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求められるガバナンス・コードへの対応

2015年5月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

コーポレートガバナンス・コードの原案が取りまとめられ、東京証券取引所での手続きを経て6月から施行される。コードの大きな特徴の一つは、プリンシプル・ベースの規範という点であり、企業の自主的な判断と投資家との対話が、コードへの適切な対応とガバナンスの質的向上への鍵となる。

取りまとめられたコード原案

 2015年3月5日、金融庁に設置されたコーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議が、来る6月からの施行を予定するコーポレートガバナンス・コード(以下「コード」という)の原案を最終的に取りまとめ、公表した。今後、東京証券取引所(東証)が関連する上場規則等の改正を行い、有識者会議の原案を内容とするコードを正式に制定する。

 コードは、2014年2月に策定され、2015年3月時点で184の機関投資家等が受け入れを表明している日本版スチュワードシップ・コードと車の両輪をなすものと位置づけられる。両者が相まって、日本の上場企業のコーポレートガバナンス(企業統治)が充実・強化され、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上が実現するものと期待されている。

 コードには、①株主の権利・平等性の確保、②株主以外のステークホルダーとの適切な協働、③適切な情報開示と透明性の確保、④取締役会等の責務、⑤株主との対話の5つに係る基本原則とそれを具体化する多数の原則や補充原則(以下単に「原則」という)が定められている。東証の上場規則では、一部、二部市場の上場企業に対して、コードの原則を実施するか、実施しない場合にはその理由を説明することが義務付けられる(マザーズ、ジャスダック上場企業は基本原則についてのみ)。

 コードの原則の中には、企業が一定の事項を定め、開示するよう求めるものがある(図表参照)。具体的には、上場企業が定時株主総会終了後速やかに提出することとされるコーポレートガバナンス報告書への記載が求められる。ただし、企業ホームページ等で開示されている事項については、その旨を示すだけで足りる。また、初年度の報告書は、総会終了後6ヵ月以内に提出すれば良いものとされる。

プリンシプル・ベースの規範

 コードの大きな特徴の一つは、具体的で明確なルールが定められているのではない、プリンシプル・ベースの規範となっていることである。つまり、コードの原則を実施するといっても、唯一無二の「正しい」実施方法があるわけではない。例えば、コードには「適切な対応を行うべきである」といった、やや曖昧な表現がしばしばみられる。実際にどのような対応が「適切」であるかは、上場企業自らの判断に委ねられているのである。

 これは、個社の置かれた状況に応じた柔軟な対応を可能にするとともに、外からの押し付けによるのではない自発的な規範遵守を促そうとするものだが、上場企業の間では、「どういう対応をしたらいいのか分からない」といった戸惑いも生んでいるようである。

 また、前述のように、コードの原則等を実施しない場合には、その理由の説明が求められるのみで、実施自体が一律に強制されるものではないという点も、従来のルールの典型的なあり方とは大きく異なる。こうした仕組みは、「コンプライ・オア・エクスプレイン」と呼ばれ、英国のガバナンス規制等でも採用されているが、日本では、まだなじみの薄い手法である。

 「コンプライ・オア・エクスプレイン」における説明の適切さも、プリンシプル・ベースで測られる。つまり、コードの原則等を実施しない場合にどのような説明を行えば適切と言えるのかの判断もまた、上場企業に委ねられているのである。

 ちなみに、こうした規制手法の母国とも言うべき英国では、規範に従わない理由を「取締役会が必要と認めないため」などと一般的・抽象的に説明する企業もあると指摘されている。しかし、こうした「ボイラー・プレート」(決まり文句)に対しては、機関投資家や識者から強い批判が寄せられており、日本企業がコードの実施状況について説明する際にも、より丁寧な実質的な理由を明らかにすることが望ましい。

継続的な対話の重要性

 上場企業によるコードへの対応は、今年のガバナンス報告書を出して終わりというようなものではなく、継続的に発展させていくべきものであろう。そこでの鍵となるのが、投資家との対話である。

 上場企業は、自らが適切だと思う措置を講じ、適切だと思う開示や説明を行う。しかし、それを適切とは感じない投資家もあり得る。場合によっては、特定の企業の対応が、投資家の手厳しい批判にさらされるといったことも想定されよう。

 そうした際に、企業経営者と投資家が胸襟を開いて対話を行うことが重要である。企業側の説明不足も投資家側の誤解もあり得る。いたずらにコード違反をあげつらうといった形でなく、建設的な対話を通じたコードへのより良い対応が促されることで、コーポレートガバナンスの真の質的向上が実現するのではないだろうか。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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