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非対面での顧客コンタクトを強化する欧州リテール銀行

2015年8月号

金融コンサルティング部 主任研究員 西森美貴

欧州のリテール銀行では、対面ではリーチしづらい顧客層に対し、非対面チャネルで担当制を敷いてリレーションを構築し、活性化・収益化につなげるという新たなビジネスモデルが定着しつつある。対面サービスとは異なる顧客層との接点を強化するビジネスモデルとして期待が大きい。

 欧州では、非対面チャネル――電話、ウエブ(ドキュメント共有機能とビデオコール)、メール――を利用する顧客に担当者制を敷き、店舗訪問が限定的で対面での接触がしづらい層(※1)、なかでも特に自行にとって期待収益の高い顧客(主にマスアフルエント層(※2))を活性化し、収益化するビジネスモデル(以下、リモートRMモデル(※3))が注目を集めている。対面サービスに人々が感じる付加価値を非対面チャネルにも付加する新たなサービスモデルとして期待が高まっており、金融危機以降、立ち上げを試みるリテール銀行は年々増加している。

 欧州のリテール銀行では、デジタル化の進展による生活者の店舗訪問頻度の減少(※4)、スイッチングの日常化(※5)、既存顧客の高齢化など、顧客の状況は大きく変化している。それに加え、長期化する低金利や当局による規制の強化などでROEが大幅に低下したこともあり、ビジネスモデル変革へのプレッシャーが強まり、組織が変わらなければ将来的に生き残れないという認識が銀行の間に高まった。その対応策として、既存顧客、なかでも資産形成層とのリレーションの深耕や、これまでマス層と富裕層の間であまり目が向けられてこなかったマスアフルエント層(※6)の取込みにより収益増を図る動きが出てきた。同時に、販売コストを抑えつつ収益増を目指すデジタル戦略を用いた非対面チャネルの強化が目指され、リモートRMモデルはこれらのプロセスの一環で必然的に誕生したのである。

リモートRMはなぜ従来のバリアを超えられたか

 非対面チャネルを収益に貢献するチャネルとして仕立てようという試みは決して新しくはないが、実現は難しく、これまで非対面チャネル=情報提供機能中心とされてきた。リモートRMモデルが従来のバリアを超え、販売力を備えた収益貢献のある非対面チャネルとなれた(※7)ポイントとしては以下の点が挙げられる。

 まず一つ目に、リモートRM戦略を立てる際、顧客を保有金融資産だけでなく、チャネル嗜好という側面でもセグメントし、自行にとって期待収益の高い顧客を明確に定義した上で、その顧客層(主に店舗訪問が限定的なマスアフルエント層)を主軸とした戦略を検討している。

 二つ目に、リモートRMモデルは専門性を持った営業員による専属担当制で、営業店の営業時間以外(※8)にも顧客対応を行っている。信頼できる担当者が、顧客の都合のよい時に身近に相談にのり、疑問に答えたうえでアドバイス・提案を行い、意思決定の背中を押すことで、セールスのクロージング率をあげている。

 三つ目に、徹底した効率性の追求により、リモートRMは通常の対面RMの1.5~2倍の数の顧客を担当している。顧客訪問の移動時間の削減や(ITの進化による)全プロセスの電子化、既存のコンタクトセンターとの連携を通じた業務の効率化により顧客対応に割く時間を確保することで、担当顧客へのきめ細やかな接触や積極的な提案(クロスセル)を可能としている。

 また、リモートRMサービスのポテンシャル顧客には、(その顧客が紐づいている支店の)支店長から連絡をとってリモートRMサービスの紹介を行っている。サービス開始後の担当者との初回面談では、ビデオコールを使って顧客に担当者の顔を見せようとする地道な試みもされており、こうした配慮が顧客に安心感を持ってサービスを受け入れてもらうポイントとなっている。

BNP Paribas Fortisの事例

 欧州のリモートRMモデルは銀行サービスを中心としたものが多く見られるが、ここではマスアフルエント層を対象に資産運用面にフォーカスしたモデル(※9)を展開するBNP Paribas Fortisの事例を紹介する。

 同行がリモートRMモデルでターゲットとする顧客はネットを駆使するマスアフル勤労世代の既存投資家(投資経験者)であり、サービスを受けるには預かり資産が8万5千ユーロ以上(※10)あることが条件である(※11)。

