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店頭デリバティブ証拠金規制の導入延期と米欧日の差異

2015年5月号

金融ITイノベーション研究部 主任コンサルタント

2015年12月の導入が予定されていた証拠金規制は、BCBS/IOSCOより延期の方針が示された。参加者においては、各国導入時期・最終規則について注視するとともに、その導入を見越した着実な態勢整備が求められる。

証拠金規制と導入延期の提案

 証拠金規制は、金融危機での教訓を受けた店頭デリバティブ取引に関する規制の1つである。導入により、中央清算機関(CCP)を通じた清算がなされない店頭デリバティブ取引については、対象者間で①当初証拠金の受領・分別管理、及び②変動証拠金の受領が求められることとなる。当初証拠金は取引相手破綻時のポジション再構築コストを手当てする証拠金であり、変動証拠金は市況変動による時価変動相当額を手当てする証拠金である。店頭デリバティブ取引については、取引情報蓄積機関への報告、電子取引基盤での取引などの施策が実施・検討されてきた。証拠金規制は、対象者間の証拠金授受を厳格化することで、①CCPの利用を促すとともに、②危機時のシステミック・リスクの低減が期待されている。

 証拠金規制の導入は当初2015年12月が予定されていたが、今般BCBS/IOSCO(※1)より延期の方針が示された。2015年3月18日に公表された文書(※2)によると、①当初証拠金および変動証拠金に関する義務の施行を9ヶ月遅らせ、2016年9月1日からとすること、②変動証拠金に関する義務の導入を段階的に行い、想定元本合計額(平均)3兆ユーロ以下の対象者の導入についてはその6ヶ月後の2017年3月1日からとする方針がそれぞれ示された。このため、証拠金規制の導入は時期を含め、改めて各国で検討される格好となった(※3)。

 証拠金規制は、金融危機を受けてのG20コミットメントから、2011年以降、BCBS/IOSCOによる複数回にわたる市中協議書の提示、影響度調査(QIS)などを経て、2013年9月に最終報告書が公表されたものである。これを受け、米欧日では昨年春から秋にかけ当局草案が出されたが(※4)、準備期間の短さを多くの参加者が指摘しており、導入の延期を求める声も少なくなかった。

米欧日の草案に見る対象者の差異

 店頭デリバティブは、国を跨いだ取引が珍しくない(※5)。このため、取引の自由度を保つには各国規制の整合ができるだけ求められる。しかしながら、米欧日で提示されていた草案を見る限り、対象者に関するものだけでも、以下のような相違が指摘され、差異に伴う対応負荷が強く懸念されている。

①米国:複数の所管当局存在による煩雑さ

 米国で店頭デリバティブ取引を監督する当局は、銀行を監督するPR(健全性当局)(※6)、商品・先物取引を監督するCFTC、証券取引を監督するSECの3つがある。監督対象とする商品がそれぞれ異なるほか、規制対象となる主体の定義も相違する。例えば、設立が米国外であっても主たる事業所が米国にある場合、PRは規制対象としないが、CFTCとSECは規制対象とする。また、設立・主たる事業所が国外であっても米国人が主たる保有者となる事業所については、SECは規制対象としないが、PR、CFTCでは規制対象となる。所管当局およびその細則の違いから、市場参加者からは当局間の定義整合性を求める声が強くある。

②欧州:事業法人が規制対象に

 欧州(EU)の草案では、EU圏外すべての取引相手から証拠金を徴収することが提案されている。このため、金融機関のみならず、事業法人も欧州証拠金規制の適用対象となりうる。これは、米日にはない要件であり、一部の参加者からは、EU圏外の事業法人がEU圏内の主体との取引を避け、他の市場で取引を行うことになるという取引シフトの懸念も表明されていた(※7)。合意文書の締結など適用免除の規定こそあるものの、その対応負荷が懸念されている。

③グループ内取引:日米欧で取り扱いが相違

 グローバルに活動する金融機関においては、日米欧拠点同士の取引も少なくないと推察される。しかし、こうしたグループ内取引に対する取り扱いも日米欧で異なる。日本は適用対象外としているものの、米国は議決権を「25%以上」保有する拠点との取引は適用対象(※8)、欧州は当局の承認に基づき適用対象外となっている。

