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中国からの資本流出

2015年11月号

NRI北京 金融システム研究部長 神宮健

中国からの資本流出が続いている。背景には、米国の利上げと中国の金融緩和継続の予想がある。金融当局は様々な措置を採ることで対応している。

続く外貨準備の減少

 中国では2015年8月に外貨準備が940億ドルと大幅に減少し、3.56兆ドルとなった(ピークは2014年6月の3.99兆ドル)。一部は為替変動による評価上の減少と見られるが、基本的には資本流出だと考えられる。資本流出が継続する中で、そのリスクへの注目がさらに高まっている。

 最近の資本流出の背景には、米国の金利引上げ観測が市場で強まる一方、中国では今年に入っても引き続き金融緩和政策がとられ(利下げ4回、預金準備率引下げ3回)、加えて2015年8月には人民元の対ドルレートの一回性の切下げ(約1.8%減価、実際には市場でさらに人民元安)が実施されたことがある。内外金利差縮小が予想される中で従来からの人民元高期待は大きく変化した。

 2014年後半と2015年前半の国際収支表を見ると、資産側では現預金を始めとする「その他投資」項目における流出が大きい(図表1)。人民元安が予想される中で中国企業等のドル保有動機が強まり、対外資産の一部が政府保有の外貨準備ではなく民間部門により保有されるようになっている(※1)。

 負債側では、「その他負債」の「貸付」項目などで流出(返済)が見られる。以前は、先進国の金融緩和を受けた低コストの海外資金調達が増加し、中国企業における「資産人民元化・負債外貨化」の動きが進んでいたが、人民元高期待が変化する中で、こうしたポジションの巻き戻しが生じていると見られる。加えて、2014年後半以降は、「誤差脱漏」における資本流出も大きい。

 足元で中国景気はさらに鈍化しており、金融緩和が続くと予想される。これまでの利下げには、デフレ状況(※2)にあり実質金利が上昇していると見られる製造業の資金調達コストを引下げる意図があり、また預金準備率引下げも、外貨準備減少にともなう市中から中央銀行への人民元の吸収(人民銀行の外貨売り・人民元買い)を相殺し、市中に流動性を供給するものと見られる。利下げ・預金準備率引下げとも受動的な性格が強く、今後金融緩和策が打たれるとすれば、より積極的なものになると考えられる。当面は資本流出圧力が続くことになろう。

中国の対外資産・負債の構成

 ここで中国の対外資産負債の構造を見ると、資産側では、民間保有の対外資産が増えているものの、基本的には準備資産(ほとんどが外貨準備)の割合が高く、全体の約59%を占める(※3)。一方、負債側は、海外からの直接投資が約57%となっている(図表2)。資産側では流動性が高いと思われる外貨準備が、負債側では長期資金である直接投資がそれぞれ約6割を占めており、収益性の面では逆ザヤになる(※4)というマイナス面はあるものの、流動性の面では安定した構造である。また、マクロレベルの債務指標から見る限り、例えば、短期対外債務/外貨準備の比率は2014年末17.8%と低く(警戒レベルは100%)、対外債務危機は生じ難いと判断される(図表3)。

 ただし、個別の債務主体では状況が異なる。具体的には、不動産企業や銀行の対外債務が挙げられる。特に、不動産企業の場合、資産側は人民元建てと思われるため、資産側と負債側の通貨ミスマッチが指摘できる。また、中国企業の外貨債務は、為替ヘッジされている部分が少ないとも言われている。こうした状況は、金融・為替政策決定にも一定の影響を与えていると見られる。

最近の対応策

 こうした中、最近では、金融当局は資本自由化政策の形をとりながら、資金流入を促進する措置を採っている。

 外為管理局は2015年9月に、多国籍企業の外貨資金の集中運用管理の規定を変更した。外貨債務の比率は自律管理となり、また、外貨債務を両替して得た資金で人民元借入の返済や株式投資ができるようになった(※5)。

 一方、国家発展改革委員会も9月に国内企業の対外債務による資金調達を奨励する政策を打ち出した。対外債務の限度額認可を撤廃し、登録制を実施する(※6)。調達資金は、国家奨励の重点産業・プロジェクトに優先的に使用されることになっており(※7)、景気対策の意味も伺える。

 これらの措置からは資金流入を促進しようとする意図が見て取れる。さらに、外貨管理局は送金等の外貨管理を厳格化している。当面、国際金融情勢の変化の中、資本流出については様々な対応が採られると思われる。

1) 輸出代金が両替されない場合などが考えられる。なお、2012年から民間部門による外貨保有は自由化されている。
2) PPI(生産者物価指数)は前年同月比ベースで連続42カ月低下しており(2015年8月)、製造業の期待インフレ率はマイナスになっていると見られる。
3) 外貨準備が準備資産の98%を占める。残りは金、SDR等。
4) 運用は米国債が中心と見られ、直接投資リターンより低いと考えられる。
5) また、人民銀行は、クロスボーダーの双方向の人民元資金プール業務が行える条件を緩和した(9月、「多国籍企業集団のクロスボーダー双方向人民元プール業務展開の更なる便利化に関する通知」)。資金プールに参加する企業集団の国内、国外の前年度営業収入の基準をそれぞれ50億元以上から10億元以上、10億元以上から2億元以上へ緩和。
6) なお、対外債務とは、外貨・人民元建ての1年物以上の債務で、国外発行の債券や中長期の融資も含まれる。
7) 「一帯一路」(二つのシルクロード)等が含まれる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

神宮健Takeshi Jingu

金融イノベーション研究部
上席研究員
専門:中国経済・金融資本市場

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