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コンピューター時代の大局感

2015年6月号

加藤友明

将棋の世界ではコンピューター対プロ棋士という対抗戦が話題となっている。将棋は手数の組み合わせが10の220乗あると言われ、これはオセロの10の60乗、チェスの10の120乗と比べて遥かに多い。1秒に1億手読むコンピューターでも10の8乗に留まることから、将棋はコンピューターの処理速度を遥かに超えるとされてきた。

 しかし、コンピューターは21世紀に入り、急速に力をつけた。具体的には3つの鍵がある。1点目は局面判断する計算式の精度向上。コンピューターは、持ち駒や駒組み等から局面の優劣を実数化しているが、この計算式の精度を向上させている。2点目はコンピューター自身が「自動学習」できるようになったこと。プロの指手を真似るようにコンピューターが計算式にある数百万の数値の重みを自動調整できるようになった。3点目は検索技術の進化。前提をおき、全ての局面を分析しないことで効率を上げることに成功している。

 このように、ハードの面だけでなくソフトの面で力をつけたコンピューターは手堅い将棋を覚え、プロに匹敵するようになった。このままコンピューター時代到来も予想されたが、今年の対抗戦では、多くの予想を覆してプロ棋士が勝ち越しを収めた。

 プロはコンピューターにどう一矢を報いたのだろうか。プロ棋士の強みはイメージのような直感で一瞬に指し手を絞り込んでしまう「大局感」だとされている。今年の対抗戦は形こそ奇襲戦法だったが、コンピューターの漏れを発見していた点で、異なる意味での「大局感」とも言えよう。

 プロは棋譜を丸暗記するだけでなく、目を使い、手を使い、耳を使い、口を使いと五感に覚えこませることで「大局感」を養う。知識を実戦に生かすには、泥々した実戦を行い、本質的な理解に繋げることが重要だという。ただし現代においては、現場経験に基づく「大局感」だけで勝負に勝つことはできない。新しいアイデアも日進月歩で研究される。現代棋士は、これまでの「大局感」に加え、情報検索・分析のためにコンピューターをツールとして使いこなし、そのアイデアを活用することも求められている。将棋のコンピューター化は、プロのイメージをITリテラシーも備えた現代人に変えているとも言えよう。

 金融の世界でもトレーディング、コールセンターなど、コンピューターの知能が入り込みつつある。ただ、現場経験を持ち大局感を有する人間がコンピューターの情報・知能を如何に上手く操るかで、我々とコンピューターとの共生のしかたも変わっていくのかもしれない。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

導入事例

加藤友明Tomoaki Kato

金融デジタル企画一部
グループマネージャー

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