 なお、日本では、取引量の少ない機関も証拠金規制の監督対象となる方向にある点は注意を要する。府令案と同時に出された「『中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針』の一部改正(案)」では、体制整備に関する着眼点として①変動証拠金に関する適切な契約書の締結、②十分な頻度及びアドホックコール(証拠金の随時請求)に対応した変動証拠金の授受が挙げられているためである。中小・地域金融機関では対応人員にも限りがあると推定され、多大な負荷がかかることが予想される(※9)。

着実な態勢整備に向けて

 証拠金規制は、各国導入時期、最終規則につき更なる注視が必要な状況となった。本稿執筆時点(2015年3月末)では、流動的な部分も多分に残るが、差異がある程度残ることを前提として、参加者にとって考えうる対応についてここでは述べたい。それは、取引情報管理の高度化である。これは特にデリバティブ取引を活発に行う大手金融機関においては重要になると思われる。

 BCBS/IOSCOによると、当初証拠金の適用対象となる閾値は、2016年9月は3兆ユーロ、2017年9月は2.25兆ユーロなどと逓減、最終段階として2020年9月には80億ユーロとなる。また、冒頭で述べた通り、変動証拠金も段階適用が提案された。このため、自社が適用対象となるかどうかの識別については一定の対応が必要と推察される(※10)。例えば、取引銘柄別にCCPで清算される取引か否かのフラグを付与するとともに、対象取引の集計を可能とするデータベースの構築などがシステム面では検討に値するのではなかろうか。規制閾値の計算は、対象取引の想定元本合計額(月平均)でなされる(※11)。過去の取引も含め、取引情報を一元管理できれば、自社が適用対象となるかについて、より容易に把握できるようになると思われる。更に、取引相手がどの国の規制を適用されるかといった情報も紐付けることができれば、新規取引において、事後の対応負荷を加味したプライシングも可能となるかもしれない。

 証拠金規制については、更に計算モデルの構築や選択、証拠金の適格担保やその受け渡しなど論点は極めて多い(※12)。延期こそ提案されたものの、参加者においては、各国動向に注視しつつ、導入を見越した着実な態勢整備が引き続き求められる。

 (調査協力:NRIアメリカ 鈴木 枝里子)

1) BCBSはバーゼル銀行監督委員会(Base l Committee on Banking Supervision)、IOSCOは証券監督者国際機構(International Organization of Securities Commissions)の意。
2) https://www.iosco.org/library/pubdocs/pdf/IOSCOPD480.pdfなどを参照。
3) BCBS/IOSCOより提案はなされたが、実務上は各国当局で検討されるため、導入が前後する可能性がある。
4) 日本では、内閣府令案として2014年7月に草案が公表されている。
5) 例えば、金利デリバティブは、過半が国を跨いだ取引とされる。
6) PRはPrudential Regulatorsの略。連邦預金保険公社(FDIC)、通貨監督庁(OCC)など5つの当局からなる。
7) 欧州企業財務家協会などのコメント。
8) 銀行持株会社法(Bank Holding Company Act)やVolcker Ruleなど他規制での定義との平仄から、支配権の定義として25%以上が定められていると考えられる。
9) 本稿では触れていないが、証拠金規制はファンド(信託財産)にも適用される方向にある。
10) 昨年提示された各国草案では、当初証拠金の閾値は米欧日でそれぞれ4兆ドル、3兆ユーロ、420兆円が提案されている(いずれも対象取引の想定元本合計額の平均。BCBS/IOSCOと同様閾値は逓減していく)。なお、パブリック・コメントでは、為替変動に伴う閾値抵触を懸念する声もあった。
11) 今般公表されたBCBS/IOSCO文書では、当初証拠金は、基準時の3、4、5月の対象取引の想定元本合計額平均が提案されている。
12) 適格担保については、米国では変動証拠金は現金のみ、欧州では単一発行体で50%を超えないように等の提案がなされている。なお、担保・証拠金の受け渡しにおいては地域間の時差の問題も想定される。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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