事業・販売戦略が必要となっている。ダイレクト損保やネット生保が代理店や営業職員を介さず、インターネットを経由した直接販売により申込み・契約プロセスのデジタル化を展開する一方で、既存大手を含めた保険業界は、情報洪水時代となったデジタル社会において、保険という目に見えない商品をどのように消費者に訴求していくかという壁に突き当たっている。

情報洪水時代における若年層を中心とした消費者の行動の変化

 モバイルデバイスやソーシャルメディアの普及により、デジタルネイティブ世代である若年層は常に人とつながることで大量の情報を手にし、購買行動に向かう瞬間(※3)に不特定多数のユーザー評価を信頼する傾向がある。自分で選びたいという意識は持ちつつも、氾濫する情報の中、自分にあった選択肢をすすめてほしいと感じている(※4)。また、ライフスタイルの変化により若年層を中心とした消費者の求める保障ニーズは多様化しており、ニーズ顕在化のタイミングが捉えにくく、顧客接点が持てなくなり、若年層の保険離れが進んでいる。加えて、保険という商品は、効用を体験し価値を認める瞬間が保険金の支払や付帯サービスを受けるタイミングとなるため、一般消費財とは違い、購買の検討段階において商品の価値や違いを認識することが難しい。このような特性からも、購買行動のきっかけとして、会社・ブランドの認知、知人などによる紹介、ユーザー評価、専門家の意見などが重視される傾向が強くなる。

 保険という商品のマーケティングにおいては、保険本来の価値である保障・サービス品質の訴求もさることながら、ソーシャルメディアの口コミや検索履歴、訪問したサイトや購買履歴など、膨大に蓄積される消費者の購買行動にかかるデジタル情報を活用した潜在顧客へのアプローチや顕在化したニーズの刈り取り、既顧客とのエンゲージメントの深耕が重要性を増している。

進展するアドテクノロジー

 保険会社は従前より、各種媒体へのマス広告等により認知向上を図り、新規顧客のニーズや他社からの乗り換えを喚起してきた。近年のスマートフォンの普及による消費者の情報接点・発信機会の拡大やテクノロジーを活用した広告配信(アドテクノロジー)の進展により、ターゲットを絞った有効なニーズ喚起、きっかけ作りによる顧客接点の創造が可能な環境が整いつつある。

 広告会社や検索サイトは、複数のデータソースをクッキー(サイトがユーザーのWebブラウザに一時的に保存する情報)などにより追跡(トラッキング)し、潜在顧客を含めたユーザーの購買行動のデータを分析することでインターネット広告の配信に活用する、DMP(Data Management Platform)と呼ばれる仕組みを用いたサービスを提供し始めている。これを利用することで、例えば、自社の優良(ロイヤル)顧客と同様の行動傾向のある消費者に対して広告を配信するといったことが可能となる。このような仕組みでは個人情報を使用することなく、あくまでユーザーの匿名性を保った状態でアプローチが行われるが、ユーザーはあたかもパーソナライズされたかのような感覚になる。Google(※5)ではユーザーが訪問しているサイトのタイプから年齢・性別を類推し、ターゲティングを行うサービスを展開している。また、あるメディアのネット広告で接触したユーザーに再度、検索広告やディスプレイ広告を配信するリターゲティングと呼ばれる手法によって、顕在化したニーズを刈り取る施策も普及している。

保険会社に求められるデジタル情報の活用

 アドテクノロジーは、保険会社にとって顧客接点を増やす機会となり得るが、顧客ターゲットや販売する保険商品、申込み・契約手続きを行うチャネルにより、その有効性は異なると考えられる。

 自動車保険など、契約期間が短期(1年毎に継続手続きが必要)で、比較的分かりやすく、手続きもしやすい商品を、中年男性をターゲットにインターネットで販売するケースでは、アドテクノロジーの親和性は高いと考えられる。手続きが簡便であることも手伝って、顧客のライフログを活用した頻繁な広告の露出は、他社からの乗り換えを喚起するのに有効だろう。

 一方、生命(定期)保険など契約期間が長期で、商品内容や手続き(告知記入など)が複雑な場合は、より丁寧な対応が求められよう。アドテクノロジーの活用により若年層などとの顧客接点を獲得するとともに、その後の商品説明・相談および申込み・契約手続きのサポートや契約後の顧客サービス、商品のクロスセルなどのロイヤル顧客化までを考慮し、顧客の購買プロセスを設計する必要がある。例えば、生命保険でも比較的分かりやすい商品についてはネットの手続きにより刈り取り、複雑な商品についてはコールセンターや対面チャネルに連携する。さらに、ソーシャルメディアなどを活用し、既顧客との密接なコミュニケーションを維持することで、他の商品のニーズを捉える。

 そのためには、広告会社や検索サイトが提供するサイト訪問履歴やソーシャルメディアなどの外部データをもとにしたサービスを活用するだけではなく、外部データ(※6)と自社サイトのアクセス履歴、代理店・営業職員・保険ショップなどの販売チャネルやコールセンターのコンタクト履歴、基幹システムの顧客・契約情報、保険金支払情報などの内部データを融合するデータ管理・分析システムを構築することが重要だろう。その上で仮説検証を繰り返し、顧客の購買プロセスを設計し、自社の事業・販売戦略を策定することがビジネス成功の鍵となる。保険会社はプライシング(保険料率の算定)のみならず、デジタルマーケティングによる顧客接点とロイヤリティの創造のための「データ企業」への変革を迫られている。

1) 大手損害保険各社は自動車保険の保険料について、数年続いていた値上げを見送り、一部の会社では30~59歳のドライバーや普通・小型乗用車での契約について、値下げに踏み切った。また、生命(定期)保険においては、ネット以外の販売チャネルをもつ外資系などがネットに参入し、非喫煙健康体割引などでネット生保より安い保険料設定をしている。
2) 2014年度の市場シェアはダイレクト損保(9社)が元受正味保険料ベースで7.2%、ネット生保(専業2社)が保有契約件数ベースで0.18%となっている。(各社決算および協会統計による)
3) 2005年にP&Gが提唱した消費者の購買行動モデル(FMOT(First Moment of Truth):購入決定の瞬間、SMOT(Second Moment of Truth):体験し価値を認める瞬間)に、2011年にGoogleがZMOT(Zero Moment of Truth):購買行動に向かう瞬間)という概念を加えた。
4) NRI「商品購入の際の情報収集に関するWebアンケート調査」(2012年11月)および「日常生活に関するアンケート」(2014年12月)
5) Googleは米国において保険比較サイト数社と提携し、2015年3月より自動車保険の見積り比較サービスを開始している。
6) 本年9月3日には個人情報保護法改正法案が成立し、「匿名加工情報」の第三者への提供にかかる規則が整備され、外部の購買履歴などのビジネスでの活用が可能となる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

山崎道雄Michio Yamasaki

保険ソリューション開発一部
上級コンサルタント
専門:保険IT

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