1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. 金融市場
  6. アメリカ、イギリスの利上げの可能性

アメリカ、イギリスの利上げの可能性

2015年4月号

未来創発センター戦略企画室 上級エコノミスト 佐々木雅也

イエレンFRB議長は2月に行われた議会証言で、利上げの時期についての言質を与えなかった。利上げの時期の特定は市場に任せ、市場が利上げを完全に織り込むまで待つことで、市場の混乱を避けるのが狙いだろう。

量的緩和を実施した中央銀行の悩み

 2008年に世界的な金融危機が起きてから量的緩和を通じて自行のバランスシートを拡大してきた中央銀行は、共通の悩みを抱えている。それはどのようにして自身のバランスシートを圧縮し、かつてのような伝統的な金融政策へと回帰するかという点である。

 特にアメリカは、昨年12月の連邦公開市場委員会(FOMC)で、参加者17人のうち15人が今年中の利上げ開始が適切と見ているように、今年のどこかで金融政策の正常化に向けて利上げを始める可能性が高い。実際、最近の連邦準備制度理事会(FRB)は金融政策の方向性を示す文言(フォワードガイダンス)を少しずつ変えることで、同行が徐々に利上げに向かっていることを市場に発信している(※1)。しかし、FRBのイエレン議長は、2月24、25日に米連邦議会で行った証言のなかで利上げの具体的な時期に対する言質を与えておらず、依然として曖昧さが残されている。

 イエレン議長は今回の証言のなかで、FOMCが利上げに向かう前の最後の段階として、まずは、この時点のガイダンスである「金融政策の正常化の開始を忍耐強く待てる」という表現を変更すると述べている。同議長によれば、この文言がある時には、その後最低2回のFOMCが開かれるまでの間に、FOMCは、利上げが必要な経済状況にはならない可能性が高いと判断していることを示している。ところが、イエレン議長は同時に、このガイダンスを変えてから2回目のFOMCで必ず利上げをするというわけでもないとも述べている。

 金融政策を決めるFOMCはこの証言以降、3月、4月、6月に開催される予定となっている。そのため、イエレン議長にこう言われてしまうと、まずは3月にガイダンスを変更し、その後、最短の日程になる6月のFOMCで利上げをするという解釈もできれば、利上げを急いでいるわけではなさそうなので、利上げの時期は6月より後になるという読み方もできてしまう。どうしてこのような曖昧な言い回しになってしまうのだろうか。

利上げの具体的な時期は市場に決めてもらう

 伝統的な金融政策の政策ツールは、あくまで短期金利の操作である。前出のフォワードガイダンスという手法は、中央銀行側から敢えて政策金利の先行きを示すことで、短期金利の方向感をより長い期間の金利にまで着実に波及させたいという発想から出て来ており、その出発点はあくまで短期金利の操作にあると言える。

 しかし、これに長期債の購入で実施した量的緩和が加わると話が複雑になってくる。この政策をイールドカーブの世界に当てはめてみると、量的緩和は、短期金利の操作では届かない範囲の金利を、長期債の購入によって押し下げようとしてきたものだと解釈できる。これまでの中央銀行はイールドカーブの左端だけを掴んで動かしていたのだが、量的緩和を導入したことで、今回はイールドカーブの両端を動かそうとしていたのだ。

 これまでの中央銀行には、イールドカーブの左端を動かすことに対する知見は豊富にある。しかし、イールドカーブの両端を掴んでいる時に、利上げやバランスシートの圧縮に対して市場がどう反応するかという経験の積み重ねはない。今は中央銀行にとっても手探り状態だ。

 こうした時に、金融政策の変更で市場の混乱を避けるにはどうするか。市場の準備が整っていない段階で金融政策を変更しようとすれば、イールドカーブは急激な変化を起こしてしまいかねない。だとすれば、雇用や景気の改善が続き、市場参加者の誰もが利上げすると思った時にそれを追認する形ですかさず利上げをする方が良い。FRBが利上げの具体的な時期に対する言及を避けて「忍耐強く待っている」のはこうした状況ではないか。

 アメリカ経済では、インフレ動向と関連性の高い賃金の伸び率が、失業率が改善を続けるなかでも過去の好況期より低く推移している(図表)。今後、ここに加速の兆候が出てきた時などには、その時の物価の伸び率に関係なく、利上げに向けた心づもりが必要だろう。FRBは金融政策の変更は今後のデータ次第としているが、これは偽らざる本音ではないかと思われる。

イギリスの利上げは1年以上先に

 一方、昨年半ばごろまではアメリカと同じような時期に利上げが始まるとされていたイギリスは、消費者物価の伸び率が原油価格の下落が主因とはいえ1%を大きく割り込んでおり、利上げを始める時期がかなり先になる可能性が高まっている。それどころか、2月のMPC(金融政策委員会)の議事録には、利上げに関する文言の他に、これまでにはなかった利下げや追加の資産購入の可能性に関する言及もある。

 イングランド銀行(BOE)が四半期ごとに発行するインフレーション・レポートには、イギリスの政策金利が今後、どのように推移するかについての金融市場の予想が掲載されている。そこから機械的に利上げのタイミングを読み解くと、最新2月のレポートでは、昨年11月時点の予想からはかなり後ずれして来年2016年の後半になると見られ(※2)、この限りでは、イギリスでは利上げの開始がアメリカよりもかなり遅くなりそうだ。

 もっとも、カーニーBOE総裁が2月のレポート公表時の記者会見で強調していたように、BOEの基本的なスタンスは、時期はともかく利上げであることに変わりはない。BOEは、原油や食料価格の下落が実質賃金を上昇させて消費を刺激することで、国内で余っている労働力(slack)が活用されるようになり、それが、物価の上昇率が中期的に2%に近づく原動力になることを期待している。それでも、FRBと同じ量的緩和を導入したBOEが市場に混乱を与えない利上げという同じ発想に立っているとしたら、市場が示す1年半先という利上げ開始の時期は、今はあながち間違いだとは言い切れない。

1) 中央銀行はこのように、先行きの政策金利の方向性を自ら示すことで、金融政策の市場に対する透明性や説明力を高めようとしている。例えばFRBは、2013年12月から翌年10月にかけて、量的緩和政策によって毎月購入する長期債の金額を段階的に減額してきたが、その際には、資産購入が終了した後も「かなりの期間にわたって(for a considerable time)」0%から0.25%の政策金利の範囲を維持することが適切だという表現を用い、量的緩和政策の終了と利上げの時期が離れていることを示してきた。
その後、昨年12月にはこの表現に金融政策の正常化の開始を「忍耐強く待てる(can be patient)」という言い回しが加わったが、翌1月のFOMCでは、前に触れた「かなりの期間にわたって」という表現が削られている。
こうした文言の変化によって、FRBは利上げの時期が徐々に迫っていることを市場に伝えようとしている。
2) BOEの政策金利は現状0.5%となっているが、2月のインフレーション・レポートに掲載された市場の予想政策金利は、2016年第3四半期に0.7%、同第4四半期に0.8%となっている。BOEの政策金利の変更幅がこれまでと同じ0.25%ポイントとすると、2016年の後半に0.7%から0.8%に達するには1回の利上げが必要になり、このことから、金融市場がこの時期までに1回の利上げがあると見ているという推測が成り立つ。前回11月の同レポートでは、予想政策金利が0.7%から0.8%に達する時期は2015年の後半になっていた。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

佐々木雅也Masaya Sasaki

未来創発センター戦略企画室
上級エコノミスト
専門:マクロ経済分析

この執筆者の他の記事

佐々木雅也の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています