1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. 金融機関経営
  6. IFRS導入を契機とした経営改革実施のすすめ

IFRS導入を契機とした経営改革実施のすすめ

2015年8月号

経営革新コンサルティング部 上級コンサルタント 中神貴之

近年IFRSを導入もしくは導入予定の企業が増えてきている。事業活動のグローバル化及びクロスボーダーM&Aの増加に伴う経営管理や海外向けIR等がその背景にあるが、IFRS導入を単なる財務的課題と捉えるのではなく、全社的な経営課題として企業全体のガバナンスの在り方を変革する契機と考えるべきである。

IFRS導入企業数増加の背景

 IFRSを導入もしくは導入予定の企業が増加している。東京証券取引所の調べでは2015年6月時点で任意適用会社数は44社、任意適用予定会社数は43社となっており、適用を検討している会社数も含めると100社を超える状況にある。日本で任意適用が開始された2010年度3月期時点で数社に留まっていたことを考えると、近年急速に増加傾向にあると言える。

 IFRS導入が近年増加したのは企業にとって導入する経済合理性が高まったからだと考えるのが自然である。IFRS導入を決定した主な理由・経緯をみると、経営管理への寄与や比較可能性の向上が挙げられている(図表1)。

 経営管理への寄与に関しては日系企業の事業活動がグローバル化していることが背景にある。しかもその範囲が欧米等の先進国だけではなく、新興国にまで及んでいるために、多くの新興国が採用しているIFRSを導入する後押しになったと言える。さらに言えば、海外での事業活動、例えば現地の公共事業案件に入札するに当たっては、IFRS基準での財務諸表の提出を求められるケースが多いなど、単なる経営管理上の問題だけではなく、現地で事業活動を推進していくうえでも必要条件になりつつあると言える。

 ただし、急速な増加の直接的な要因としてはクロスボーダーM&Aが影響していると見られる。日本企業によるM&A件数はリーマンショックにより一時的に減少したものの継続して増加傾向にある(※1)。特に2009年以降では円高が後押しする形で海外企業のM&A件数が増加しており、その傾向は昨今の円安局面においても変わらず、M&Aが日系企業の経営戦略の重要なツールとして定着した感がある。クロスボーダーM&Aにおいては、ディール段階において必要に応じて株主に対して現地基準(IFRS基準)の財務諸表を提出する必要が生じる。また、買収した現地企業が異なる会計基準を採用している場合、PMI(※2)段階において本体の会計との調整コストが発生したり基準の違いによる迅速な経営判断が阻害される等、クロスボーダーM&A特有の問題が出てくる。

 比較可能性の向上については外国人投資家の存在感の高さが背景にあろう。外国人投資家の投資動向が与える日本の株式市場への影響は無視できないほど大きくなっており、その重要な株主へのIRの観点からわかりやすい情報開示がより一層求められている。

コーポレートガバナンスの重要性

 IFRSを導入する企業の本質的な目標はもちろん企業価値向上にある。自社の実態により合った管理会計、財務会計にすることでグローバルに展開する事業への迅速な経営判断を可能とし、また外部の投資家に対してはより正確に、かつより比較可能な形で自社の業績を開示することで適正な投資判断を促すことがIFRS導入の目的である。そのIFRS導入の目的実現にあたって最も留意すべき点はコーポレートガバナンスの強化、つまり経営プロセスの監督機能の強化だと言える。

 そもそもIFRSには、コンバージェンスが進められてきたとはいえ日本会計基準とは異なる点がある。『のれん』の償却有無や『含み益』の収益計上等が相違点としてよく挙げられるが、その前提となる主義そのものも異なっている。日本基準が細則主義であるのに対して、IFRSは原則主義である(ただし、細かく規定されている点もある)。重要な点は、原則主義であるがゆえに企業にはIFRSルールに則った上で一定の許容度が与えられることである。企業は自社の事業特性に応じて投資家に説明しやすい指標を定義することが可能となる。

 ただし原則主義の前提は、IFRSで示すガイドラインに則り自社内で適切なルール設定がなされるとともに、そのルールをチェックする厳格な監督機能が経営プロセスに組み込まれていることである。上場会社に対して6月にコーポレートガバナンス・コードの適用が始まるなど、制度的にもコーポレートガバナンスを強化する動きが進んでいる。前述したようにIFRSの導入理由として経営管理への寄与が挙げられているが、それは事業のグローバル化への対応のみならず、今後の経営の在り方そのものを変える機会と捉えることもできる。

最後に

 IFRS導入の促進は政府の成長戦略の一環でもあり、今後IFRSのルール策定において日本の存在感をより高めるためにも国内での高い導入実績が必要であり、それが国益につながることもあろう。

 ただしIFRS導入に当たっては外部アドバイザーや監査法人への支出、及び関連するシステムの導入または更新が必要であり、決して安くはない投資といえる(図表2)。よって個々の企業は、純粋にIFRS導入の投資対効果をシビアに見極める、もしくは効果を最大化させるような取り組みを実施することが必要となろう。具体的には管理会計の見直し、経営企画機能の強化やガバナンス体制の強化等の経営管理システムの再設計、及びそれに適合した情報システムの更新を図り、それによって永続性の高い経営基盤を構築することが求められる。

1) 2009年の日本企業のM&A件数は1957件で、そのうち海外企業に対するM&A件数は299件、金額ベースでは2兆8000億円。これに対して2014年はM&A件数が2285件で、そのうち海外企業に対するM&A件数は557件(過去最高)、金額ベースで5兆7740億円と増加傾向にある。エリア別では米国が最も多く152件、次いで中国が49件となっている。(レコフ調べ)
2) PMI:Post Merger Integrationの略。M&A完了後の統合プロセスを指す。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

中神貴之Takayuki Nakagami

コーポレートイノベーションコンサルティング部
上級コンサルタント
専門:M&Aなどコーポレートファイナンス

注目ワード : IFRS