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局所から全体を知る

2015年5月号

外園康智

一匹のアリがドーナッツの上を歩いている。アリは、ドーナッツにいくつの穴があるか分かるだろうか?高さのない2次元の存在が、穴の数という3次元の情報を得られるかという問いである。

 答えは、計算するアリならば可能だ。その方法は3つある。一つ目は、まず、アリはドーナッツ上を満遍なく周り、各点における曲がり具合(=曲率)を測る。この曲率をドーナッツ全部の点で合計(正確には積分)すると、穴の数g(正確には2−2g)になるのだ。これはガウス・ボンネの定理と呼ばれ、数学の世界でも最も美しい定理の1つである。各点の曲がり具合という“局所情報”から穴の数という図形の“全体情報”が得られる。見方を変えると、曲率という解析量から、穴の数という位相量が導かれる不思議さがある。

 二つ目の方法は、アリがドーナッツの表面に大量の水を流す(※1)。この時、噴出口や吸込み口、渦を巻く“特異点”が0個ならば、穴の数は1となる。これは、特異点の数の合計=2−2gという指数定理(※2)による。穴が0か2個以上の場合は特異点が2つ以上発生して、アリは溺れてしまう。

 三つ目は、アリがドーナッツの表面上にいくつかの線を引く。うまく引くと、表面はいくつかの点と線と面に分割される。その分割された図形の点と線と面を合計すると、点−線+面=2−2gとなる(※3)。これは図形を低次元の構成要素に分解して、再構成すると高い次元が持つ情報が得られることを意味する。

 このように、幾何図形(=多様体)の全体を直接知る手段がなくても、局所に散らばった、一見バラバラで独立な情報をうまく集めると全体の情報が復元できる。全体は、部分の総和を超えて調和しているからだろう。

 金融でよく使う統計手法も、端的にいえば、部分データから、全体傾向をつかむ方法である。残念ながら統計が難しい理由は、分析対象が複雑なことや、未来予測など幾何以上の情報を求めるからだろう。

 ちなみに、この宇宙にいくつ穴(=ブラックホール?)があるかは、3次元の存在である我々にとっての問題だ。一般相対性理論によれば、空間自体が質量によって曲がるので、宇宙全体の物質の質量が分かれば、空間の各点でどのくらい曲がっているか分かる。これらを足せばよいはずだが。。宇宙の調和から、きっと、計算可能だろう。

1) 宇宙空間で実験が必要。
2) 正確には特異点の種類による指数・符号の考慮が必要。
3) これは、小学校で習うオイラーの公式の立体図形版である。平面上の図形の、点と線と面の数は、点−線+面=1になる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

外園康智Yasunori Hokazono

金融デジタル企画一部
上級研究員

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