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“オープンデータ”が切り開く金融データアナリティクスの近未来像

2015年4月号

ホールセールソリューション企画部 上級研究員 小林孝明

「オープンデータ憲章」が国際合意されて2年近くが経過したが、各国で様々な課題や障壁が見つかってきた。日本でも現在は公開データが限定的であることやビジネス慣習との衝突などの課題がある。課題を解決し、データに付加価値をもたらす真の金融データアナリティクスが開花することが期待される。

 G8ロックアーンサミット(2013年6月)において「オープンデータ憲章(※1)」が国際合意され、間もなく2年が経とうとしている。

 この「オープンデータ憲章」は、図表1のような諸原則を掲げ、2015年末までの実現に向けた具体的施策を、各国が整備することを約束した国際合意である。

 しかしながら2015年初現在の日本においては、「いまだ実現への道のりは遠い」と言わざるを得ない状況のようである。

“オープンデータ”が目指す姿とは

 上記G8サミットでの合意以前から、“オープンデータ”の普及活動は世界各地で着々と進められてきている。

 たとえば、“オープンデータ”の啓蒙を推進している国際的組織として“Open Knowledge Foundation”と呼ばれる老舗団体があり、彼らは“オープンデータ”を次のようなポリシーとして定義している。『オープンデータとは、自由に使えて再利用もでき、かつ誰でも再配布できるようにデータを公開することである。従うべき決まりは、出所、出典など作者クレジットを残すことである。(※2)』また、単に「オープンに公開する」と言っても、その公開度合(技術的な段階など)には様々な幅がある。そこでWeb技術の発明者として著名な英国学者(※3)が中心となり『オープンデータのための5つ星スキーム』というオープン度合を表す指標も提案している(図表2)。

 このように国際的に統一された定義や枠組みが確立され認知が広がるにつれ、この枠組みを活用した新たなイノベーションやビジネス展開が見られるようになってきた。この新しい世界では、“オープンデータ”の進展により無償で公開されることになったデータ資源に、如何に価値を与えるかが勝負である。例えば「複数のデータを集める」→「可視化する」→「データを重ねる」→「データを混ぜる」などの段階を踏んで複雑化させることで、ビジネス価値を高めている(※4)。その結果、データポータルビジネス(※5)などに代表される『データマーケット産業』と呼ばれる、新たな産業が生まれてきているのである。

 他にも“オープンデータ”を活用したビジネス事例(※6)が幾つか見られるようになってきた。例えば米国のTotal Weather Insurance社は、国立気象局が提供する細かな気象データや、農務省が提供する大量の収穫量データ、細かい単位ごとに取得した広範な土壌データなどを活用して、地域別・品種別の収穫予測モデルを構築し、オーダーメイドの保険を提供することに成功している。

日本における“オープンデータ”化の現状と課題

 一方、日本国内においては、この“オープンデータ”活動は、まだ緒についたところである。具体的には、内閣府がオープンガバメント戦略(※7)という基本方針を定め「政府の持つデータを二次利用可能な形で提供し、新ビジネス創出や経済活性化を図る」という取り組みを開始している。このように政府が中心となり“オープンデータ”を推進しているが、課題や障壁もいくつか認識できるようになってきた。

 最大の課題と言えるのは、公開されているデータが限定的であることだ。例えば『金融経済に関する消費者動向の調査研究』を実施しようと、金融庁や財務省、総務省などのデータを検索(※8)しても、入手できるのは「財政」「白書」「会計」など省庁側の組織データばかりであり、本当に必要な国民側の動向データは皆無なのである。このように金融分野のデータアナリティクスに活用できる“オープンデータ”化は全くの未着手である。

 次に大きな課題となるのが著作権との関係である。たとえば、“データ”は「特定の意味や解釈を持たない単なる客観的事実を表す」物にすぎず、著作権保護の対象外と定義されている。そのため企業にとっては、コストをかけて収集した“データ”を公開しても、保護されないが故に得られるメリットはあまりなく、誰も“オープンデータ”化したいとは考えない(※9)のが現状である(※10)。

 三つ目の重大な課題は、過去からのビジネス慣習との衝突である。例えば各省庁では所管業界に関する各種の技術試験データや統計データなどを大量に保持しているが、それらデータは省庁本体とは別の、独立した法人などが独占的に管理し、有償で販売しているケースが見られる。このような過去からの慣習、つまりビジネスモデルが確立している場合、“オープンデータ”化を推進することは、現状のビジネスモデルに対して何らかの経済的損失を発生させる可能性があり、慎重に検討せざるを得ないのが実態である。

金融データアナリティクスのオープン化への期待

 前出の課題を解決するとともに、政府から民間へ“オープンデータ”の活動を広げることも必須である。政府系金融機関や特例民法法人はもちろんのこと、業界団体や自主規制団体など公益法人についても、公共公益の立場から、『金融経済の調査研究』のための“オープンデータ”提供者となるべきではないだろうか。

 金融データアナリティクスに活用できるデータ資源が“オープン”化された暁には、学術界の研究スタイルも大きく変わるかもしれない。たとえば、現在のようにデータを持っているから評価されるという「データオリエンテッド」な研究者ではなく、真にユニークな発想を持っているから評価されるという「アナリティクスオリエンテッド」な研究者がもっと多く出現するであろう。“オープンデータ”の進展とともに、金融データアナリティクスの分野には、急激な革命が訪れるのである。

1) 主な内容は、①2015年末までにオープンデータ憲章及びその技術的な公約を実践、②国別行動計画を2013年末までに策定し、2014年の次回会合において進捗をレビュー、③国際的な土地取引や天然資源採取に関する透明性確保のためにオープンデータを重視。
2) http://opendatahandbook.org/ja/
3) Webの発明者ティム・バーナーズ=リー。
4) 最近はハッカソンやアイデアソンなどと呼ばれる、いわゆるビジネスコンテストが世界各地で開催されている。
5) データポータルビジネスでは、単にデータやデータセット、データカタログなどを集約したポータルを提供する位置づけと、特定のビジネスを活性化させる目的で、その周辺にあるデータを無償公開することで本来のビジネスを促進させるツールとしての位置づけが見られる。
6) 東富彦『データ×アイデアで勝負する人々』日経BPが詳しい。
7) オープンガバメント戦略では、オープン化対象データとして「国の統計、地図、選挙、予算」を優先させる方針となっている。
8) 二次利用が可能な公共データの案内・横断的検索を目的としたオープンデータの「データカタログサイト」がdata.go.jpである。
9) 政府の場合、国民の税金でデータ収集しているため、国民に広くデータ還元することに異論はないが、一般事業法人が収集したデータの場合は、事業メリットがないと還元するに至らないという考え。
10) データ公開を実現しても、利用制限を付したりして、オープンデータとしては台無しにしてしまっているケースも多数ある。例えば、著作権対象とならないデータについても、対象であるかのような曖昧な表記をし、事実上公開データの配布を制限したりしている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

小林 孝明

小林孝明Takaaki Kobayashi

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:リスク経営管理、規制動向調査・分析