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銀行向けファンドビジネスの拡大に向けて今取組むべき課題

2015年9月号

資産運用サービス事業三部 グループマネージャー 古賀智子

銀行のファンド保有は拡大傾向にあるが、銀行は当局報告のため資産運用会社に自己資本比率規制に関する情報提供を求めている。しかし運用会社にとってその事務負荷は大きい。今後の規制強化を見据え、また銀行の利便性向上のためにも、リスクウェイト判定基準や書式の標準化を資産運用業界全体で進めることが望まれる。

 銀行のファンド保有残高は近年増加傾向にある。2012年9月以降、ファンド投資が約2倍に増加し、国内籍投信だけでも10兆円を超えた。資産運用会社はこの流れを受け、銀行向けファンドビジネスの市場拡大へ乗り出している。

 銀行はファンド投資に際し、当局報告のために必要な各種情報の提供を資産運用会社に求めている。この代表的なものが、自己資本比率規制、所謂バーゼル規制報告である。銀行向けビジネスの拡大に向けて、資産運用会社は銀行へのバーゼル規制報告業務を強化していく必要がある。

 しかし現在、このバーゼル規制報告に伴う資産運用会社の業務は実務上の負荷が極めて高く、大きく3つの課題を抱えている。

バーゼル規制対応の実務課題

 1つ目は告示解釈・規制変更対応の難しさである。バーゼル規制報告のためには、BCBS(※1)文書や金融庁の告示の読み込みが必要であるが、現在は各運用会社がサービスの一環として独自に行っている。運用会社は、これらの告示に基づいてファンドに組み入れられている個別銘柄を分類し、リスクウェイトやダブルギアリングの判定を行う、という作業を実施する必要があり、これが極めて負荷の高い業務となっている。

 リスクウェイト判定では、個別銘柄について、告示に定められた「出資等」や「外国の中央政府等以外の公共部門」などの各種分類ごとに振り分けを行い、リスクウェイトを判定する。例えば、「外国の中央政府等以外の公共部門」という分類のリスクウェイト判定には、その銘柄に一定量の政府出資があるかどうか、といった告示の条件について、発行体のIR資料、更には親会社の情報などをWebサイト等で調査することになる。

 ダブルギアリング判定とは、ファンドが投資している株式の業種が、「金融機関等」かを判断することだ。「金融機関等」という括りには、銀行だけでなくリース会社などのノンバンクも含まれる。そのため、特に外国証券では、判定が難しい銘柄が数多くあり、業務負荷の高さに繋がっている。

 またバーゼル規制報告で用いる属性は、資産運用会社が通常の業務で利用する属性分類とは定義が異なるため他の業務と共通利用ができない。さらに、必要な情報の基準が異なるため、情報入手も別途行う必要がある。互換性のない完全に独立した作業となっていることも負担となる一因だ。

 更に、金融庁の告示は国内ファンドに手厚いため、海外ファンドの情報については、告示に基づいた独自解釈が必要となる。しかし独自解釈では内容の正確性の担保が難しく、また属人的になりがちであるため、社内体制的に限界を感じている資産運用会社は多い。

 2つ目の課題は、前述の通り運用会社各社が独自で解釈を行うため、同一銘柄でも会社ごとに解釈が異なるケースがあることから生じる。同一銘柄であるにもかかわらず異なる情報を受け取った銀行は、運用会社に差異の指摘、修正依頼を出す。運用会社は、一度提出した情報について、指摘された解釈との差を確認しながら修正しなければならず、これも大いに手間となっている。

 3つ目は、各銀行から要望される書式が多様であり、対応に負荷がかかっていることにある。書式の差異のみならず、必要とされる項目自体も異なり、更に要求される項目の幅が近年の規制強化に伴い増加していることも運用会社の負担が大きくなる要因となっている。

 運用会社がこうした課題を抱える一方で、情報を受け取る銀行側でも、バーゼル規制対応は決して容易なものではない。前述の通り、各運用会社によって報告する項目のレベル感や解釈が異なる。その内容を確認するため、銀行側も独自に検証用情報を収集して差異を確認する業務を行っており、作業負荷を感じているのが現状だ。

 このように、これらの課題は業界全体に関わるものであり、各社がそれぞれ社内の事務を効率化すれば解決できるという問題ではないのである。

課題解決のために必要な仕組みとは

 こうしたバーゼル規制報告の実務課題を解決するには、運用会社・銀行業界全体で業務を標準化し、業界全体の業務負荷を最小とすることが必要になる。標準化を実施するために必要なことは大きく2点ある。

 1点目は、「資産運用業界標準の告示解釈・判定基準」を確立することだ。リスクウェイトやダブルギアリングを、各運用会社で独自に判定するのではなく、業界全体で銀行に対して説明可能な一定のルールを策定し、共通の仕組みにより銘柄分類の判定を一元的に行うのである。これを実現するための具体的方法としては、運用会社で協議を行いルールを策定し、第三者プロバイダーが提供する仕組みを利用して銘柄の判定を行い、その結果をユーザーで共有することが考えられる(※2)。こうしたサービスを多くの資産運用会社が利用することで、現在告示解釈の差異や調査で入手する属性データの差異によって生じている、各社間の判定結果の相違をなくすことができる。運用会社の対応負荷を軽減するのはもちろんのこと、資産運用会社-銀行間で発生している報告内容の齟齬を調整する負荷がなくなり、銀行と運用会社の双方の課題が解消するのではないか。

 2点目は書式の業界全体での定型化である。それには銀行側が必要とする項目を充分満たした共通フォーマットの規定が必要だ。それを適宜デリバリー可能とするサービス(※3)も考えられる。資産運用会社にとっては、各銀行間の差異に対応する手間がなくなることで情報提供の迅速化が期待できる。一方銀行は、どの資産運用会社のファンドを購入しても、必要な情報を同じフォーマットで簡単に入手することができるようになる。

 こうした標準化によって実務課題を解決できれば、業務負荷の大きさから更なる拡大に踏み出せないでいた銀行向けファンドビジネスにおいて、資産運用会社は大きな営業チャンスを掴むことが可能になる。バーゼル規制の強化は今後も続いていく見通しだ。2017年には、ファンド向けエクイティ出資のルックスルー対応が原則必須(※4)となる。この制度が実施されると、銀行は資本効率化の観点からファンドのリスクウェイト判定に対しより厳格な対応を行うようになる。資産運用会社は、今まで以上に詳細に、属性の調査、銘柄リスクの判定を行う必要が出てくるため、業務負荷はますます高くなると考えられる。こうした規制強化を見据え、今のうちから標準化による業務効率化を進めていくことが望まれよう。

1) バーゼル銀行監督委員会(Basel Committee on Banking Supervision)のこと。国際的に銀行を対象とした規制を協議し、監督を行うために設立された機関。
2) 野村総合研究所では、2016年春より、IDS/BISサービスとして提供予定である。
3) 野村総合研究所では、2016年度、BISレポートサービスの拡張として、サービス化を検討中。
4) 2017年1月より、銀行のファンド向けエクイティ出資についてのルックスルーの原則化が実施されるとファンドの資産構成が把握できない場合に現在より高リスクウェイトとなってしまうため、ファンドオブファンズのルックスルーなども必要となる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

古賀智子

古賀智子Tomoko Koga

資産運用サービス事業部
グループマネージャー
専門:資産運用サービス企画

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