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社外取締役選任の議論から取締役会評価のステージへ

2015年10月号

金融グローバル推進部 上級コンサルタント 岡野靖丈

国主導で法整備も進み、社外取締役の複数選任等コーポレートガバナンス強化に日本の金融機関も動き出した。G-SIFIsでは圧倒的多数の社外取締役で取締役会が構成されており、取締役会が機能しているかという評価のステージに既に入っている。

日本の主要金融機関と欧米の主要G-SIFIsに見られる社外取締役選任状況

 日本政府は「日本再興戦略」の中で、日本企業の「稼ぐ力」を高める「攻め」のコーポレートガバナンス強化を打ち出し、改正会社法、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードの施行等により、日本企業にROEの向上や社外取締役の複数選任等を促してきた。また、機関投資家に影響力のある米国の議決権行使会社も、株主総会での取締役選任議案に対して同様の内容を上場企業に迫っている。こうした環境変化の中、日本の金融機関もガバナンス強化を進めているが、欧米の主要G-SIFIsと比較すると、異なる傾向にある。

 例えば、図表1のとおり、欧米の主要G-SIFIsの取締役会に占める独立社外取締役の占有率はほぼ8割超であり、大多数を占める社外取締役を中心に運営される取締役会及び傘下の指名・報酬・監査委員会が、経営陣の執行を監督するという「執行と監督の分離」の仕組みができ上がっている。また、社外取締役の職業属性は弁護士・会計士・企業経営者のバランスを取るというよりも、圧倒的に企業のマネジメント層が多く、中でも企業経営者(CEO)比率(※1)が高い。

 さらに、図表2のとおり、BNPパリバ、HSBC、ゴールドマンサックスなどは、金融機関勤務経験者(※2)が社外取締役全体の5割超を占めており、金融実務に詳しい人物を配置している。これは金融業界だけでなく、例えばグーグルの社外取締役はIT関連、BPはエネルギー関連の経営者等が大多数を占めている。また、多くの欧米の主要G-SIFIsがCFO経験者を社外取締役に選任しており、企業の財務的な戦略スキルを持つ人材を重視していることが伺える。このほか欧州系G-SIFIsでは、女性取締役占有率や非自国籍取締役占有率なども高く、ダイバーシティ(※3)が進んでいる。

 一方、日本の主要金融機関の取締役会は社内取締役の占有率が社外よりも高く構成されているケースが多い。CEOの社外役員(取締役及び監査役)占有率はG-SIFIs同様高い(※4)が、地銀等になると総じて弁護士・会計士比率が高い傾向にある。こうした非企業経営者中心の社外取締役の布陣で、中期経営計画(中計)・事業戦略といった企業経営の根幹を審議する態勢として適切かといった議論がある。また、人材の流動性の違いも影響しているが、金融機関勤務経験者がいないところも多い。

コーポレートガバナンス・コードで求められる取締役会評価

 欧米の主要G-SIFIsでは、既に外形的な取締役会の議論を終え、実態として取締役会、傘下委員会及び取締役が機能しているかどうかを重視している。筆頭社外取締役を中心に毎年評価を実施し、その評価結果をアニュアルレポート等に開示している。また、英国、フランスのコーポレートガバナンス・コードでは上場会社(※5)に3年毎に外部機関による客観的評価を受けることを求めており、HSBC、BNPパリバは取締役会評価を外部評価会社のBvalco社に依頼し、その結果がアニュアルレポートに開示されている(図表3参照)(※6)。

 取締役会評価に関しては、英国のFRC(※7)が評価ガイドラインを公表しており、この内容が参考とされている。評価項目としては、例えば、「企業が直面する課題に対応できるスキル・経験・知識・多様性を持った取締役で構成されていること」「サクセッションプランが策定・運用されていること」「指名・報酬・監査委員会等が有効に機能し、取締役会と連携されていること」「多様な提言により、有効な議論がなされていること」などが挙げられている。

 一方日本でも、コーポレートガバナンス・コードの中で、毎年取締役会を自己評価することを企業に求めている。花王は、2015年8月の「コーポレートガバナンスに関する報告書」の中で、「企業戦略等の大きな方向性の議論」「経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備」「独立した客観的な立場から、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督」「株主・投資家との建設的なコミュニケーション」等に対する評価結果を開示しているが、こうした企業は圧倒的に少なく、金融業界では評価結果内容の具体的開示はまだ見られない。今後は、取締役会の評価が広く行われることが投資家からも求められよう。

 ここまで見てきたように、社外取締役の複数選任に着手し始めた日本の金融機関の取締役会と、CEOを中心とした大多数の独立社外取締役で構成された欧米の主要G-SIFIsの取締役会とでは、議論の質にかなり差があることが推測される。今後取締役会での議論がいかに機能しているかを評価するステージに移行していく中で、日本の金融機関の取締役会も、真に中計・事業戦略等の是非を議論する布陣に変貌していくことになろう。

1) ここでは、企業のCEOに限定している。また、個人事務所のような小規模組織のCEOは対象外としている。
2) ここでは、短期間ではなく、少なくとも5年以上実務として金融機関勤務を経験した者を対象としている。
3) 女性取締役の占有率に関して、BNPパリバは47%、HSBCは39%。フランスを拠点とするBNPパリバは非フランス国籍の取締役の占有率が33%に達している(2015年8月末現在:各社HPより)。
4) 三井住友フィナンシャルグループは監査役設置会社なので、単純に比較はできないが、ここでは社内及び社外監査役を加えた総和で換算している。
5) 英国の場合、対象はFTSE350社(ロンドン証券取引所に上場する企業のうち時価総額上位350社)。
6) 併せて、指名・報酬・監査委員会等の各傘下委員会の評価及び各取締役のパフォーマンス評価結果の総括も開示されている。
7) Financial Reporting Council。会計基準設定主体の指導・監督機関。コーポレートガバナンス・コード策定・監督。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

岡野 靖丈

岡野靖丈Yasutake Okano

金融ITグローバル推進部
上級コンサルタント
専門:コーポレートガバナンス、企業・事業価値評価

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