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金融領域での人工知能の活用

2015年11月号

金融IT ナビゲーション推進部 上級研究員 柏木亮二

ディープラーニング(深層学習)という技術革新によって、現在、人工知能は第三次ブームを迎えている。金融領域においても人工知能は様々な活用が進められている。金融機関は、オープンイノベーションなどを通じて積極的に人工知能を活用することが求められる。

ディープラーニング(深層学習)の登場と第三次人工知能ブームの到来

 人工知能の研究は過去に二度ブームを迎えた。最初のブームは1950年代に始まる人工知能による推論・探索の研究である。しかし、当時のコンピューターパワーでは現実の問題を解決できるような能力には達せず、ゲームなどの限られた領域での応用にとどまった。

 ついで1980年代には人間の脳の構造を模したニューラルネットワークによる人工知能研究が盛んになる。代表的な成果が「膨大な情報を蓄積・分析することで対話型の情報処理を可能とする」エキスパートシステムである。また、ネットなどを通じて大量の学習データが利用可能となったことで、「機械学習」と呼ばれる人工知能研究も盛んとなった。しかし機械学習の精度(例えば画像認識)は人間と比較してそれほど高いとはいえず、近年の人工知能研究の進展は停滞していた。

 この状況にブレークスルーをもたらしたのが、ディープラーニング(深層学習)という技術革新であり、このディープラーニングによって現在は第三次人工知能ブームとも呼べる状況となっている(※1)。

 ディープラーニングとそれまでの人工知能との最大の違いは、「人間の介在の有無」である。ディープラーニング以前の人工知能研究では、学習データを用意する段階、分析ロジックを考える段階、そして分析した結果の「正誤判定」の段階などで必ず人間の介在が必要であった。人工知能が学習データを分析し抽出したデータ間の相関関係を「特徴量」と呼ぶ。画像認識の場合は「人間の顔の構造データ」であり、言語解析なら「ある単語に続く別の単語の出現頻度」などが「特徴量」にあたる。こういった「特徴量」が何を意味するのかという人工知能へのフィードバックや、その「特徴量」に基づく出力の正誤判定は、従来であれば人間が行う必要があった。それに対し、ディープラーニングでは人工知能自らがデータの「特徴量」を抽出し、その「特徴量」に基づいてさらに分析を繰り返し行うことが可能となったのである(この分析の「層」の積み重ねが「深層(ディープ)」と呼ばれる所以である)。

 それまではデータの「特徴量」を読み解き、分析のチューニングを行うのは研究者の職人技であったが、この職人技を必要とせずに高次の分析を可能にしたことがディープラーニングの成し遂げたブレークスルーである。

金融領域での人工知能の活用

 現在、金融領域では主に5つの分野での人工知能の活用が進められている。

 (1)テキストマイニングや音声認識とその意味分析

 人工知能によってテキストや人間の会話などを分析し、それに対応した出力を活用する分野である。例えば、現在日本の金融機関のコールセンターに導入が進められているIBMのWatsonなどが代表例である。また、企業の開示情報やニュース、そしてTwitterなどのSNSに流れるコンテンツなどのテキスト情報を自動解析し、レポートやニュースなどの整形されたコンテンツを自動作成するような活用も進められている(※2)。

 (2)パターン認識による異常検知

 人工知能によって過去の膨大なデータからある一定のパターンを抽出し、そのパターンから外れた行動を検知する活用である。マネーロンダリングや、不正な取引、セキュリティの脅威などを検知し、アラートを出すといった領域での活用が進められている。

 (3)データマイニングによるマーケット分析

 現実のマーケットのデータを人工知能によって分析し、マーケットの動きや価格形成をモデル化する活用である。様々な市場の参加者の行動をシミュレートしたり、規制や制度の導入による影響を予測したりする分野での研究が進められている。日本でも不動産の成約価格を推計するサービスが提供されている(※3)。

 (4)投資戦略の構築

 マーケット分析の延長として、最適な投資戦略の構築を目指す活用も進められている。米国のルネッサンステクノロジー社などは、実際の投資プレーヤーとして人工知能を活用している代表的な事例である。また、人工知能を活用して投資家の投資スタイルに応じた推奨ポートフォリオを提供する「ロボアドバイザー」企業も数多く生まれている(※4)。

 (5)システム構築への活用

 複雑かつ多岐にわたる金融の制度や規制、多様な金融商品を適切に処理するためのシステム構築は膨大な工数をかけて開発されてきた。これらのシステム構築に人工知能を活用することで、ミスを減らし、さらに制度の変更などへの対応をより効率的に行うための研究も進められている(※5)。

金融機関は人工知能にどう取り組むべきか

 ディープラーニングの競争力は、いかに良質な学習データを獲得できるか、そしてその大量のデータをいかに素早く処理できるかにかかっている。金融分野ではすでに大量のデータの蓄積が進んでおり、ディープラーニング登場以前から様々なアルゴリズムの活用が進んでいる。今後はこれらの蓄積を活かしつつ、より広範囲でディープラーニングの適用が進むことになるだろう。

 ディープラーニングを実際に活用するには、膨大なコンピューターパワーを必要とするため、自社だけの投資で行うことは難しい。GoogleやMicrosoft、IBM、Amazonといった大手クラウドベンダーは人工知能のプラットフォームを提供している。これらのプラットフォームを活用し、投資を抑えつつ、ディープラーニングの成果を得るような取り組みが主流となるだろう。

 また、それぞれの機関や企業が個別に人工知能の研究・活用を進めることにも限界がある。複数の機関や企業が連合し、共同して人工知能の活用を進めるような取り組みが必要であろう。近年、金融界でもオープンイノベーションへの関心が高まりつつあるが、人工知能の研究・活用は、オープンイノベーションの主要な領域の一つとなると考えられる。

 人工知能研究に関する活発な情報発信を行っている松尾豊東京大学准教授は、日本における人工知能分野での研究者の層の厚みを活かすべきと主張している(※6)。日本には1980年代の「第5世代コンピュータ」プロジェクトから続く人工知能研究の蓄積がある。この人的リソースをいかに有効に活用するかも今後の課題であろう。

1) ディープラーニングを一躍有名にしたのは2012年に行われた人工知能の画像認識コンペティション「ILSVRC」におけるカナダのトロント大学のSuperVisionである。この大会でトロント大学チームはディープラーニングを用いて、それまではエラー率が26%程度だったものを一気に15%台に引き下げるという快挙を成し遂げた。
2) ディープラーニングを活用した記事の自動生成では、米国 Automated Insights 社(http://automatedinsights.com/)や、米国 Captricity 社(https://captricity.com/)などが有名である。
3) 日本ではイタンジ株式会社が人工知能を活用した不動産の成約価格の物件情報配信サービスを開始している。http://itandi.co.jp/387/
4) 日本では「お金のデザイン」社が、顧客のリスク性向やライフステージに合わせたポートフォリオを提示し、毎月のパフォーマンスによって自動的にリバランスするサービスを提供している。
5) 米国IPSoft社は自然言語を処理するバーチャル・エージェントを活用しビジネスプロセスの自動化ツールを開発している。
6) 「米国を中心とする国際的な人工知能学会(AAAI)の会員数が5,000人であるのに対して、日本の人工知能学会(JASI)には3,000人もの会員がいる」「人工知能は人間を越えるか ディープラーニングの先にあるもの(p.251)」松尾豊著(角川EPUB選書)2015年

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

柏木 亮二

柏木亮二

金融ITイノベーション事業本部 ビジネスIT推進部
上級研究員
専門:IT 事業戦略分析

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