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種類株活用の新たな展開

2015年7月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

トヨタ自動車が、中長期の投資を前提とする個人投資家をターゲットとした従来にないタイプの種類株を発行する。特定の投資家層の獲得のために種類株を活用する新たな試みである。

「AA型種類株式」の登場

 トヨタ自動車が、株主総会で定款改正が承認されたことを受け、2015年7月以降、従来にないタイプの種類株を発行する。この「AA型種類株式」は、普通株と同じ議決権を有するが、概ね5年間は換金できず、その後は普通株への転換や会社に対する発行価格での取得請求が可能な優先株である。発行価格は、その時点の同社株価の126%〜130%の範囲内とされる。優先配当の利回りは、当初は普通株式よりも低い水準の0.5%に設定され、5年間にわたって0.5%ずつ引き上げられ、最終的には2.5%となる(図表参照)。

 今回の種類株は、従来の一般的な優先株とは異なり、優先株でありながら議決権を伴う一方、発行価格が同じ議決権を有する普通株の株価にプレミアムを載せたものとされ、5年間売却できないというデメリットを伴う。

 トヨタ自動車が、このような種類株を発行する狙いは、次世代技術の研究開発やインフラ投資といった短期的に成果の出にくい使途に充てる資金を調達するために、5年以上の長期で同社に投資する株主を獲得することである。同社株の個人保有比率は約12.5%(2014年3月末)と、市場全体の20%程度に比べてかなり低い水準にとどまっている。今回の種類株発行の主要なターゲットとなるのは、同社のファンとも言える個人ユーザーだろう。種類株をあえて同社初の量産乗用車にちなんで「AA型」と名付けたことにも、そうした意図が表れる。

多様化する種類株

 かつての日本の商法は、株主間の平等を徹底するといった観点から、種類株の発行を厳しく制限していた。実際、利益配当や残余財産分配について普通株より優先され、優先配当が支払えない場合にのみ議決権が復活する無議決権優先株を除けば、上場企業が種類株を発行する例はほとんどみられなかった。

 しかし、2000年代以降、会社経営の自由度を高める方向での商法・会社法や取引所規則の改正が進められたことで、上場企業による種類株の活用方法も多様化が進んでいる。

 具体例としては、2001年6月のソニーによるトラッキング・ストック(子会社業績連動株)の発行、2004年11月の国際石油開発(現国際石油開発帝石)による黄金株(拒否権付き)の発行、2007年10月の伊藤園による無議決権株の発行、2014年3月の普通株の10倍に相当する議決権を有する種類株を発行しているサイバーダインによる株式新規公開(IPO)などが知られている。サイバーダインの種類株については、本誌2014年5月号掲載の拙稿でも取り上げた。

 また、近年、経営陣による上場企業の買収(MBO)に際して、株式公開買付(TOB)に応じなかった株主の保有する普通株式を全部取得条項付株式に転換して会社が全部取得するという実務も定着している。

 これまでの種類株は株主間で議決権に差違を設けるものが目立ったが、今回の種類株は、中長期的な株主となる個人投資家の取り込みを狙いとする点で、従来にない種類株活用の試みである。

個人株主獲得の手段

 個人投資家をターゲットとする種類株発行は、会社による株主の選択とも言える。トヨタ自動車は、種類株発行による既存株主の権利の希薄化を和らげるために自社株買いを行うので、株主の入れ替えが起きることになる。

 これに対しては、株主が経営者を選任するという原則に反するという見方もあろう。また、元本保証とも言うべき仕組みとなっている点をとらえ、「社債権者に議決権を与えるのか」といった指摘も一部にみられた。

 しかし、会社法は、第三者割当増資を容認していることからも明らかなように、会社が株主を選ぶことを全否定はしていない。また、種類株は社債や借入れよりも残余財産分配が劣後する資金調達手段であり、発行価格での取得請求が可能という点だけをとらえて、社債に議決権を付したとみるのは行き過ぎだろう。

 多くの上場企業が、個人株主を増やすために株主優待制度を設けている。しかし、保有株数や保有期間で優待内容に差を付けることは株主平等の観点からは疑問もある。また、優待券等の換金が必要となるので、機関投資家には評判が悪い。一方、種類株の発行は、既存株主の同意を得て異なる権利を持つ株主を創設するものであり、普通株への投資家の理解を得やすいはずである。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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