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繰り返されるギリシャ危機の行方

2015年9月号

未来創発センター戦略企画室 上級エコノミスト 佐々木雅也

ギリシャ経済は政府も民間も国外からの資金供給に依存する形になっている。ギリシャ経済を成長軌道に乗せることで、この状況を変えない限りはギリシャ政府の債務問題が再度頭をもたげてくることになる。

財政赤字の削減に相応の努力をしたギリシャ

 ユーロ圏では、今年に入ってからギリシャ政府の債務問題が再び噴出している。この問題が世界の金融市場を揺るがすのは2010年、2012年に続いて3度目であり、嫌気が差している人も少なくないと思われる。

 だが、同じ問題が同じ国で3回も繰り返されたということは、それ以前に打ち出された対応策が根本的な解決策では全くなかったことの裏返しでもある。ギリシャの債務危機が4度目を迎えることなく、終わりを迎えるためには何が必要なのだろうか。

 ならばと考え始めてすぐに思いつくのは、やはり、ギリシャの財政再建がまだ不十分だったからではないかという点だ。今回のチプラス政権と債権者側との交渉のなかでも、ドイツをはじめとするユーロ加盟国の多くは、このような疑念のもと、財政再建のさらなる加速をギリシャ側に求めている。

 しかし、EUの統計機関であるユーロスタットによると、2009年に名目GDP比で15.3%もあったギリシャの財政赤字は2014年には同3.5%と、この5年間で11.8%ポイントも改善している。この昨年の値は、かつては金融市場からギリシャと同列に扱われたスペイン(同5.8%)やポルトガル(同4.5%)のそれよりも低い。

 また、ギリシャの一般政府の歳入は2009年にはGDP比で38.7%だったが、同じく5年後の2014年には同45.8%まで上昇している。実はこの値も、追加の財政再建を求めたドイツの歳入比率(同44.6%)を追い越している。これら一連の数字の改善を“不十分だ”と言ってしまえばそれまでだが、少なくとも、ギリシャはユーロ圏の求めに応じて、財政赤字の縮小に向けて相応の努力をしたことだけは間違いがない。

性急な緊縮財政が生み出したチプラス政権

 ところが、ギリシャの一般政府の歳入の変化をGDP比ではなく実額で見ると、結論は大きく変わる。2009年時点では920億ユーロだったギリシャ政府の歳入は、5年後の2014年には820億ユーロと100億ユーロ(10.9%)も減っている。

 歳入“額”が減ったのに歳入の“GDP比”が増えたのは、名目GDPがそれ以上に減ったからである。同じユーロスタットの統計によると、2009年のギリシャの名目GDPは2374億ユーロだったが、2014年には1791億ユーロとなり、率にして24.6%も縮小している。

 これまでの放漫財政のツケを払っている面があるとはいえ、年金支給を大幅に切り下げて増税も受け入れた結果、経済は疲弊してGDPは4分の3になり、失業率も25%を超えてしまった(※1)。こうした経済の実態を肌身で感じているギリシャ国民は、性急な緊縮財政に未来はないと率直に感じたのだろう。だからこそ、反緊縮を掲げるチプラス政権が年初に誕生し、あそこまでユーロ圏との交渉がこじれても、7月5日の国民投票で6割もの人々が反緊縮を支持したのである。

国外資金への依存度を高めるギリシャ経済

 このようなギリシャ経済の実情をお金の流れの視点から捉え直すと、より深刻な状況が浮かび上がってくる。図表はギリシャの資金過不足の推移である。これは同国経済のマクロ的な状況を金融取引の面から見たものであり、図表中央に横に走る実線より上にあれば、その経済主体が同国内での資金の出し手(=資金余剰)、下にあればその経済主体が同国での資金の借り手(=資金不足)であることを示している(※2)。

 この図表を見ると、この10年余りのギリシャ経済で資金を供給する側に立っていたのはほぼ一貫して海外部門であり、その資金の多くを政府が借り入れていたことが分かる(※3)。さらに2014年には、民間部門(家計、非金融法人、金融機関)も6.8%の資金不足に陥るなど、国全体が海外からの資金に依存していた(※4)。

鍵を握るのはギリシャ経済の成長

 このように、ギリシャは海外資金への依存体質と財政再建、そして経済の疲弊という3つの課題を解決する必要がある。しかしこれまでは、財政再建を最優先したために、弱体化した経済がさらに弱って海外の資金に頼らざるを得なくなり、財政危機が繰り返されることになってしまった。優先順位が間違っているのである。

 これからのギリシャが優先すべきは、同国経済が成長軌道に乗るための改革を加速させていくことである。ギリシャの主要産業は観光以外に乏しいとはいえ、ギリシャ経済の民間部門に少しずつ“稼ぐ力”がついてきて、それに合わせて税収も伸びてくれば、弱った経済に無理な増税をしてさらに経済を弱らせる必要もなくなる。

 また、経済成長によって自国の民間部門が富(=資金余剰)を蓄積していけるようになれば、政府は海外資金に頼らず、民間の資金余剰から赤字分の資金を調達できるようになる。そうなると、政府の資金繰りも徐々に改善し、財政危機も遠のいていくことになるはずだ。

 もっとも、ギリシャ経済の負担を軽くするという意味においては、IMFがEUに対して要求している(※5)ギリシャ政府の債務免除にどこまで踏み込めるかも重要なポイントになってくる。しかし、そうやって政府の債務負担を軽くしても、フローの面で同国経済が海外からの資金の借入れに依存する体質が残る限りは、早晩、同じ問題が頭をもたげてくることになる。

 ギリシャ以外でも、緊縮財政などへの疑念を背景に極右・極左政党が勢力を伸ばしている。そういった政治環境下でのギリシャの財政危機やユーロ離脱リスクの高まりは、通貨ユーロそのものへの懸念拡大につながりかねない。だとすれば、ユーロ加盟国はギリシャ経済の成長に向けてより一層、真摯に取り組む必要がある。

1) ギリシャの季節調整後の失業率は2015年4月時点で25.6%。
2) 資金過不足は、その国全体のお金の貸借関係を反映したデータであるため、理論上は、同時期の各経済主体の資金過不足額を足し合わせるとゼロになる。
3) 図表にあるように、2011年から12年にかけて海外の資金余剰がなくなったのは、ギリシャ政府などの債務問題が悪化したことでドイツなどへ資金が移動し、ギリシャに資金が流れなくなったことを反映していると見られる。また、この間の民間部門は金利の急騰によって資金調達が困難になっており、結果として資金余剰となった可能性が高い。こうした一時的な要因を除けば、ギリシャ政府の財政赤字は、継続的に海外からの資金で賄われている形になっている。
 また、ギリシャ政府は2012年から13年にかけて金融機関に資本投入を行っており、その資金は結果的に財政赤字によって賄われている。そのため、2013年前後の金融機関への資本投入を除いた実力ベースの政府の資金不足幅は図表の値よりも大幅に小さくなる。
4) こうした状況は、日本の政府債務が家計や企業による資金余剰によって支えられているのと極めて対照的である。
5) 下記IMFの両レポートを参照。
“Greece: Preliminary Draft Debt Sustainability Analysis”(2015年7月2日)
“Greece: An Update of IMF Staff’s Preliminary Public Debt Sustainability Analysis”(同7月14日)

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

佐々木雅也Masaya Sasaki

未来創発センター戦略企画室
上級エコノミスト
専門:マクロ経済分析

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