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転換期を迎える資産運用会社のIT部門

2015年5月号

資産運用サービス事業三部 上級システムエンジニア 馬場崇充

資産運用会社が抱える課題は全社的な業務変更やシステム対応が必要なものとなってきており、IT部門はビジネスアナリストとして課題解決に向けた取り組みが望まれる。

資産運用会社のIT部門の従来の位置付け

 資産運用会社のIT部門は、各部署の利用するシステムの導入支援や開発、OA環境の整備などを行っているが、こうした従来業務には大きな特徴があった。

 まず一つは、対象業務分野に偏りがあったことだ。主にバックオフィスを中心に、ツール開発、システムサービスの導入といった各種システム対応を進めてきた。バック業務が他の業務に比べ定型化が進んでおり、システムでの効率化に適していたことがその大きな要因である。

 もうひとつの特徴は、効率化を行う対象の「課題」が基本的に単一の部署に閉じたものであったことだ。ゆえにシステムサービスの導入においては、まずシステムを利用する業務部署が主体となって要望・業務要件を出し、サービス・プロダクトの選定を行い、IT部門が実際の導入を支援する、という形で行われることが多かった。

 しかし今、資産運用会社が抱える業務・システムの課題はバックオフィスや単独部署のみの領域から全社へと広がっている。IT部門は従来の業務範囲に留まらず、社内を横断した全社的課題を解決する「ビジネスアナリスト(※1)」として、より広範な役割を果たすことが望まれるようになっている。その背景には運用会社を取り巻く大きな環境変化がある。その中で今後IT部門はどのような役割を果たす必要があるのか。以下で3つの変化を取り上げ、見ていきたい。

資産運用会社が迎える環境変化と課題とは

 1つ目の環境変化として、システム化の主な対象であったバック業務のBPOが進み、IT部門が注力する分野が他へシフトしたことが挙げられる。近年、資産運用会社の定型業務の効率化・BPOは加速度的に進み、バックオフィス業務はアウトソース先の業務やASPサービスの中の機能へ包含され、社内から分離されつつある。

 そうした中でIT部門は、従来標準化・システム化が進んでいなかったフロント・営業・商品企画分野への注力を考えていかねばならない。しかし、これらの分野の効率化や戦略的な差別化は従来業務の延長では実施が難しい。フロント分野を例にとると、リアルタイムでの正確性の高いフロントポジションの把握が長年課題となっている(※2)。しかしこの解決はフロント部門の業務を単独で改善するだけでは不可能である。例えばポジションデータを構成する情報の一つにコーポレートアクションや担保金があるが、これらのデータはバックオフィスで管理されることが多い。フロント部署へ即時連携するには、バックとフロント、ないしは一次ソースの受託銀行やブローカーなど外部機関からの情報授受部分を含め、全社での業務・データフローの再構築とそれに応じたシステム対応が必要だ。フロント業務の高度化のためには全社的な業務変更が必要となる構図である。これは従来のIT部門の、単一部署に閉じた対応では実現し得ない。複数部署を跨いでの業務設計と全社範囲で最適を志向したシステム構築を行うことが不可欠となる。

 2つ目は制度改正である。過去にも各種制度改正は多くあったが、近年はより全社的影響がある内容となり、かつその件数も増している。更にこの動きは今後も続く見通しである(※3)。例えば昨年末の投信法改正の中では、信用リスクの集中規制として、ファンド内の同一発行体へのエクスポージャーを把握し、制限することが新たに求められた。この規制への対応では、ミドル部門が銘柄毎の発行体情報の把握やファンド毎の各発行体へのエクスポージャー算出・チェックを行い、それらを参考にフロント部門のファンドマネージャが発注を考慮することが必要であった。これもまた単一部署の部分対応ではなく、フロント・ミドル部門を跨いだ業務設計とシステム対応が必要なケースであり、IT部門は複数部署を横断した対応が求められている。

