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コーポレートガバナンス改善は外形基準に拘るな

2015年8月号

金融ITイノベーション研究部 上席研究員

2015年6月にコーポレートガバナンス・コードが日本の上場企業に適用開始となり、多くの企業がコーポレートガバナンス改善に努力しているが、外形基準を重視するケースも見られる。ガバナンス改善の狙いは企業価値向上にある。そのための実質的な努力が必要であり、投資家やコンサルタントはその努力を評価するべきである。

 2015年5月に改正会社法が施行され、6月からはコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコードと略)が日本の上場企業に適用された。東京証券取引所の調査(※1)によると、社外取締役を選任した上場企業の割合は2015年6月に速報ベースで92%に達し、2名以上の独立社外取締役を選任した企業の割合も47%と、前年比で25%もの大幅増となっている(※2)。これらの法律及びコードで求められる外形的基準を満たすために、上場企業が様々な努力を行っていることが見て取れる。

 一方で、「外形基準」にとらわれ、肝心の「長期の企業価値向上」という、コーポレートガバナンス改善の本来の目的を見失う動きも出ているようである。今一度、本来の趣旨に立ち返ることの重要さを指摘してみたい。

外形基準にとらわれた対応とは何か

 外形基準にとらわれた対応とはどのようなものか。幾つか例を示してみたい。5月から施行された会社法では、上場企業に3つの機関設計を認めている。新たに認められた機関設計が「監査等委員会設置会社(※3)」であり、監査役会設置会社から移行する上場企業が増加している。大宗を占める監査役会設置会社では取締役会が執行と監督、両方の役割を果たす必要があるが、監査等委員会設置会社は取締役会が監督機能により専念しやすく機能が分かりやすいと考えられる。

 しかし、監査役会設置会社であっても、社外取締役で構成される指名諮問委員会などを取締役会の下に設置し、そこで社長を含む経営陣人事を決定する実質的な権限を与えるような工夫を行い取締役会の監督機能を強化している上場企業も存在する。機関設計がどうであれ取締役会の機能強化はその気になれば十分に可能なのである。

 取締役会議長とCEO(最高経営責任者)を分離することも、コーポレートガバナンスの外形基準を満たすという意味では推奨されている。しかし、これも企業が置かれたビジネス環境、またCEOである人物の力量などによってどちらの方が企業価値向上が図れるか、ケースバイケースであろう。例えば、企業が再建途上にあり経営の意思決定スピードを高めたい場合には、2つの役職を同一人物が務め、また取締役会を全員社内で占めたほうが良い場合があるだろう。要は、企業価値向上に何が重要なのかを企業が自ら考えコーポレートガバナンスを改善していくことがポイントなのである。

 このような外形基準にとらわれているのは企業だけではない。企業に対してIR(投資家リレーション)をサポートしている会社や議決権行使助言会社にも同じような例が見られる。6月に起こった事例だが、ある大企業の社外取締役選任が米国の議決権行使助言会社から反対された。この社外取締役が社長を務める企業がこの上場会社とコンサルティング契約を結んでおり、利害相反の可能性がある、という理由からのようである(※4)。

 この決定をどう判断すればよいだろうか。社外取締役が社長を務める会社とこの上場企業に利害関係があるのは事実である。一方、この社外取締役は取締役の下の3つの委員会の委員長を務め、その間、当該企業の企業価値は大きく上昇したと考えられる。企業価値向上を図ることがコーポレートガバナンス改善の重要な目的の一つであり、その目的からすればこの社外取締役の資質は優れていると思われ、この決定は外形基準にとらわれたものと考えるべきなのではないか。

 IRコンサルティング会社でも、外形基準から事業会社にアドバイスをする例が見られる。例えば、CGコードでは株主総会での議案に対して「相当数の反対票があったと認められる場合には、その理由や原因を分析し検討を行うべき」との内容が盛り込まれている。あるコンサルティング会社では機関投資家の意見に基づき議案の種類毎にその「相当数」について基準を示しているという。また独立役員の要件や先述した機関設計についても一定の標準形を示している場合もある。確かに機関投資家がこれらの基準についてどのように考えているのかを知ることは企業にとって参考になるかもしれない。しかし、重要なことは、このような情報を参考にしつつも、企業が自らの判断で決定を行うべきということであり、その判断は企業価値向上という視点から行うべきという点である。

企業価値向上の視点を持つことの重要性と難しさ

 今回のCGコードは、中長期の企業価値向上を図るために制定されたものである。企業価値を向上させ収益力を高め、従業員により高い報酬を支払い、また配当などの形で投資家にも利益の一部が配分されることで、日本経済の活性化が図られるのではないかとの政策目的を持っているのである。従ってコーポレートガバナンスが改善したかどうかは、すべて「企業価値」という物差しで判断しなければならない。しかし企業価値は目に見える形で存在するわけではない。企業価値を正しく判断できるのは、社内においては企業経営者であり、外部においては一握りの真の長期投資家であろう。

 6月末に日本政府が発表した『「日本再興戦略」改訂2015』では、「「攻め」のコーポレートガバナンスの更なる強化」が柱の一つになっている。取締役会の役割や責任の範囲を明確化するための会社法改正や情報開示ルールの見直しを行い、中長期的な企業価値の創造に向けた企業と投資家の建設的な対話を促進させるようである。しかし、これらの前提になるのは、企業及び投資家の能力向上である。企業はなによりも収益力の向上が急務であり、そのための適切な投資やイノベーションの推進が不可欠になることは言うまでもない。現在は投資家への還元方針を変更するといった財務戦略の改善に主力を置く企業が多いようだが、本丸は利益率の改善にあり、そのための経営戦略の立案が何よりも重要である。

 投資家は外部から企業の中長期の価値を見極める能力を高めることが大切である。しかしこれは口で言うほど簡単ではなく、グローバルに見ても一握りの長期投資家しか持っていない。今よりもさらに高いレベルでの、企業価値の判断能力を付けることが必要なのである。そもそも短期の投資においてこのような能力を獲得することは困難であり、投資戦略そのものを見直す必要性に迫られる運用会社も多いのではないか。企業と投資家の間に立ちアドバイスを行うコンサルティング会社も、外形基準ではなく、各企業の企業価値を基準にして助言をする能力が必要である。企業価値向上に向けた不断の努力が関係者すべてに必要であることを自覚しなければ、今回の改革は成功しないだろう。

1) 東京証券取引所、「東証上場会社における社外取締役の選任状況<速報>」、2015年6月17日。
2) 会社法では、社外取締役を選任しない場合、定時株主総会において社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならないことになっている。またコーポレートガバナンス・コードでは、独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきであるとされている。
3) 監査等委員会設置会社では、監査等委員会を設け過半数を社外取締役にする必要がある。そして取締役会の一部の権限を業務執行の取締役に委任でき、取締役会がより戦略的な決定事項に専念できるという利点を持っているとされている。
4) コンサルティングの契約額は、当該社外取締役が社長を務める会社の売上の1%未満、また当該上場企業の売上高からみても1%未満となっている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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