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生産性革命を目指す成長戦略

2015年8月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

政府の成長戦略が閣議決定された。日本経済には明るさも見えるが、循環的要素は否めない。中長期の成長率を高める成長戦略の着実な実行が期待される。

成長戦略の閣議決定

 2015年6月30日、日本政府は、①「日本再興戦略」改訂2015、②経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2015、③規制改革実施計画、をそれぞれ閣議決定した。これらは、産業競争力会議、経済財政諮問会議、規制改革会議の三つの会議体の検討結果を取りまとめたものだが、相互に深く関連している。いずれも安倍内閣の経済政策「アベノミクス」の3本目の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」の骨格を成すものである。

 こうした文書の策定・公表は、いわば年中行事ともなっているが、今年の注目すべきポイントとしていくつかの点が指摘できよう。

 第一に、「日本再興戦略」においては、生産性の向上を重視し、企業の「稼ぐ力」を高める必要性が引き続き強調される一方、「ローカルアベノミクス」がうたわれ、地方活性化に資する産業政策の方向性が明らかにされた。これは、アベノミクス効果が大都市圏にしか浸透していないといった見方があることを踏まえ、地方経済の底上げを図ろうとするものである。

 また、成長戦略を加速する官民プロジェクトとして「改革2020」と銘打ったメニューが提示され、新しい技術を活用した社会的課題の解決、訪日観光客の拡大、対日直接投資拡大などに取り組む方針が打ち出された。

 第二に、「骨太の方針」では、財政再建に向けて、社会保障支出の伸びを高齢化による増加分と消費税率引き上げと併せて行う充実等に相当する水準に収めるなど、歳出改革の内容が具体的に示されると同時に、経済の再生が財政健全化の前提であることが改めて確認された。

 第三に、規制改革実施計画においては、「健康・医療」、「雇用」、「農業」、「投資促進等」及び「地域活性化」の各分野について、計182項目にのぼる個別措置事項が示された。そこでは、ヒト・モノ・カネ・情報が成長に向かって動き出すとともに、国民ニーズに対応した多様な選択肢を提供できる環境整備が目標とされている。

進展する規制改革

 筆者は、これらの閣議決定文書のうち、規制改革実施計画に盛り込むべき事項について提言した規制改革会議の第3次答申「多様で活力ある日本へ」の取りまとめに、同会議の委員の一人として関与した。その経験を踏まえて、規制改革実施計画について、若干の私見を述べておきたい。

 規制改革会議は、民主党から自由民主党への政権交代によって安倍内閣が発足した直後に設置され、これまで3回にわたって答申を作成し、多数の規制改革事項についての提言を行ってきた。その狙いは、経済再生へ向けた成長戦略の推進に当たっての阻害要因を除去することであり、取り上げられた事項の多くは、民間の事業者が事業を展開していく上で障害と感じている、必ずしも合理的とは思われない規制について、撤廃や見直しを求めるというものである。

 規制改革会議の答申を受けて決定された実施計画には、多数の規制改革事項が掲げられたが、メディアの評価は「小粒」の項目が並んでいるだけといった受け止め方で、決して好意的なものとは言えない。過去の答申に盛り込まれた農協改革や保険外併用療養制度(いわゆる混合診療)の拡充のような「岩盤規制」に切り込む「目玉」とも言うべき内容に乏しいといった見方もなされたようである。

 しかし、一見技術的で些細に思える規制が、ビジネスの現場では大きな障害になっていることも多い。規制改革では「神は細部に宿る」。大向こうをうならせる派手な演出は欠いていても、重要な問題に取り組んだことの意義を理解してもらいたいものである。

フォローアップの重要性

 また、これは規制改革のみならず、成長戦略全般について言えることだが、目新しいテーマやトピックを打ち出すだけでなく、過去に決定された施策がどのような形で実行されているのか、所期の効果が表れているのかといった検証を怠らないことが重要である。いくら立派な文書を取りまとめても、その後の実行が伴わなければ意味がないからである。

 規制改革会議は、この点にも意を払っており、新たな規制改革事項を取り上げるだけでなく、過去の閣議決定内容のフォローアップも積極的に行っている。関係者の合意が得られ、閣議決定が行われても、法令改正等の作業には時間を要する。それがスケジュール通りに進んでいるかどうかをチェックすることは欠かせない。

 ギリシャの債務問題や国際テロ等の地政学的リスクなど、とりわけ海外には不安定な要素が少なくないとはいえ、最近の日本経済は明るさを取り戻しつつある。もっとも、これにはリーマン・ショック後の経済の急失速からの循環的な回復という側面があることも否めず、現段階では、もともと中長期の成長率を高める効果が期待される成長戦略が奏功しているとは思われない。一連の閣議決定の着実な実行が期待される。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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