1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. バンキング
  6. 銀行におけるファンド投資の課題とリスク管理の高度化に向けて

銀行におけるファンド投資の課題とリスク管理の高度化に向けて

2015年12月号

資産運用サービス事業三部 上級システムエンジニア 馬場崇充

銀行のファンド投資においては直接投資と比べリスク管理レベルが低く、データ品質、データ管理方法などにも課題があり、業務負荷が大きくなっている。銀行はファンド投資を効率的に管理するためにシステムインフラを整備していくことが必要である。

銀行のファンド投資における課題とは

 昨今の低金利環境をうけて、収益多様化や分散投資効果を目的とした銀行のファンド投資が拡大している。ここ数年でファンド投資が約2倍に増加し、私募を中心とした国内籍投信だけでなく外国籍投信への投資も増えている。銀行は伝統的な国内クレジット投資だけではなく、ファンドを通じ、株式やREIT、外国資産といった様々な資産クラスへのアクセスを行っている状況だ。実際、いくつかの銀行に対するヒアリングにおいても、ファンドへの投資規模や投資本数が2倍に増えたという事例を確認している。

 ファンド投資は直接投資とは異なり、銘柄選択やポートフォリオ管理は基本的に資産運用会社に委託され、銀行では行われない。そのため、近年志向されるリスク管理の高度化を考える上で、銀行が直接投資とは異なるファンドという投資形態を取る際には、以下の3つの業務課題を抱えていると言える(※1)。

 1つ目の課題は、そもそも銀行内のリスク管理において、現状では直接投資に比べファンド投資の管理が脆弱であることだ。より厳格なリスク管理のためには、銀行自身がファンドのルックスルーを行い各種リスクの把握に努める必要がある。特に国や発行体に関するエクスポージャの即時把握を求める経営陣も増えていると聞く。しかし実際のところ、ファンドの中身のデータは四半期の自己資本比率計算を行うために資産運用会社から受領しており、その際に確認するだけ、といった銀行がほとんどだ。最悪3か月前のエクスポージャしか把握できず、これでは適切なリスクヘッジの実施は困難である。

 2つ目の課題は、資産運用会社から受領するファンドの中身のデータについて確認業務の負荷が高いことだ。これは資産運用会社からのデータの品質が均一でないことにより発生する。資産運用会社が提出するファンドの中身のデータは、業界における標準が存在しないために、各社それぞれのフォーマットやデータ定義により作成されたものとなっている。そのためデータを受領する銀行では、データを横並びに比較し、各資産運用会社のデータ定義等の差による内容の相違が出ていないかチェックを行っており、多大な労力が掛かっている。前述の課題にもあったデータ受領頻度が少ないのは、このデータ確認業務の負荷の大きさも一因となっている。

 3つ目の課題は、受領したファンドの中身のデータを管理する方法が銀行内部で未整備であることだ。大半の銀行ではファンドの中身のデータを受領しても、EXCELやPDFなどの電子データファイル形式のまま保管している。そのためデータを参照・利用する際は、各電子ファイルを1件毎に開いて中身の確認を行い、場合によってはPDFから別のファイルへ転記するなど多大な手間となっている。また、フロント部門やリスク管理部門などの複数の部門で電子ファイルを別々に管理していることも少なくない。このような管理状況によって、データの参照・データ分析などの業務では手作業が多く発生しており、オペレーションミスを誘発しやすい状況となっている。

 これらの課題はいずれも投資規模や本数が少ない場合には大きな問題にならないが、近年のファンド投資の活発化に鑑みると、どの銀行においても無視できない課題となりつつある。

ファンド投資の課題解決に向けて

 銀行のファンド投資における課題の解決には、ファンド投資を専門とする資産運用会社に倣うかたちでのシステムインフラの整備が一つの解となり得る(※2)。システムインフラの適用による2つの解決策を挙げてみたい。

 1つ目の策はファンドのデータを扱うデータベースシステムの構築である。ファンドは一つの銘柄という形態の中に複数の株式や債券、デリバティブ等の商品が含まれる。さらにマザー・ベビーやファンドオブファンズといったファンド間の階層構造を持つものも存在する。そのため、こうしたファンドの中身のデータをきちんと管理できるデータモデルを備えることが重要である。

 ファンドの中身まで含めた情報を構造的にデータベースシステムで管理することで、一元的なデータ管理が可能となり、データ参照等のオペレーションにおける省力化は勿論のこと、データ内容のチェック業務の効率化や、複数ファンドにおいて国や通貨毎・発行体毎のエクスポージャを特定し集計する、といった管理が容易となる。資産運用会社から取得したデータだけでなく、情報ベンダーから別途入手したデータを合わせて格納することや、既存のリスク管理システム・規制対応システムへの接続を併せて考えることで、より高度なリスク管理を行うことも可能だ。既に一部の銀行において、このような課題対応の動きが出始めている。

 2つ目の策は資産運用会社からのデータ受領における共通ネットワークインフラの構築である。現在個別に入手しているデータを、データ授受の標準手続きを定めたネットワークシステムに自動接続することにより入手できるようにする。標準化によって各運用会社間のデータ定義の差異はシステムチェックされてすぐに検出され、データ取得自体も容易になる。高頻度のデータ取得が可能となることで、高度なリスク管理を実現できる。フロント部門では機動的な資産配分調整やリスクヘッジを行うことができ、リスク管理部門でもリスクの所在を必要なときに適時把握可能となる。

 データ接続の検討で注意すべき点としては、銀行規制で重要な項目であるデリバティブのカウンターパーティや担保の有無などは、基準価額やファンドの中身の残高データ等の項目と異なり、資産運用会社側の会計業務上は重要な項目ではないことだ。データ開示を行う資産運用会社にとっても共通ネットワークインフラでのデータ開示は利点が多いが、こうした項目の開示は負荷がかかる部分であり、取り扱いについては資産運用会社への依頼や事前の取り決めが必要となろう。


 バーゼル規制は今後、トレーディング勘定の抜本的見直しなど大きな変更が予定されている。こうした中で銀行には、ファンド投資に関するルックスルーの頻度向上やリスクの所在の即時把握による運用資産全体のリスク管理、および投資配分の最適化がますます求められるところとなる。今後も銀行がファンド投資を増加させていくには、システムインフラの整備による課題解決と効率化が急務である。

1) NRIはファンド投資及びその管理について、地銀を中心に10行以上のヒアリングを実施して課題を確認している。
2) 資産運用会社では、一元的なデータ管理を可能とするものとして、ポートフォリオ分析・蓄積データベースであるT-STAR/GX(NRI提供)、共通ネットワークとして、資産管理会社と運用会社や委託者をつないで標準化された運用ポートフォリオの情報開示を行うサービスであるSYNTAX(NRI提供)などが利用されている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

馬場崇充Takamitsu Baba

資産運用サービス事業部
上級システムコンサルタント
専門:資産運用向けソリューション企画

この執筆者の他の記事

馬場崇充の他の記事一覧

注目ワード : BIS(国際決済銀行)