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金利リスク管理高度化~なぜ顧客行動特性分析が重要か

2015年9月号

金融ITナビゲーション推進部 上級研究員 川橋仁美

バーゼル銀行監督委員会は、2015年6月にバンキング勘定の金利リスクに対する規制資本賦課に関する市中協議文書を公表した。バンキング勘定の資産・負債には、顧客側の都合による引き出しや期限前返済など顧客行動要因による影響を受けるという特性があり、管理高度化のためには顧客行動特性分析が不可欠となる。

バンキング勘定の金利リスクに関する市中協議文書の公表

 銀行ALMは、大きく3つの機能に分けられる。1)バンキング勘定の金利リスク管理、2)流動性(バランスシート)管理、3)資本管理である。このうちバンキング勘定の金利リスク管理は、銀行ALMの中核的機能である。この金利リスクについて、バーゼル銀行監督委員会(以下、バーゼル委員会)は、2015年6月に規制資本賦課に関する市中協議文書を公表した。市中協議文書公表の理由は2つ。1)現在の低金利環境下においては、金利変動による潜在的な損失に対して適切な水準の資本を備えることが重要になっていること、2)バンキング勘定とトレーディング勘定間の規制資本のさや取りを制限すること、である。

 今回の市中協議文書では、バンキング勘定の金利リスクの取り扱いについて2つの選択肢が提示された。ひとつは、第1の柱の下で取扱い、最低所要自己資本の算出を求めるという提案である。もうひとつは、現行の第2の柱の下での取り扱いを進化させるというものである(図表)。

 今回2つの選択肢が提案された背景には、バンキング勘定の金利リスクを第1の柱の下で取り扱うことについては国際的な合意形成を取り付けることが非常に難しかったという事情がある(※1)。その一方で、海外において政策金利の引き上げが現実のものとなりつつある今、バンキング勘定の金利リスク管理の高度化は銀行の喫緊の課題となっている。このことが、今回敢えて2つの選択肢を市中協議にかけるという判断に繋がったと考える。

 バーゼル委員会は、9月11日まで意見募集を実施。その結果を踏まえ、更なる検討を行う予定である。

求められる金利リスク管理の高度化

 今回の規制提案は、国際的に活動している銀行(※2)を対象としたものである(※3)。日本では、国際基準行が今回の規制提案の対象となるが、国内基準行も無関心ではいられない状況にある。それは、規模の大小を問わず、日本の銀行にとって金利リスク管理の高度化が重要な経営課題になっているからである。その理由は、第1に監督当局が数年前から注意を喚起してきたところではあるが、国内銀行セクターの抱える金利リスク・エクスポージャーが未だに高い水準にあることにある。第2に2014年4月に始まった異次元緩和の結果、銀行の海外貸出・外国証券投資の割合が高まっていることにある。第3に人口減少により長期的には銀行にとって低コストの資金調達手段である預金の減少が見込まれることである。第4に日本の銀行は、1993年の金利の完全自由化以後、本格的な金利上昇局面を経験しておらず、管理ノウハウの蓄積が乏しいことにある。

 今回の市中協議文書は、バンキング勘定の金利リスクの計測と管理に関する包括的な文書であり、銀行が管理高度化を検討する上で参考となる内容となっている。なかでも着目すべき点は、バンキング勘定の資産・負債には、顧客側の都合による引き出しや期限前返済など顧客行動要因による影響を受けるという特性があり、リスクを適切に管理するためには顧客行動特性分析が不可欠であることについて記述していることである(※4)。例えば、同じ預金でも、取引年数の長い顧客は、金利変動の影響を受けにくく、取引年数の短い顧客に比べて資金の滞留期間が長い。

リスク管理と収益管理の両面で役立つ顧客行動特性分析

 今回の市中協議文書では、金利リスクの観点から顧客行動特性分析の必要性に言及しているが、銀行の資産・負債に内在する顧客行動特性を詳細に分析することは、銀行にとっての顧客の価値~顧客のリスク特性とそれが期間収益に与える影響を明らかにすることにも繋がる。その結果はまた、自らが重視すべき顧客層や顧客リレーションシップ(※5)の特定にも役立つ。

 既に海外では、多くの金融機関が顧客行動特性の分析と予測に力を入れている。海外金融機関は、分析の結果を金利リスクや流動性の管理だけでなく、対顧客金利の戦略的設定などの営業戦略に活用している。

 一方、日本の銀行の多くは、顧客行動特性の分析が未だ不十分な状況にある。そのため異なる行動特性を持つ顧客をすべて同等に扱う結果となり、行動特性の違いによりもたらされる収益機会を失っている。また日本では、将来人口減少に伴い預金が減少することが想定されている。当然銀行にとって預金の価値は今より高まるが、預金に内在する顧客行動特性を正しく評価することができなければ、リテール部門に適切なインセンティブを与えることはできない。顧客行動特性分析が不十分であるが故に預金の価値を無視した営業戦略を推進した結果、銀行が予期しない金利リスクや流動性リスクに晒される可能性もある。

 銀行の資産・負債に内在する顧客行動特性は、当該銀行の過去の営業戦略の結果と言える。分析の結果、過去の営業戦略が意図した通りの成果を上げていないことが明らかになる場合もあるかもしれない。その一方で、意図した通りの顧客が資産・負債に集積していることが明らかになり自らの戦略に自信を深める銀行もあるだろう。また誰も予想しなかった宝の山を見つける可能性もある。日本の銀行を取り巻く収益環境は厳しく、銀行は新規市場・業務開拓に知恵を絞っている。しかし顧客行動特性分析の経験とノウハウがなければ、施策の効果を適切に評価することもできない。顧客行動特性分析の活用範囲の広さと効果の大きさを侮ることなかれ。

1) バンキング勘定の金利リスクについては、第1の柱の下で最低所要自己資本の算出を求めている国と第2の柱の下で取り扱っている国がある。
2) 計測は連結ベース。
3) 各国当局には、国際的に活動する銀行以外に適用する裁量権が認められている。
4) 顧客行動特性分析は、金利リスクだけでなく、流動性管理にも役立つ。流動性という観点からは、契約期間ではなく、資産・負債が実際にどの程度バランスシート上に滞留するかに着目した分析が行われる。
5) 複数の異なる商品、サービスの利用があること。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

川橋仁美Hitomi Kawahashi

金融イノベーション研究部
上級研究員
専門:内外金融機関経営、ALM、リスク管理

注目ワード : BIS(国際決済銀行)

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