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資産運用アドバイスを求めて彷徨う定年退職者たち

2015年4月号

リテールソリューション企画部 上級コンサルタント 東山真隆

定年退職者の実態調査によると、退職金で投資した人の約半数は新たに取引を始めた金融機関を利用している。退職顧客を引き留め、退職金による投資を促すには、顧客情報分析に基づくマーケティングやアドバイスでの差別化が鍵を握るだろう。

 定年退職者の資産運用ニーズや金融機関との取引状況を把握するため、野村総合研究所は2014年11月、金融資産1,000万円以上を保有する50代~70代の男女を対象に、ネットアンケート調査を実施した。そのうち、企業や官公庁を定年退職して退職金を受け取った経験のある3,270名(平均年齢65.8歳)の回答を集計した(※1)。

退職金の運用は定年前後の短期間で意思決定

 アンケート調査より、退職金で投資商品(株式、債券、投資信託など)を購入した人は全体の43%で(※2)、投資商品購入には退職金の43%が振り分けられていることが分かった。

 これらの人が退職金の運用を考え始めた時期については、「定年退職後半年の間」が39%、「定年退職の直前~半年前」が15%と、定年退職の前後半年間に集中する傾向がみられた。運用検討の際に活用した情報については、「金融機関の窓口や営業担当者」が31%と最も多く、金融機関に対面で相談をしながら退職金の運用について検討を行っている様子がうかがわれた。また、「金融機関のウェブサイト」や「金融機関のセミナー」も上位に並んでおり、定年退職者の多くは金融機関が提供する情報を頼りに検討を行っていると考えられる(図表1)。退職金受領後あるいは運用の検討後すぐに投資商品を購入する人も多く、82%の人は退職金の受け取りから「6ヶ月以内」に投資商品を購入したと回答している(※3)。

 こうした結果から、退職金で投資商品を購入した定年退職者は、退職前後の短期間のうちに退職金運用の意思決定を行い、投資商品を購入していると言えよう。

半数ほどは、新たに取引を始めた金融機関で投資商品を購入

 前述のような行動特性が見られたことから、定年退職者は、退職以前から利用している金融機関で、運用の相談や投資商品の購入を行っているのではないかと思われたが、必ずしもそうではなさそうだ。

 アンケート調査によると退職金で投資商品を購入した金融機関の数は平均1.9社であったが、そのうち最も多額の投資商品を購入した金融機関との取引状況を尋ねたところ、「定年退職以前から利用している金融機関(銀行、証券会社、信託銀行等)」と回答した人は40%のみであった。つまり、半数ほどは、新たに取引を始めた金融機関で最も多額の投資商品を購入していると考えられるのである。このことは、各金融機関が、顧客の「定年退職」という重要なライフイベントを捉えたマーケティングやサービスの提供が十分にできておらず、たとえ定年退職以前から取引があったとしても、退職金を投資商品での運用に取り込めていない可能性を示している。

 では、新たに取引を始めた金融機関で最も多額の投資商品を購入した人は、どのような理由で金融機関を選んでいるのだろうか。主な理由として、「退職者向けに金利優遇などのキャンペーンを行っていた」、「退職金の資産運用に関する的確なアドバイスを受けられる」などが挙げられた(図表2)。

 確かに、退職者向けの金利優遇キャンペーンは、メリットの分かりやすさから集客力が高いと考えられる。その一方で、キャンペーン利用者の何割かは3ヶ月間などの金利優遇期間の終了後に他社に移っていくという話も聞く。優遇キャンペーンのみで長期的な顧客関係を築くことは難しいと考えられる。より重要なのは、定年退職者の資産運用に関するアドバイス・ニーズに十分に応えていくことではないだろうか。特に、定年退職後に初めて投資をした人の場合、「退職金の資産運用に関する的確なアドバイスを受けられる」という項目が金融機関選択の第一の理由となっており、定年退職者の顧客化や退職金での投資促進を図る上で、資産運用アドバイスは重要な位置づけにあると言える。

金融機関の今後の取り組みへの示唆

 アンケート調査から明らかとなった定年退職者の行動特性を受けて、今後、金融機関はどのように対応していけばよいだろうか。正攻法ではあるが、定年退職以前から取引があるという利点を生かして、顧客情報の分析を基に定年退職を迎える顧客へのマーケティングを行い、資産運用アドバイスで差別化を図っていくことが考えられる。

 マーケティングでは、顧客の預り資産残高に加えて職域での取引状況等も考慮して顧客分析を行い、顧客が定年退職を迎える1年前頃から、ウェブサイトやアウトバウンドコールなどを通じてタイミング良く情報提供や来店誘致をしていくことが有効だろう。また、資産運用アドバイスにおいては、顧客の家族構成や他社にある預り資産等も含めた保有資産全体をヒアリングした上で、退職後の資金計画や相続対策などと関連付けてアドバイスを提供することで、アドバイスの質を高めることが考えられる。

 このように、顧客の離反を予防し、退職金を投資商品での運用に取り込んでいくためには、優遇キャンペーンのみではなく、定年退職以前から取引があるという利点を生かし、定年退職者へのマーケティングや資産運用アドバイスで差別化を図っていくことが鍵を握ると言える。

1) 定年退職時の職業が会社員、公務員、教職員の人で、早期定年退職制度を利用した人も含む。アンケート回収は、職業別の人口構成に基づいて実施した。
2) 定年退職した時期別に比較した場合、2008年以前に定年退職した人では45%が投資商品を購入しているのに対し、2009年以降では40%に留まっており、やや減少している。
3) 今回のアンケート調査では、「金融資産1000万円以上保有」を対象者条件の1つに設定しており、定年退職前に投資経験のある人も多いため、割合がやや高く出ている可能性がある。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

東山真隆

東山真隆Masataka Higashiyama

リテールソリューション企画部
上級コンサルタント
専門:リテール金融

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