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FinovateFall 2015参加報告

2015年11月号

金融ITイノベーション研究部 嶋村武史

Finovateとは、金融分野のイノベーションを推進するテクノロジーの紹介に特化したカンファレンスである。主に金融ITベンチャー企業が登壇し、7分間で自社の新しいサービスや製品のデモを行う。以下では、9月16日から17日にニューヨークで開催されたFinovateFall 2015の概要を報告したい。

 近時の所謂“Fintech”への関心の高まりから本カンファレンスへの注目も高まっており、FinovateFall2015の参加者数は過去最大の1,500人以上となった模様だ。参加企業のリストを見ると、登壇した金融ITベンチャーのほか、金融機関、IT企業、ベンチャー投資会社、PE投資会社、コンサルティング・ファーム等、多岐にわたる。また、金融機関を始めとした日本からの参加者も目立った。

 本カンファレンスへの登壇を登録した企業数は72社にのぼった(ただし、実際に登壇したのは70社)。図表の通り、そのほとんどが米国企業であるが、米国以外にもカナダから5社、欧州から13社、イスラエルから2社の参加があった。

発表された製品・サービスのトレンド

 まず全体のトレンドを概観すると、B2Bの製品・サービスが大宗を占める点が目立った。本年の5月にSan Joseで行われたFinovateSpringにおいてはB2Cも多く見られたようなので、一概にB2B化の流れが進んでいると言うことはできないが、ITベンチャー側から見るとB2Bにすることで、(※1)自社の強みである技術やその実用化に焦点を当てることができる、2)金融機関と競合して個人最終顧客を獲得する必要がない、3)金融機関等への自社株売却によるイグジットのプランが描きやすい、といった利点があると考えられる。

 また、多くのサービスがモバイル・チャネルにおける顧客利便性向上を意識して作られている点も目立った。スマートフォンの使用が一般化し、主に個人の金融取引におけるモバイル・チャネルの重要性が高まっている中、どのようにモバイル・チャネルのUI(User Interface)、UX(User Experience)を向上させるかという点が一つのキーワードとなっている。

 更に、上記の2つに比べると限定的なトレンドではあるが、口座情報の集約等の顧客利便性に焦点を当てたサービスから更に一歩踏み込んで、ポイント等のリワードにより個人の行動を動機付けしようとする工夫を取り込んだサービスも見られた。例えば、特定の支払い手段の活用、一定の貯蓄や投資、期日内での借入金の返済等に対してポイントを付与するものである。

 次に、発表されたサービスをより具体的に見ていくと、まず個人向けサービスの割合が高いことが目立った。その中のキーワードの一つが、クライアント・オンボーディング1)であり、Lexmark社やGro Solution社が口座開設や金融商品申込み手続きの簡潔化に係るサービスのデモを行った。ここでもモバイル・チャネルでの顧客利便性が意識されており、スマートフォン等のカメラ機能で取り込んだ運転免許証等の本人確認書類の情報を自動的に入力フォームに転記し、サインも端末上で済ませられるようにすることで申込プロセスをモバイル端末上で完結させることができるサービス等が紹介された。

 個人の貯蓄や資産運用をサポートするサービスも多く見られた。当該分野では、ロボ・アドバイザー、人工知能を搭載したFA向け情報端末、比較的少額からアーリー・ステージ企業への投資ができるプラットフォーム等、様々なサービスが紹介された。その中でも注目が高かった企業はHedgeable社である。同社はミレニアル世代(※2)によるミレニアル世代のためのウェルス・マネジメント・プラットフォームを標榜しており、今回は、これまでの資産運用機能に加えて口座集約やライブ・レポーティング機能を搭載した金融機関やFP等の仲介者向けプラットフォームのデモを行った。

 個人向け決済・支払いに係るサービスも引き続き関心の高い分野であった。当該カテゴリーで注目度が高かったのは、FINANTEQ社が紹介したSuperwalletsというアプリケーションである。これは、銀行口座、支払い、コマースの3つを融合させ、同一のアプリケーションで残高照会、ホテルやタクシー等の予約、支払いを行うことができるようにするサービスである。また、Dynamics社が紹介した次世代型ペイメント・カードも注目を集めた。同社がデザイン・製造するカードの基本的なコンセプトは顧客利便性を害することなくセキュリティを向上させることであり、既にマスターカードやカナダの商業銀行であるCIBC等とも提携している。

 個人以外では、SMEを意識したサービスも多く見られ、特に小規模企業向けの資金繰り管理・税務処理や融資等に関連するサービスが紹介された。融資については、Bizfi社が小規模企業向けの融資プラットフォームを紹介した。借り手の簡易な財務データ等を基にBizfi社自身を含む複数の貸し手が融資判断を短時間で行い、条件等を提示するプラットフォームである。同社はクレディ・セゾン社と提携し、日本でのパイロット・プログラムの展開を行っている。

 個人・SME向けサービスの他に、金融機関のビジネスの基盤となるテクノロジー・インフラの高度化の支援を目指す企業も多く見られた。主なキーワードは、ブロックチェーン、ビッグデータ、自然言語、生体認証である。ブロックチェーンについては、金融機関向けに独自のブロックチェーン構築をサポートするソフトウェアを提供しているBlockstack社が注目を集めた。

 また、自然言語処理を活用し、機械とのインタラクションによるUXの向上を目指すサービスも注目を集めた。その中の1社がDyme社である。同社はミレニアル世代をターゲットに、テキスト・メッセージを用いた機械との対話を通じて貯蓄の習慣を身につけることをサポートするサービスを発表した。



 前述の通り今回のFinovateで発表された製品・サービスは金融機関における顧客利便性向上をサポートする方向性が主であった。特にモバイル・チャネルにおける個人金融取引に関連する製品・サービスの発表が顕著であり、このような新しいテクノロジーの活用に関する取組み次第で、今後当該分野における金融機関ごとの競争力に差が生じる可能性もあるだろう。実際、当カンファレンスに複数名で参加している欧米の金融機関も多く、関心の高さが伺える。実際の導入を検討するにあたっては日米の金融構造の違いや紹介された製品・サービスが実務に耐えうるかという点等は考慮に入れる必要があるが、モバイル・チャネルのUIやUX向上に係る観点を中心に本邦金融機関にとっても参考になる部分があるのではないだろうか。

1) 顧客の口座開設等に際しての顧客情報や本人確認書類データの確認等を指す。
2) 主にアメリカで1980年代から2000年代初頭に生まれた世代の総称。幼少期からデジタル機器やインターネットに接しており、デジタル化された生活に慣れ親しんでいる点が特徴の一つ。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

嶋村武史

嶋村武史Takeshi Shimamura

金融イノベーション研究部
上級研究員
専門:金融・資本市場と金融機関経営

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