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インターネット金融の時代へ―中国のFinTech―

2015年8月号

NRI北京 金融システム研究部長 神宮健

中国のインターネット金融の発展は、既存の金融を変革するものである。FinTechというと欧米に目が行きがちであるが、中国の発展も注目される。

新常態下で重要な役割を担うインターネット金融

 中国のインターネット金融の発展は、既存の金融のあり方を変革するものである。日本では中国のインターネット金融がシャドーバンキングと関わりがあることからリスク面が強調されるきらいがあるが、中国の金融の今後の展開を見る上で過小評価は禁物である。

 今年3月の全人代(日本の国会に相当)の「政府活動報告」において、「インターネット+」が国の方針として発表された。中国が固定資産投資依存の経済成長モデルからの脱却を目指す中で、「新たな経済の形態」として提示されている。中国政府によれば、「インターネット+」は「生産要素配置の最適化・集成化においてインターネットの役割を発揮させ、インターネットのイノベーションの成果を経済・社会の各領域に深く融合させる中で、インターネットをインフラと実現ツールとする経済発展を広範囲で形成する」ものである(※1)(図表1参照)。

 具体的には、「モバイルインターネット、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、モノのインターネット等と現代製造業の結合を推進し、eコマース(電子商取引)、産業インターネット、インターネット金融の健全な発展を促進」(「政府活動報告」)する(※2)。

 また、同じく政府活動報告にある製造業に関する戦略「中国製造(メイド・イン・チャイナ)2025」はドイツの「インダストリー4.0」にも似た戦略であり、いずれにしても今後インターネットを利用して、製造・物流・商業・金融が連携して発展していく方向が示されている(※3)。中国経済の「新常態」の特徴が、長期的な経済成長率の低下と経済発展方式転換であるとすれば、後者においてインターネット金融も市民権を得て重要な役割を担うことがわかる。

サプライチェーン金融のさらなる発展へ

 今年5月に国務院が発表した「eコマースを強力に発展させ経済の新エンジンの育成を加速することに関する意見」を例に具体的な動きを見ると、ここで金融に関する言及は3点ある。

 第一は、eコマースに対する金融サービスの強化で、①ネット企業の国内上場奨励等の関連政策の研究、②商業銀行・在庫担保管理機関・eコマース企業による無形資産・動産担保等、多くの形式での融資サービス展開の支持、③商業銀行・ファクタリング会社・eコマース企業によるサプライチェーン金融・ファクタリングサービス展開の奨励、④ベンチャーファンドによるeコマース企業サポート強化、等である。

 第二は、金融サービスの新ツールの推進で、①モバイル金融のセキュリティを改善する公共サービスプラットフォームの構築、②モバイルeコマース取引の安全性と真実性の保障、等である。

 第三は、ネット金融サービス新商品についての規制の整備であり、①証券・保険・公募ファンド会社によるネット化のイノベーション奨励とネット金融活動に適応した新たな規制方式の構築、②保険業のeコマースプラットフォーム構築に関する規制整備とeコマースに関する信用保証保険(個人、小・零細企業向け)の関連政策制定の研究等である。

 以上の例からも示唆されるように、ネット金融の形態としては、モバイルでの支払・決済、資金運用商品や保険商品の販売、融資業務等があるが(※4)、今後「インターネット+」の文脈では、上記の第一にもあるネットを利用したサプライチェーン金融が注目されよう。これには、中国の金融の最大の欠点ともいえる中小企業金融の道を開くという意義もある。

 サプライチェーン金融は、中小企業の担保物件不足問題等の解決策として、中国でも10年以上前から導入されている。サプライチェーンの中核的企業の信用を利用し、コア企業の上流・下流にある企業に資金を融資するいわゆる「1+N」(1が中核企業、Nがその上流・下流にある企業群)モデルが代表的である。ただし、このモデルは十分に発達してきたとはいえない。一部の中核企業では、一括ファクタリングによって取引銀行が債権者に替わることを嫌うといったことが背景にある(※5)。このため商流に注目して動産担保等に基づく融資を目指す動きがあるが、データ収集や信用評価が難しいことが指摘されている。

 こうした中、債権の電子化や各企業の内部情報システムの相互リンクが進み、クラウドコンピューティングを利用したサプライチェーン内の各企業の情報処理の標準化、ビッグデータの利用といった技術の利用が考えられるようになるにつれて、中核企業の信用力ではなくデータ・情報に依存した信用分析による与信が可能になってくる。具体的には、ビッグデータを利用したリスク分析による融資や、物流倉庫会社等とのデータ共有による売掛債権・在庫融資等がある(図表2参照)。

 一部の商業銀行は既にこれらのモデルを実行しているほか、小企業の融資リスクをデータ分析して提供する会社も現れている。FinTech(Finance x Technology)というと欧米に目が行きがちであるが、中国の発展にも注目すべきである。

1) 『十二届全国人大三次会議「政府工作報告」学習問答2015』国務院研究室編集、中国言実出版社、等より。
2) 更に、「三網(通信網、テレビ網、インターネット)」融合を全面的に推進し、光ファイバー網の構築を加速し、ブロードバンドの通信速度を大幅に引き上げ、物流・宅配便を発展させる」とあり、インフラ面の整備も進められる。
3) 「インターネット+」の金融分野における各論としては6月に資産運用業が発表されている。
4) 実際、eコマース大手のアリババを例に取ると、アリペイ(決済)、余額宝(資金運用)、アリ金融(ネット上の融資)がある。
5) 中核企業は、個々の納入業者に対して交渉力が強いため、期日に資金を支払わないといったことが多い。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

神宮健Takeshi Jingu

金融イノベーション研究部
上席研究員
専門:中国経済・金融資本市場

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