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顧客の関心事に目を向ける姿勢がカギとなる相続ビジネス

2015年6月号

金融ITナビゲーション推進部 上級研究員 萩野祐一

2013年度、2015年度の税制改正大綱を受けて、高齢の顧客の相続への関心も高まっている。金融機関でも数多くのセミナーを開催したり、相続関連サービスの拡充を図る動きがみられるが、今後、より相談したい金融機関として認識してもらうためには、顧客の関心事に真摯に目を向ける姿勢や対応がより一層重要となろう。

 相続税や贈与税等の資産課税については、2013年度と2015年度の税制改正大綱で大きな改正が盛り込まれた。相続税は2015年1月から基礎控除額が引き下げられるなど課税が強化される一方で、教育資金一括贈与の非課税制度が期間延長されるなど、次世代以降への資産移転(贈与)に関しては緩和・拡充の方向にある。

 野村総合研究所は、このような税制改正を受けた高齢者の相続への意識や金融機関のセミナー・相談の利用状況等を把握するために、50代~70代の男女を対象として2015年2月にインターネットアンケートおよびインタビュー調査(※1)を実施した。

高齢者の相続に関する意識や行動実態

 50歳以上の男女のうち、自身の保有資産の相続について考えている人は47.3%であった。50代では37.8%だが60代は50.3%、70代は54.9%と年齢が高くなるほど、その割合も高い。資産を受け取るであろう相続人として誰を意識しているかを性別で見ると、男性は「家族(妻と子供)」が52.4%と最も多いのに対し、女性は圧倒的に「子供(45.8%)」が多い。金融機関が富裕高齢者の次世代層にも取引を継続してもらうためには、特に女性を意識した対応が必要であることがうかがえる。

 課税強化で相続税のかかる可能性がある3000万円以上の資産保有者に対象を絞り、税制改正を受けた意識や行動状況を見たのが図表1である。既に十分な相続対策を実施しているので特に既存対策の見直しは必要がないという人が9.9%存在するものの、不安に感じたり、対策の見直しが必要と感じている人(以降「税制改正関心層」と表記)が54.1%と半数以上に上る。しかし、そのうち実際に金融機関等に相談するなど具体的な行動に移した人は限られており、約6割が「特に行動には移していない」を選択した。相続相談や対策実施に向けて高齢者が動き出すのはまだまだこれからと言えそうだ。

金融機関のセミナーや相談の利用状況

 税制改正関心層の中でも4割程度は何らかの行動に移している。その行動実態を以下で見てみたい。

 図表2の通り、相続関連の本を読んだりした人がもっとも多く46.8%、次に多いのが何らかのホームページで調べたという人で、40.1%あった。税制改正の記事やニュースを目にして具体的な内容を知りたいと思った人も多かったことが分かる。

 一方で、金融機関に相談した人は20.2%、金融機関のセミナーに参加した人は14.7%とそれほど多くない。しかし、金融機関に相談した人の43.1%は相談後に金融商品購入や見直しを行っている点は注目すべきであろう(図表2右)。「相談すると何か商品を売りつけられそう…」との思いから個別相談にまで踏み込めない人もいるようだが、セミナー参加者の数を増やして、一部を相談に誘導したり、顧客に直接相談してもらえる関係を築ければ、様々な提案につなげることができそうだ。

金融機関の対応状況と今後への示唆

 では、税制改正関心層に対する実際の金融機関の対応はどのようなものであろうか。

 昨今では、銀行や信託銀行、証券会社、保険会社を問わず多くの金融機関が相続に関するセミナーを開催している。ただ、その内容はどこも大差ないものと捉えられているようだ。例えば、複数の金融機関のセミナーに参加したあるインタビュー被験者は「金融機関の相続セミナーはどこも50歩100歩。全く代わり映えしない」と言う。確かに、金融機関の相続セミナーを見ると「相続税改正のポイント」と「保険や信託等の商品説明」の二部構成がほとんどだ。中には“相続”と冠のついたセミナーだが一部は「保険」、二部は「投資商品」の話と、単なる商品販売目的と思われても仕方のないものも見られた。顧客の関心に目を向ければ、通り一遍でないテーマも考えられるはずだ。例えば、顧客の相続に関する知識レベルも様々であることからすれば、初心者向け、中・上級者向け等のレベル別セミナーも考えられる。また、資産に占める不動産比率が高い人向けなど、対象者を絞ったセミナーも一考の余地があるのではないか。

 相談時の対応も同様だ。顧客は二次相続等も考慮した相続シミュレーションや遺言、投資用も含めた不動産の分け方など、実に様々な興味や悩みを抱えている。にも関わらず、単に相続サービスのパンフレットを渡しただけであったり、保険を販売できたらそれで満足するなど、顧客の本当の関心を深堀りできていないケースも多い。顧客の本当の興味や悩みを詳しく聞き、信頼関係を築ければ、投資商品や保険・信託・不動産対応等の商品・サービス提供だけでなく、配偶者や次世代層の紹介など、末長い関係構築につながるはずだ。

 昨今、従来型の商品販売型から資産管理型営業に変革しようとする金融機関も見られるようになってきた。とくに相続対応では、顧客の関心事を踏まえたセミナー内容の検討・提供や、顧客の相談に真摯に耳を傾け、そのうえで個々の顧客に合った提案をするような姿勢・対応がより一層求められているのではないか。

1) 年代/性別の人口構成に基づいて全国の50-70代の男女7000名にインターネットアンケートを実施。その中から金融機関のセミナーに参加した人や相談した人を中心に10名のデプスインタビューを実施した。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

萩野祐一

萩野祐一Yuichi Hagino

金融デジタル企画二部
上級コンサルタント
専門:個人金融マーケット調査

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