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ロボ・アドバイザー2.0を超えて

2015年11月号

NRIアメリカ 金融研究室長 吉永高士

米国の「ロボ・アドバイザー」は、いまなお揺籃期固有の市場急拡大局面にあるとはいえ、先行組による事業モデル転換や既存金融機関への身売りも相次ぐなど、業界創業以来の大きな岐路に直面していることは疑いない。創造的破壊者として既存プレーヤーからシェアを奪取するという単純な成長ストーリーを超えた、彼らの今後の生き様とありようを展望する。

ロボ・アドバイザーの成長を牽引するのは誰か

 米国における「ロボ・アドバイザー」とは、一般にネット(一部はモバイル)を通じたセルフ・プロファイリングと分散ポートフォリオの自動運用を組み合わせたサービスを指す。多くは投資一任を含むオンライン資産運用サービスのかたちで提供されるが、他に、ネットを通じた有償ファイナンシャルプランニング(※1)のみが提供されるものなども広義のロボ・アドバイザーとされている。

 米国ロボ・アドバイザーの市場成長見通しを巡っては、運用資産残高が2014年末の約200億ドルから2020年には2,000億ドル程度とみるものから、同2兆ドル超にまで達すると予測するものまでさまざまである(※2)。成長予想がこれほど大きく異なること自体、市場がいまだ揺籃期状態にあることを象徴し、成長率予測の正確さを競うことには意味がさほどないことを示唆している。確実なことは、最も保守的な見方においてでさえ、5、6年後にはロボ・アドバイザー市場の残高は現行の10倍前後の規模に達するとみられているということだ。

 しかし、だからといって、「ロボ・アドバイザー」サービスを先行して提供してきた新興企業群のすべてが市場拡大の波に乗り、明るい未来に向かって順風満帆に突き進んでいるのかというと、そう単純な話ではない。

 これらロボ・アドバイザー企業群にとっての当初の目論見は、成長の源泉を、①既存の投資商品提供会社(証券会社、運用会社、保険会社、銀行など)から価格面とデリバリー手法を差異化要素として運用資産シェアや顧客を奪取すること、②小口顧客向けにも収支採算と業務遂行の両面で無理なくサービスを提供できるオペレーション態勢により広い裾野の個人を投資に誘導することのいずれか、または両方に求めるものがほとんどであった。ところが、前者については、過去2年間に運用会社のヴァンガードとディスカウント証券のチャールズシュワブが相次いで参入し、職域事業からの誘導や既顧客の資金流入も相俟って市場成長の最大の牽引者となっており、2015年末時点の米国ロボ・アドバイザー運用資産残高の半分超はこの2社で占められるとの予測もある(※3)。また、後者の投資家の裾野拡大による成長についても、一部の対面証券会社や銀行らが従来の中心顧客対象よりも比較的小口の投資家層への対応方法としてロボ・アドバイザー的なプラットフォームの活用に向け行動を開始している(※4)。

 先行者にとって、伝統的な証券会社や運用会社ら競合他社の存在を「前門の虎」とするならば、「後門の狼」は、引きも切らない後発組による新規参入である。2014年末時点で、ロボ・アドバイザー企業はサービスを提供中のものだけで約20社、サービス開始準備中だったものが約20社存在したが、2015年1~9月の期間だけでさらに20社以上の新規参入があったという(※5)。参入障壁自体は低いビジネスであるため、先行者はみずから市場を切り拓いてきた分の成長の果実ですら、自分たちだけで享受するのは容易でない現実がある。

相次ぐ身売りと事業モデル転換

 かかる状況下、新興企業としてはスタートアップからアーリー、レイターというステージを経て、サービスの中味が確立しユーザー数も一定水準に達した先行組の中には、創業来の個人向けサービス提供による成長以外の分野に新たな活路を求めるものもある。先行組のなかで最大手2社のうちの一角を占めるベターメント社は、広範な対面投資商品販売業者に小口顧客向け対応プラットフォームとして活用されるB2B戦略を併用した新規事業拡大を図っており(※6)、2015年6月時点での運用資産残高も25億ドルと最大手ウエルスフロント社に拮抗するほどに追い上げている。同社ではさらに、専業大手のロボ・アドバイザーとして初めて、401k管理事業へ参入することを2015年9月に発表した。一部の“元祖”ロボ・アドバイザーが401k向けに10年以上前から細々と提供してきたリバランス機能などの限定的領域を超えて、本格的な職域チャネル事業を新たな成長の柱とする構えだ。

