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リキッド・オルタナティブの商品性とニーズ

2015年6月号

金融ITイノベーション研究部 上級研究員 浦壁厚郎

リキッド・オルタナティブと呼ばれる、流動性や透明性の高いヘッジファンド戦略が米国・欧州で拡大している。個別マネジャーの能力評価が必要であることを踏まえると、わが国ではラップ口座等を通じて広まる可能性がある。

強い制約の下で運用されるヘッジファンド

 絶対リターンを目標とする伝統的なヘッジファンド(HF)は、ファミリー・オフィス(※1)や年金等の機関投資家向けに、私募形態で提供されている。HFには通常、以下のような特徴がある。

  • 緩やかな運用制約:デリバティブ、ショート・ポジション、レバレッジを活用することで、機動的なポジション変更、広範な投資アイディアの活用、スケーラビリティの拡大が可能となり、期待収益を増大させる。
  • 募集・設定・解約の制限:一般の個人投資家を排し、機関投資家等に対しても、解約制限条項(※2)を適用することで安定的な資本を確保する。これにより、市場混乱時にもポジションを維持したり、有利な条件での積み増しができる。
  • 成功報酬制:定率の運用報酬(例えば純資産価額の2%/年)とともに、成功報酬として、例えばハイ・ウォーター・マーク(※3)を超える年間収益額の20%を投資家が負担する。
  • 緩やかな開示・報告義務:投資戦略の複製等を避けるため、保有銘柄やポジションを積極的に開示しない。

 他方で近年、「リキッド・オルタナティブ」と呼ばれる運用商品への資金流入が米国・欧州で続いている(図表1)(※4)。リキッド・オルタナティブとは、①投資家にとって設定・解約の流動性が高く(リキッド)、ロングオンリーとは異なる運用手法ないし投資対象へのエクスポージャーを提供(オルタナティブ)する運用商品のカテゴリーである。具体的には、ミューチュアル・ファンドやETF、UCITS準拠ファンド等の形態で組成された商品で、従来HFが提供しているロングショート等の運用戦略を採るものが多い。

 このリキッド・オルタナティブは、伝統的なHFにはない、様々な制約を満たすように組成される。例えば1940年投資会社法のミューチュアル・ファンド形態ならば、日次の純資産価額算出と解約流動性の提供、1営業日以内に流動化できない証券の保有は15%まで、レバレッジは33%まで、ショート・ポジションと同額の証拠金が必要、運用報酬は定率のみで成功報酬を課すことはできない、ファンド外部監査と各種のディスクローズ等が要件になる。リキッド・オルタナティブは、従来のHFと比べてかなり厳格な要請に従ったファンドといえる。

商品性とパフォーマンス・ドラッグ

 私募形態のHFの運用戦略の一部は、リキッド・オルタナティブとしての組成が難しいものもある。例えば日次の解約流動性を提供するには、投資対象自体に市場流動性が備わっており、かつ個別の投資戦略をいつでも解消できなければならない。このため破綻証券等を組み入れたものや、その他一定期間のポジション維持が必要なイベントドリブンの一部の戦略などの組成は難しい。

 リキッド・オルタナティブのパフォーマンスを指数レベルで確認すると、概ねどのタイプの戦略についても、私募形態のHF指数に対して低リスク・低リターンになっている(図表2(※5))。個別のファンドに対するHF指数の代表性はそれほど高くないため一概には言えないものの、運用制約がこうした特性の違いの要因となっている可能性がある。本来、マネジャーが持つ希少な投資アイディアやスキルを、緩い制約条件の下で自由に発揮させて収益を得ることがHFの利点であるはずだが、それを一部諦めることと引き換えに、流動性や透明性を提供するのがリキッド・オルタナティブの基本的な商品性といえる。流動性確保のために生じるパフォーマンスの毀損は「パフォーマンス・ドラッグ」と呼ばれる。伝統的なHFのイメージを、そのまま当てはめることは難しい。

日本の個人にもニーズがあるか

 リキッド・オルタナティブは、最低投資額が伝統資産のファンド並みで、管理手数料も1%程度と私募形態のHFに比べて低廉なものが多いことから、米国では投資アドバイザー等が推奨するなどして資金を集めてきた。従来は投資できなかった個人投資家にも門戸を開くとの意味で「大衆化したHF」とも言われ、個人のポートフォリオにもHFが取り込まれ始めた状況にあるといえる。

 こうしたファンドは、日本の個人の資産形成目的にも適うだろうか。市場の過熱感を気にする投資家は、絶対リターン目標という特性自体に魅力を感じるだろう。またETF等で個人にも安価なベータ・ポートフォリオの構築が可能となりつつあることを踏まえると、運用者のスキルという新たな収益源泉を提供するリキッド・オルタナティブには潜在的なニーズがあるかもしれない。

 しかし注意するべきは、HF商品の場合は、運用戦略の選択(マネジャー構成)もさることながら、マネジャー選択がより重要であるということである。資本市場が有効に機能する限りプラスのリスク・プレミアムが期待できる株式や債券とは異なり、HFの場合はマネジャーの運用能力があってはじめて、意味のある収益を期待できる。しかし、個人がマネジャー選択をすることは難しく、米国での投資アドバイザーが果たしているようなマネジャーの評価・推奨情報がなければ、個人の資金を集めることは難しいのではないか。この意味で、個人に受容される条件が整っているとは言えず、むしろラップ口座の商品やファンド・オブ・ファンズを通じた資金獲得の競争になると考えられる。

1) 富裕層の同族資産を運用・管理するために企業化された組織。
2) ロックアップ条項(解約制限期間の設定)や、ファンドないし投資家レベルでのゲート条項(資金償還請求期間でも資金引き出しを制限できる)。
3) 投資開始以後、直近までの間で最大となった純資産価額の水準を指す。直近の純資産価額がこのハイ・ウォーター・マークを更新した期に成功報酬が生じる。
4) 提供会社としては、伝統的なヘッジファンド・マネジャーが参入する例も、ロングオンリーのマネジャーが参入する例もある。ランキングは拙稿「リキッド・オルタナティブ・ファンドについて」(野村年金マネジメント研究会 年金ニュース解説No.678、2014年11月10日)を参照。
5) Wilshire Liquid Alternative Indexは、1940年投資会社法によるミューチュアル・ファンドのうち、6ヶ月以上のトラック・レコードのあるリキッド・オルタナティブ・ファンドを対象にした純資産額加重型(組み入れ比率の上限あり)の指数。HFRIはファンド数加重(等ウェイト)の指数。リターンはいずれも報酬控除後。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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浦壁厚郎

浦壁厚郎Atsuo Urakabe

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