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「不動産と金融の融合」から「不動産と情報技術の融合」へ

2015年7月号

経営革新コンサルティング部 上級研究員 谷山智彦

従来、不動産は情報の非対称性が強く、不公平で不透明、非効率的なアセットクラスであった。しかし、近年では金融業界におけるFinTechの動きに続き、「Real Estate Tech」とも呼ばれる不動産テクノロジー企業への注目が集まっている。「不動産と金融の融合」のみならず「不動産と情報技術の融合」が本格的に始まろうとしている。

金融資産と比べ、不動産は未だ「時代遅れ」なのか?

 保守的で変化に乏しく、イノベーションも遅い不動産業界。いざ初めて不動産に投資しようと思っても、市場データの不足や分かり辛い業界慣行にしばしば直面してしまった経験を持つ投資家も多いのではないだろうか。百戦錬磨のプロフェッショナルでさえ、時に勘と度胸と経験に頼らざるを得ないことが多い。伝統的な金融資産の投資家から見れば、不動産市場は不透明で不公平、そして非効率的な市場に見えてしまうだろう。

 実際に、金融・保険市場から見て、不動産市場が遅れていると言われる要因の一つが「デジタル化」である。

 図表1は産業別のデジタル化指数(※1)を示したものであるが、最もデジタル化が進展している金融・保険業界に対して、不動産関連の産業は軒並み低位に位置しており、もはや「時代遅れ」の産業となりつつあると言える。

 日本では「不動産と金融の融合」と言われて十数年が経過し、海外でも今やFIRE Economy(Finance, Insurance, and Real Estate)と言われるものの、金融・保険業界と不動産業界の間には「デジタル・デバイド」という大きな格差が存在しているのが現状である。

やっと不動産業界にも「Digital REvolution」の波が来た?-FinTechからReal Estate Techへ-

 1990年からフランス・カンヌで毎年3月に開催されている世界最大の不動産見本市MIPIM(ミピム)。参加者は世界各国から2万人を超え、都市開発や不動産投資に関連するプレイヤーが一堂に会する国際会議である。

 普段は都市開発のジオラマや模型が立ち並ぶMIPIMであるが、2015年3月に開催されたMIPIM 2015では「Digital REvolution」、つまり「不動産と情報技術の融合」が初めて1つのテーマとして取り上げられた。そこでは、不動産に係るオープンデータ活用ビジネス、ビッグデータを活用した不動産市場分析、空き家や遊休地のシェアリング・エコノミー、そして不動産の投融資に係るクラウドファンディング等の事例が多数紹介された。これは、従来の伝統的で保守的な不動産業界に対する警鐘として、無数のスタートアップ企業が起こしつつある破壊的なイノベーションの動きを紹介したものである。

 実際に、近年では、金融業界における「FinTech(フィンテック)」に続き、「Real Estate Tech」とも呼ばれる不動産テクノロジー企業が続々とベンチャー・キャピタルからの出資を受けて急成長を遂げている。図表2は、これらの不動産テクノロジー企業に対するベンチャー投資額の推移(※2)を示したものであるが、2013年以降に急拡大しており、この「不動産と情報技術の融合」に対する注目度が急速に高まっていることが分かる。

 このReal Estate Techの代表格としては、既に大手不動産情報サイトにまで成長したZillow社(※3)があるが、それ以外にも多数のイノベーションが不動産業界で着々と進展している。例えば、CompStak社は、従来は不動産業界の関係者が自社内で囲い込んでいた賃貸オフィスビルの成約情報を、匿名で相互に共有できるサービスを提供し、不動産市場の透明性を飛躍的に高めた。また、SmartZip社は、独自のアルゴリズムでビッグデータを分析し、現在売りに出ている物件情報ではなく、今後半年から1年以内に売りに出されると予想される物件情報を不動産事業者向けに提供し、従来のアナログ的な不動産マーケティングの方法を大きく変革させている。

 このように、Real Estate Techと呼ばれる企業は、探索費用が高く取引成立までの期間が長くなってしまう不動産で、低コストで迅速に取引することが可能な仕組みを提供したり、オープンデータやビッグデータを用いて不動産を金融資産と同等のフレームワークで評価できる仕組みを構築したり、生産性が低かった不動産取引関連業務を効率化したりするなど、従来の不動産業界では考えられなかったイノベーションを多数実現している。

期待される日本版Real Estate Techの登場

 2015年5月、世界最大の不動産見本市MIPIMが初めて東京で開催された。このMIPIM Japanは、2020年の東京オリンピックやアジアを中心とした都市開発プロジェクト、先進的なスマートシティの紹介等をメインテーマとするものであったが、日本の「DigitalREvolution」の萌芽を扱うセッションも開催された(※4)。

 日本の不動産市場は、世界の中でも透明性が低いと言われているものの、近年では国土交通省による不動産取引価格情報や不動産価格指数の公表、そして不動産に係る情報ストックシステムの構築等、官民によるオープンデータの整備が進展している(※5)。そして、それらの情報基盤整備に伴い、幾つかの先進的な民間企業も、データに基づいた投資意思決定や都市開発事業を行いつつある。

 従来の不動産業者は、情報の非対称性や囲い込みによって収益を獲得してきたとも言われる。しかし「日本版Real Estate Tech」の登場により、今後は旧来型のビジネスモデルは淘汰されるだろう。不動産プレイヤーは、オープンで、フェアで、透明性の高い不動産市場でも、本当の超過収益を獲得する能力が問われることになる。

1) このデジタル化指数は、欧州における15の産業のデジタル化の度合いを示したものである。
2) この投資額の推移は、主に米国VCファンドによる世界の未公開企業への投資事例を対象としたものとなる。
3) Zillow社のサービスに関しては「情報化時代の不動産投資分析」金融ITフォーカス2012年8月号でも紹介している。
4) MIPIM Japan では、Digital REvolution:Towards Open Fair and Transparent Marketというセッションが開催された。
5) 例えば、2015年3月から公開が始まった国土交通省「不動産価格指数(住宅)」の東京都指数は、実際の取引価格に基づく1984年4月以降の月次指数となっている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

谷山智彦Tomohiko Taniyama

ビットリアルティ株式会社
取締役
専門:不動産テック、証券化、不動産金融工学等

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