 よりドラスティックな動きとしては、身売りを契機に身売り先の広範な対面投資商品販売チャネルの中で活用されることに重点を移すというものがある。世界最大の運用会社であるブラックロックによる買収が2015年8月に発表されたフューチャー・アドバイザー社は、これまで大手の一角を占めていたが、今後はブラックロックの金融機関向けソリューション事業の一機能として、銀行、証券会社、保険代理店などの営業員が利用するツールとして活用されていく予定である。同時に、これまでの個人向け運用事業からは撤退するとされている。

 同様の構図は、証券会社にマネジドアカウント(ラップ)プログラムをアウトソーサーとして供給するTAMP(※7)のエンベストネット社が後発組ロボ・アドバイザーのアップサイド社を買収したケース(2015年3月発表)にも一部当てはまる。エンベストネットのプラットフォームは中堅・中小証券会社の計40,000人の営業員に利用されているが、アップサイドのアプリケーションはこれに統合され、個人向け提供からは撤退する。

フィンテックがもたらす創造的破壊と技術の昇華

 フィンテック企業が既存大手への身売りを機に、伝統的チャネルのなかで、より広範な顧客向けのサービス提供により活かされていくことをイグジット(出口戦略)の1つとして選択するのは、ロボ・アドバイザーに始まったことではない。古くは米国のネット専業銀行第1号が銀行事業から撤退した後に決済系ITベンダー大手に身売りしたのも(※8)、最近の例でフィンテック企業の代表例とされるアカウントアグリゲーターがTAMPへ(※9)、またPFMプロバイダーが家計簿・確定申告ソフトウェア会社に身売りをしたのも(※10)、米国で90年代以降に筆者がみてきた日常風景における典型例である。

 これらのケースにおける最終的な買い手は、金融機関にサービスやインフラを提供するベンダーか、他金融機関に対し同様のリソースを提供する金融機関が多い。ネット専業銀行の一部が一定のシェアを抱えて現在も生き残る一方で、恐竜に喩えられた伝統的銀行が消滅しなかったように、ロボ・アドバイザーも一部は独立路線を確立しつつ、その技術が対面チャネルを含む伝統的金融機関のなかに昇華されたかたちで生きていくのだろう。そこで置換されるのは古い仕組みであり、それをユーザーとして使い倒す伝統的金融機関ではない。

1) 米国では有償のファイナンシャルプランニングを提供するには投資顧問業者としての登録が必要。
2) 「ロボ・アドバイザー」の定義については推定者(多くは大小のコンサルティング会社)の間で、かならずしも一律ではなく、かつ推定の手法も直近5年間の成長率が2020年まで単純に続くと想定したものもあるなど、さまざまに異なる。
3) アイテグループなど推定。
4) イントロデューシング証券会社(日本の証券仲介業者に相当)が、バックオフィス委託先であるクリアリング証券会社が開発または調達するロボアドバイザーのプラットフォームを利用する例や、ロボアドバイザー企業が黒衣となって個別の銀行グループや証券会社にプラットフォームを実装する例など。
5) アイテグループ推定。
6) フィデリティの他証券会社・投資顧問会社向け事業との提携による対面営業員用のツールとしての提供など。
7) サードパーティアセットマネジメントプロバイダー。
8) セキュリティ・ファースト・ネットワーク・バンクが銀行事業から撤退しネットバンキングのソリューション事業に特化した後に決済系ITベンダーのACIに身売り。
9) アカウントアグリゲーターの老舗であるヨドリー社のエンベストネット社への身売りなど。
10) 主要PFM(パーソナルファイナンシャルマネジメント)ベンダーであるミント社やチェック社のインチュイット社への身売りなど。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

Yoshinaga

吉永高士Takashi Yoshinaga

NRIアメリカ
金融・IT研究部門長
専門:米国金融経営調査

注目ワード : FinTech(フィンテック)

注目ワード : ロボ・アドバイザー

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