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データ管理態勢の高度化に向け重要性を増すチーフ・データ・オフィサー

2015年6月号

ホールセールソリューション企画部 上席コンサルタント 高村幸治

リスクデータアグリゲーション規制(BCBS239)の導入を契機として日本や米国のG-SIBにおいてチーフ・データ・オフィサー(CDO)の設置が加速した。CDOの役割はリスクデータ等のデータ品質の向上に向けた組織的能力の獲得であり、データ管理態勢の能力の優劣が銀行経営の中心的課題となりつつある。

 昨年より日本でもG-SIB(※1)を中心に、チーフ・データ・オフィサー(以下、CDO)という役職が導入される事例がみられるようになってきた。三菱UFJフィナンシャル・グループは、2014年10月にグループ全体のデータ管理に責任をもつCDOを設置し、その後12月には、銀行、証券、信託銀行のそれぞれについてもCDOを設置した(※2)。また、みずほフィナンシャルグループでも、2014年7月にデータマネジメント部(以下DMO)が設置されたのち、2015年4月に、CDOのポストが設置された(※3)。

BCBS239規制を背景に必要性が高まるデータ管理機能

 国内メガバンクでCDOという新しい役職が設置される背景として、2013年1月にバーゼル銀行監督委員会により公表された「実効的なリスクデータ集計とリスク報告に関する諸原則(BCBS239)」が存在する。本原則制定の背景には、2007年の金融危機時に、銀行のリスク集計能力が不十分であったため、銀行が抱えるリスクが金融システム全体に与える影響を迅速に解明できず、金融危機への対応が後手に回ってしまったとの反省がある。銀行が抱えるリスクエクスポージャやリスク集中度を、銀行グループが傘下として抱える複数の事業ラインやエンティティにまたがって迅速に集計する能力に問題があることが浮き彫りにされたことから、データ管理の在り方や、データ処理を行う情報技術の改善が、バーゼル銀行監督委員会により求められることになったのである。

 銀行のリスク部門がリスク量を算出するには様々なデータを参照する必要がある。リスク量は個別の事業部門(たとえば、株式や債券等)の取引データに基づき集計されるが、たとえば顧客別・カウンターパーティ別のリスク集中度を計測するためには、金融商品、価格、顧客、カウンターパーティーなど、事業部門横断で共有しているリファレンスデータも参照しなければならない。事業部門でも、取引を行った際には顧客コードや属性等のリファレンスデータを参照しながら取引データを生成する。またポジション残高を時価評価する場合も、価格を含めたリファレンスデータを参照することが必要となる(図表参照)。このように「取引データ領域」、「リファレンスデータ領域」が有機的に連係しながら、リスク部門が必要とするデータが2次的に算出され(「派生データ領域」の生成)、その結果として、規制当局に提出するリスク集計データが作成されることになる。

 BCBS239では、このようなデータ領域間の有機的な連係が、平常時のみならず金融危機のようなストレス時にも、正確に処理されること(正確性)、グループ全体にわたって捕足・集計されること(網羅性)、タイムリーにリスクデータが集計されること(適時性)、ストレス時等に、監督当局からの要請に対応してリスク集計が可能であること(適時性)などを要求している。また、このようなデータ処理ができるだけ自動化されることや、残高データから詳細の明細データ、個別取引データへと、トレーサビリティが保持されることも求めている。

 こうした体制の構築にはデータを整合的・一元的に管理する責任者や部門が必要となる。それがCDOであり、DMOなのである。

米国金融機関で導入が進んできたデータ管理機能

 米国では、国内メガバンクの動きと比較し、もっと早い時期にCDOを導入する動きが生じていた。最も早い事例として、2006年にCitiとJP MorganでCDOが設置されている。この当時、データ管理に責任を負うエグゼクティブ・レベルの役職を設置することは先端的な取組であった。米国においてもその後の金融危機とBCBS239を契機に、更にCDOやDMOの権限や範囲を拡大する動きが生じており、CDOを中心として、データ管理の全社的・組織横断的な取り組みが加速している。

 BCBS239で要求されるようなリスクデータ集計能力を実現するには、取引データ、リファレンスデータ、派生データの領域にまたがって、データのアーキテクチャーが全社横断で一貫性のあるものとして整備されていること、そのための情報技術等のインフラが整備されていることが必要となる。一貫性あるデータ整備には、事業部門、データ管理部門、リスク部門などの複数部門にまたがって、作成分担や管理責任などデータに関する組織調整が必要となる。そのため、米国金融機関では、取引データ、リファレンスデータ、派生データのそれぞれのデータ領域に、「データ・スチュワード」と呼ばれる、データ定義、データ属性設計、データ処理プロセス等に責任をもつ役職を設置した。さらに、データ・スチュワードの間での部門横断での調整や、個別のデータに関する責任の所在の明確化、全社的なデータ管理の方針策定などの責任を担う役割としてCDOを設置し、CDOを補佐する機能としてDMOを設置している(図表)。データ品質を高いレベルで維持するには、組織横断での調整機能が大きな役割を担うため、CDOやDMOの機能に高い権限を持たせる必要があるとの経営判断が背景にある。

 データ・スチュワードは、担当するデータ領域について、データの欠損や不整合などのデータ品質に関わる状況をCDOにレポートする責務を持つ。CDOはこれに基づいてデータ管理の改善案を経営レベル(CEO、CRO、CFO等)に提言することになる。


 金融リスク管理が金融機関のコア・コンピタンスである以上、その基盤としてのデータ管理が銀行の競争力の源泉となるはずであり、そのデータ管理の態勢の高度化に責任を持つCDOの重要性は今後もますます高まっていくことと思われる。CDOの設置がバーゼル規制への対応という受け身のレベルを超えて、銀行経営の戦略課題としてますます重視されるようになることを期待したい。

1) グローバルなシステム上重要な銀行(Global Systemically Important Banks)。金融機関のグローバルな事業規模・複雑性、相互関連性の深さから判断して、破綻した場合に金融システムに重大な影響を与えると考えられる金融機関のことを意味し、2014年11月、金融安定理事会(FSB)によって30行が特定された。日系金融機関としては、メガバンク3行が特定されている。
2) 日本経済新聞 2014年9月24日、および各社(人事異動資料)。
3) みずほフィナンシャルグループ 2015年3月30日ニュースリリース。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

高村幸治Koji Takamura

金融デジタル企画一部
上席コンサルタント
専門:金融機関経営

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