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「金融行政方針」策定の意義

2015年11月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

金融庁が、従来の「金融モニタリング基本方針」を拡大して「金融行政方針」を策定した。金融機関の予測可能性を高める効果が期待できるが、法令上の根拠が曖昧な施策も散見される。

金融行政方針の発表

 金融庁は、2015年9月、「平成27事務年度 金融行政方針」を発表した。

 同庁は、以前から金融機関検査の基本方針や業態ごとの監督方針を明らかにしており、2013年からは、オンサイトのモニタリングである検査とオフサイトのモニタリングである日常的な監督の全般にわたる方針を示す「金融モニタリング基本方針」を作成・公表してきた。

 今回の「金融行政方針」の内容は、「金融モニタリング基本方針」に盛り込まれてきた監督局及び検査局の所掌事項に加えて、総務企画局が所掌する諸制度の企画や証券取引等監視委員会の所掌する市場の監視等もカバーするものである。金融庁という組織が、全体として目指す方向性を明らかにする文書だと言うことができよう。

金融行政方針の内容

 「金融行政方針」は、「金融行政の目的」、「金融行政の目指す姿・重点施策」、「金融庁の改革」の三部構成となっている。

 最初の「金融行政の目的」では、経済成長や国民生活の向上を図るためには、景気のサイクルに大きく左右されることなく、質の高い金融仲介機能が発揮されることが重要であり、そうした機能発揮の前提として、金融機関・金融システムの健全性の維持と市場の公正性・透明性の確保が求められるという認識が示されている。

 また、現下の経済・市場の環境について、世界的に将来の不確実性が高まる一方で、IT技術の急速な進展により「フィンテック」と呼ばれる金融機能とITの融合の動きが進むといった変化が生じており、日本においては人口減少と高齢化が更に進展する状況にあるといった指摘がなされている。

 以上のような目的意識と現状認識を踏まえつつ、金融庁の当面の施策を明らかにしたのが、「金融行政の目指す姿・重点施策」である。そこには、多岐にわたる事項が盛り込まれているが(図表参照)、とりわけ注目されるのは、金融仲介機能の質の改善を目指すためとして打ち出された、融資先企業約1,000社を対象としたヒアリング調査の実施であろう。取引金融機関に対する顧客の生の声を、苦情や批判も含めて集めようというわけだが、監督対象である金融機関を飛び越えるような形で、実情把握に乗り出すのは異例とも言える。

 最後の「金融庁の改革」では、「開かれた体制」を構築するために外部有識者によって構成されるアドバイザリーボードを創設することや金融機関等からの率直な意見や批判を取り込むために中立的な第三者が意見聴取をする「金融行政モニター(仮称)」の設置、職員の意識改革、金融機関の創意工夫を引き出す行政の推進などが掲げられている。ここでは、金融機関の取るべき行動を仔細に規制するのではなく、その趣旨・精神を示すプリンシプル(原則)を形成・共有することも強調されている。

 金融庁は、これまでの「金融モニタリング基本方針」について、当該方針に基づく一年間の活動の成果を「金融モニタリングレポート」として公表するという、いわゆるPDCAサイクル(Plan→Do→Check→Action)を実践してきた。今回の「金融行政方針」についても、2016年6月を目途に「金融レポート(仮称)」として、その進捗状況や実績等に対する評価を公表するとしている。そこでの評価に基づいて、次年度の方針が策定されることになるのである。

金融行政方針の意義と課題

 金融庁がこのような文書を作成・公表する狙いは、同庁の今後の施策の方向性を明らかにすることで、規制・監督の対象である金融機関にとっての予測可能性を高めるとともに、金融庁の活動に対する国民の理解を深めることにあろう。

 そこに盛り込まれた具体的な諸施策の内容も、その背景にある問題意識や具体的な手法について、概ね首肯し得るものが多い。国際的な課題への戦略的な対応として、過剰な規制強化への懸念や規制緩和の必要性を強調していることも評価できる。

 もっとも、気になる点もある。例えば、フィデューシャリー・デューティーの浸透が必要というが、その言葉自体、法令で定義されたものではない。金融庁の監督対象でない取引先企業へのヒアリングも、任意のものとはいえ、法令上の根拠はどこに求められるのだろうか。

 取締り法規的な色彩が強い金融関連の法令は、必要最小限の内容にとどまるだけに、金融機能の健全な発達を促すために、法令の字面のみにとらわれない積極的な施策を講じる必要もあるだろう。しかし、その際にも、かつて批判を浴びた不透明な「裁量行政」に陥ることなく、透明で公正な行政手法を貫くことが、強く求められる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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