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CLO(Card Linked Offer)実証実験の結果と展望

2015年4月号

金融ソリューション事業二部 上級コンサルタント

米国の金融機関で普及するCLO(Card Linked Offer)。クレジットカ-ドやデビットカードの利用履歴に応じて会員をターゲティングし、加盟店原資の特典を提供するサービスが、日本でも開始されつつある。野村総合研究所は大手カード会社2社と実証実験を行い、CLOの効果を確認した。

CLO(Card Linked Offer)とは

 CLO(Card Linked Offer)(※1)とは、決済カードの利用情報に基づいてターゲティングした消費者(会員)に対し、決済サービス事業者(会員保有企業)が加盟店原資の特典を配信して、加盟店に送客するサービスである。

 加盟店は消費者の嗜好や消費動向に合わせて対象者をセグメントして効率的に特典を配信でき、その結果を決済情報で確認することで効果検証できる。スマートフォンを活用すれば通勤時間に特典情報をプッシュ配信したり、位置情報を活用した特典で近くの店に誘導したり、利用登録済の特典が使える店の近くを通ったらリマインドして入店を促すなど、訴求力を高めることも可能だ。

 消費者は自分の好みや利用実績と関連性の高い特典が届くため迷惑メールになりにくいほか、クーポンを印刷して持参したり店頭で店員にスマホ画面を見せたりする煩雑さがない。使う特典を選んで利用登録のうえ通常通りカード決済するだけで特典を受けられるので便利だ。

 決済サ-ビス事業者は、サービスの両輪である会員と加盟店の間で送客と利用促進を行うことで決済サービス利用の拡大を見込めるほか、加盟店から送客手数料を得ることも可能だ。決済サ-ビス事業者には、カード会社や電子マネー事業者などが考えられる。利用履歴データというビッグデータ活用ビジネスの第1歩とも言え、今、カード業界や流通業界でCLOが注目されている(※2)。

大手カード会社2社との実証実験の概略

 野村総合研究所(NRI)は2014年8~10月(※3)に国内トップクラスのカード会社(以下、A社)および大手カード会社(以下、B社)とCLOの実証実験を行った。A社はPC用Web明細、B社はスマホアプリで実験を実施。総合ショッピングセンターや衣服量販店、飲食店など16~18屋号の実験参加加盟店に、特典内容や配信対象セグメントを登録できる画面を提供。セグメントは個別に協議のうえ屋号毎にセグメント選択ボタンを追加した。カード会社には問合せ対応用の画面を提供し、会員にはWeb明細やスマホアプリで特典を表示・選択し内容を確認できる画面を提供した。

実証実験の結果

 実験の結果、加盟店からは「これまでO2O(※4)はじめ様々なデジタル媒体を試したが、こんなに効果が出たことはない」「ターゲティングできるのが貴重」「広告費の8割が紙媒体だが今後はCLOに予算を移行したい」などの声が聞かれ、実験期間の延長要望や、割引原資が予算オーバーになるなど予想を超える反響を得た。

①利用人数・利用件数・利用金額とも増加

 実験参加加盟店におけるCLO会員のカード利用の前年比は、金額で1.2倍、件数で1.4倍、人数で1.3倍となった。特にB社では実験参加加盟店における前年同月比を検証した結果、非CLO会員の利用件数の3カ月平均が前年同月とほとんど変らない一方で、CLO会員の利用件数は平均約5割増、利用金額でも約3割増との結果が出た。

②新規顧客獲得に貢献

 複数の加盟店で過去に利用履歴のない会員に特典を出すことで新規顧客が獲得できた。ある加盟店は「今まで現金や他のカードで購入していた顧客ではないか」と考え追跡調査を行ったが、結果、約43%が過去に同社で全く購入したことのない純新規会員(※5)と判明。「早く本格展開を開始してくれ」との強い要望を得るに至った。

③スマートフォンの有効性

 A社はPC用web明細、B社はスマホで実験を行ったが、Web明細の会員は月平均5回のアクセスに対し、スマホ会員は月平均30回という結果になり、差が顕著に表れた。さらに位置情報を使ったオファーは、特典配信件数に対する利用登録率が約45%、利用登録件数に対する利用率が約25%と驚異的な数値となり、モバイルの有効性を再確認した。

④キャッシュバックが好評

 実験終了後のアンケートでは、会員の約6割が「特典はキャッシュバックがよい」と回答。加盟店からも「当社が原資を負担しているのだから、カード会社の特典であるポイントよりキャッシュバックの方が店としての訴求力が高い」との声が聞かれた。

⑤その他

 「一定利用金額以上で特典付与」などの条件を設定することでターゲット客の利用単価が向上したり、最近来なくなった客に再来店を促す効果なども確認できた。

課題と展望

 本格展開に向けた課題も整理できた。第一に個人情報保護。実験ではモニター登録時に会員から情報活用の同意を得た。位置情報では会員の緯度経度情報を常に取得することなく特典情報を配信できる特許取得済の技術を活用した。本格対応でも個人情報やプライバシーへの配慮は必須となる。他にも、マルチアクワイアリング(※6)において加盟店を特定する方法や、購入商品を識別することで特定商品に特別割引を施したりメーカー原資(※7)の割引で大胆な特典を提供する機能などが必要となろう。そして何よりも重要なのは、実験参加加盟店の中でも取組み方によって効果が大きく異なることだ。CLOという仕組みさえ導入すれば効果が上がるのではなく、各種データから有用な示唆を導き出して仮説を立て、検証して効果に結びつけるよう取り組まなければ効果は得難いことが判明した。また実験では、NRIの1万人アンケートとの融合分析で効果的な特典配信ができることも確認できた(※8)。

 海外ではカードを発行する金融機関がCLOで顧客の日常消費動向に応じた特典を提供しつつ、自社の金融商品をオファーする取組が始まっている。CLOを上手く活用し、金融市場や消費が活性化することを期待する。

1) CLOについては金融ITフォーカス2013年9月号「決済サービスにおけるビッグデータ活用とCLO」参照。
2) 政府の「日本再興戦略」を受けて経済産業省がまとめた「クレジットカード決済の健全な発展に向けた研究会_中間報告」などにもCLOが明記され、複数の事業者が実験や本格展開を開始している。
3) 加盟店の要望により実験期間を12月末まで延長したケースもある。(実験結果の計数は10月末まで)
4) Online to Offline:ECと実店舗を融合する取組み。
5) 同加盟店では、全顧客にポイントカードを持ってもらっているが、その顧客情報に存在しなかったことを確認。
6) 別のカード会社が加盟店契約を締結した店でも同じVISA、MasterCardのブランドであればどのカード会社が発行したブランドカードでもその店で決済できるスキーム。ブランドカードの仕組みについては、著者の共著『キャッシュレス革命2020』(日経BP社)に詳しく書かれている。
7) メーカー原資を組合せた特典提供モデルはビジネスモデル特許出願中。
8) 生活者1万人アンケート:NRIが3年に一度実施している調査。例えば、あるテーマパークの利用が多い30代40代の女性はカラオケ好きとのアンケート結果を活用し、同テーマパークの利用履歴がある30代40代女性にカラオケ店の特典を提供してカラオケ店に送客する。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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