 3つ目の変化はこうした制度改正の流れから、データ管理の強化が一層望まれるようになっていることだ。信用リスク規制の例を始め、ファンドのリスクを正確に把握する情報の整備や顧客への正確なディスクローズの要求は増加する一方である。その中で、属性や運用成果などの必要データを収集・管理する業務では、品質向上と効率化が必要となる。

 データ管理の対応強化では一般的に、データの集中管理基盤の構築や、データオーナー(※4)の設置により、各種業務データの管理を集約することが志向される。だが現状、例えば銘柄属性一つをとっても、フロント・ミドル・バック各部門で個別管理している会社は多い。そのため、データ管理の強化には、単純なシステム導入ではなく、データ基盤を運用していく全社的な業務フローを再設計し、更にはそれを運営する体制の構築までもが必要となる。IT部門はこうした対応の推進役とならねばならない。

IT部門は「IT担当」を超えてビジネスアナリストへ

 このような全社的な対応が迫られる課題に対し、今後IT部門は企画力・マネジメント力を備えた業務改革の推進者として、その解決に当たることが求められる。それに向けIT部門は、自身の組織改革・業務効率化による、役割の再定義と余力の創出を行うことが必要だ。

 業務効率化にはIT部門の従来業務を戦略業務と非戦略業務とに仕分けし、非戦略業務をベンダーへアウトソースすることが有力な手段となる。非戦略業務としては、アプリケーションや基盤の開発・保守作業、社内のOA機器管理など、アウトソース可能で、かつアウトソースによる余力創出の効果も大きい業務がそれにあたる。アウトソース実行時には、自社のIT戦略との適合度、業界への理解力、標準化を含めた業務遂行力等を総合的に評価したベンダー選定と、その選定されたベンダーのマネジメントの実施がIT部門の新たな役割となる。

 IT部門の定義についても従来のシステムを開発・保守する組織という位置づけから、更なる業務範囲の拡張の検討が必要だ。実際、既にIT部門の企画機能を強化する意図で組織改革を行う動きは複数社で見られており、今後もこの流れは続いていくと考えられる。まさに「ビジネスアナリスト」を志向した動きであると言えよう。

 「ITの担当者」に特化していた従来のIT部門の役割から考えると、こうした転換は容易ではない。だが資産運用会社が直面する課題を解決していく上で、システムという手段を用いて全社的な効率化を果たせるIT部門の存在は要となるものだ。IT部門の進化への期待は今後ますます大きくなるだろう。

1) 一般的に事業戦略を実現し、課題を解決する担当。もしくはその職務の意。事業戦略を策定しその実現へ向け業務プロセスの改革実施、現状業務の可視化や新業務設計、企画・要求開発、ナレッジマネジメントなど幅広い業務を遂行する。
2) 欧州では昨今、運用会社が行うべきポジション管理の理想像としてIBOR(Investment Book of Records)の概念の議論が進んでいる。これは、リアルタイムのポジション・資金管理を行い、その管理情報をフロントからバックまで全社が共通して利用出来るシステム機能を想定したものである。
3) 2014年の投信法改正のためにもたれた「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」の中では、投資信託を「一般国民が、効率的・安定的に資産形成を行うための金融商品」として位置づけ、今後益々重要視する主旨の議論が持たれた。そうした情勢下で、投資家保護を目的として今後も資産運用会社への規制の強化は続いていく見通しだ。
4) データオーナーは入力やメンテナンスなどのデータ管理を担当し、当該データを社内他部署へ提供する際の品質に責任を持つ。欧米を中心にデータ管理を専門で扱う部門を設置する動きが広がっており、データオーナーによって、データの品質向上やデータ管理業務の効率化を図ろうとしている。
注) 野村総合研究所は資産運用各社のIT部門長層の方々とIT部門が向きあう現状の課題についてディスカッションを実施した。その中での意見を一部反映し本稿を執筆している。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

馬場崇充Takamitsu Baba

資産運用サービス事業部
上級システムコンサルタント
専門:資産運用向けソリューション企画

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