 こういった層をターゲットとする目的の一つは、資産運用面で収益を見込める顧客の活性化である。具体的には、①専門家の意見に自分の意見を照らし合わせたうえで意思決定がしたい投資熟練層や、②働き盛りで忙しく、時間が限られ昼間は店舗に出向けないが資産運用に対しては前向きで、アドバイスや意志決定への一押しが欲しい勤労層に働きかけ、専門性がある担当者によるアドバイスの価値を実感してもらい、取引につなげることである。運用に対して関心のない個人(つまり、運用商品を保有していない個人)は、対象としていない。

 二つ目の目的は、将来性のある顧客とのリレーションの深耕である。リモートRMサービスを受けることのできる個人の保有金融資産の上限は25万ユーロと設定されており、将来優良顧客となる可能性がある勤労層とのリレーションを育む場所という位置付けになっている(※12)。

 同行のリモートRMモデルには、担当者の資質にも大きな特徴がある。運用知識の豊富さだけでなく、①アイコンタクトのない環境で、自分の金融知識を顧客と共有して提案を行い、顧客の運用意欲を高め、顧客自身による能動的な意思決定を促す力や、②会話のトーンのみから顧客の些細な状況の変化を察知し、ニーズを引き出す対話技術力など、対面とは異なるコミュニケーションスキルに長けた人材を厳格に選定し、配置している。その際、自行の店舗チャネルや他行の対面営業経験者を採用するだけでなく、非対面での顧客対応が強みのコンタクトセンターのスタッフをリモートRMに育成し、配置している。

日本への示唆

 わが国でも、店舗を訪問しない、あるいは訪問できない層の比率は今後増え続けることが想定され、彼らとの接点強化、リレーション深耕が金融機関にとって重要となってくる。国内金融機関が、デジタル化した環境下で、昼間忙しく店舗訪問が限定的な勤労層や店舗訪問が難しい遠隔地域在住者などと能動的に接点を保ち、貯蓄から投資への更なるシフトを導くうえで、欧州のリモートRMモデルは参考となるのではなかろうか。

 非対面チャネルを、バリューの低い顧客に低コストでサービスするチャネル、あるいはセカンドクラスのチャネルと位置づけるのではなく、店舗顧客とは異なる顧客層とのリレーションを構築し、収益化する有効なチャネルとして捉え直してみては如何だろうか。

1) ①店舗をほとんど訪問しないデジタル志向/ネット選好層、②日中、時間が限定的で店舗を訪問できない勤労層、③地方の店舗閉鎖後に担当者がつかなくなった層。
2) 対象は通常、マスアフルエント~アフルエント層だが、デジタル層の場合もある。
3) リモートRMはremote relationship managementの略。
4) 欧州では生活者の4人に1人が1年に一度も店舗を利用しない(EFMA, 2013)。
5) 比較サイトなどの台頭により、口座間の乗換が容易化。
6) 従来、富裕層はプライベートバンクが、マス層はリテール銀行が対応してきたが、マスアフルエント層レベルには注意が向けられていなかった。
7) ある銀行で、非対面嗜好の顧客を2つのグループに分け、一方にリモートRMをつけて、もう片方にはつけずに比較してみたところ、リモートRMがついたグループの方がクロスセル率が高いという結果が出ている。
8) 例えばBNP Paribas FortisのリモートRMサービスの営業時間は平日は7am~10pm、土曜は9am~5pm(営業店は平日7pmまで、土曜は9am~12pmに営業)。
9) リモートRMが、年4回のポートフォリオレビュー(他行、他社の金融資産も含め、ポートフォリオ提案と運用アドバイスを行う)以外に、個別のニーズに合致した情報提供を意識した接触で顧客の運用意欲を高める。
10) 平均保有資産額は一口座当たり15万~20万ユーロ。
11) 全顧客数360万人うち、約8万人と推定。
12) 最近までリモートRMサービスは同行の「対面プライベートバンキング(PB)サービスへの導線」とされてきたが、リモートRMサービスを利用する個人は資産形成が進んでもこのサービスの継続を希望する場合が多いことから、昨年、非対面専用PBサービスをローンチし、リモートRMサービスの継続利用を希望する顧客はそちらへ送客するという新たな取組みを開始している。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

西森美貴

西森美貴Miki Nishimori

金融イノベーション研究部
主任研究員
専門:欧米リテール金融

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