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変化する中国証券会社の収入構成

2015年3月号

NRI北京 金融システム研究部長 神宮健

中国の証券会社では、「資本仲介」業務が増え、ブローカレッジ業務一辺倒でなくなりつつある。そうした中で、自己資本を増強できるか否かが発展の鍵を握るようになっている。

再加速した証券業界の改革

 中国の証券会社の収入構成が変わりつつある。従来、中国の証券業界は、ブローカレッジ業務への依存度が高いため、株式相場次第で業績が大きく変動したり、手数料引下げの画一的競争に陥りやすいといった欠点が指摘されてきた(※1)。

 証券会社の経営基盤を強化するために、証券監督管理委員会(以下、証監会)は、2012年5月の「証券会社創新(革新)発展大会」で、「証券会社の改革開放・革新発展の推進に関する考え方と措置」(草案)を発表した。規制緩和によって新業務を手がけやすくすることで証券会社の業務を多様化・安定化させるものである。具体的には、①対顧客サービスの多様化・充実、②自己勘定業務の拡大、③インフラ面の構築、④対外開放の措置が採られた。

 その後、インサイダー取引の発生等を受けて、2013年の証券行政はリスク重視に傾き革新の動きはスピードダウンした。しかし2014年5月、国務院が今後5~6年の証券市場改革の青写真となる「資本市場の健全な発展の更なる促進に関する若干の意見」(いわゆる「新9条意見」)を発表し、証監会も「証券経営機関の革新発展の更なる推進に関する意見」を発表したことで、革新の動きは再加速した。

2014年の証券会社の業績

 ここで、証券業界全体の2014年の業績を見ると、純利益は、前年比119.3%増と倍増した(図表1参照。なお会社数は115社から120社に増加)。レバレッジ(総資産/純資産)(※2)が2013年の2.0倍から2014年は3.1倍へと上昇する中で、ROEは、2013年の5.8%から10.5%に上昇した(※3)。

 2014年の利益増加には年後半、特に11月以降株価が上昇し取引額が増えたことによるブローカレッジ収入増が一因として挙げられる。但し、以前とは異なり営業収入の構成が変化した点が注目される。ブローカレッジ収入の伸びは前年比38.2%増と営業収入全体の伸び63.5%増を下回っており、営業収入に占めるシェアは2013年の48%から2014年は40%へ低下した。

 一方で、信用取引収入は前年比141.7%増、自己勘定は同132.5%増、資産管理は同76.9%増である。信用取引の営業収入に占めるシェアは17%となり、2010年導入後4年を経て、証券会社の安定的な収入源になったことがわかる。自己勘定の顧客との証券レポ取引(「約定購回式証券取引」)や株式担保レポ取引等も増加している。対顧客のレポ業務は、自己勘定業務における投資範囲の拡大策として、上述した2012年の措置の一環として推進されたものである。

 なお、資産管理収入の増加の背景に、銀行融資が難しくなった不動産業や地方政府の融資平台に対する迂回融資(いわゆるシャドーバンキング)のチャネルとして使用されている分が含まれており、あまり健全とはいえない面もある。ただし、ここでも、不動産投資信託(REITs)の発売(※4)といった新業務導入の動きも見られ、今後の発展が期待できる。REITsの導入も、上述した2014年の証監会の「意見」における主要任務の一つ(業務・商品の革新の支援)であった。つまり、2012年以降一貫して推進されてきた、証券会社の業務多様化という当局方針の効果がようやく目に見えてきたと言える。

「資本仲介」業務へのシフトと資金調達・資本増強

 信用取引や対顧客レポ取引は、「資本仲介」業務と呼ばれる。主に証券会社が自己資金を使い顧客に流動性を提供する業務であり、取引仲介の手数料を取るブローカレッジ業務とは一線を画すものである(※5)。顧客へ短期的に流動性を提供するため、自己資金が必要なだけでなく、当局によるリスク管理規制の面からも自己資本が必要となる(※6)。「資本仲介」業務の拡大にともない証券会社の資金調達や自己資本増強の需要は強まっている。

 実際、証券会社の債券(短期融資債券、社債等)によるグロスの資金調達額は2012年の531億元から、2013年は5,241億元(※7)、2014年1-9月は3,873億元と、この2年間で急増した(※8)。資本の増強を見ると、2014年に上場証券会社6社が約450億元の増資を実施し(※9)、12月には国信証券が証券会社としては2年ぶりにA株上場した。

 政策面でも、証監会は、証券会社が多くのチャネルで資本を補充することを奨励するため、株式による資金調達の制限を緩和した。具体的には、証券会社のIPOの条件のうち「比較的強い市場競争力」と「良好な成長性」の2条件を撤廃した(※10)。足元では、8社がIPOの審査待ちの状況であり(※11)、2015年は証券会社上場が増えると予想される。

 今後は、上場・上場後の増資により資本力を強化できる証券会社が、ますます資本仲介業務をはじめ新たな業務を拡大しやすくなり、さらに収益・自己資本を強化していく好循環を実現できる。自己資本を主な基準として業界の淘汰を推進してきた当局の狙い通りの展開が予想される。

1) 営業収入のブローカレッジ業務への依存度は2007、8年当時で5割から7割程度あったものと思われる。(拙著「さらなる再編に向けて動く中国証券業界」、『季刊中国資本市場研究』2008Autumn、野村資本市場研究所、参照)
2) 総資産は、信用取引用の顧客資金を除く。
3) ROAは、同じく2.9%から3.3%に上昇。
4) 2014年4月、中信証券が一例。
5) 信用取引はほとんどが証券会社から顧客への資金融資である。なお信用取引には、「中国証券金融株式有限会社」(通称、「証金公司」。日本の証券金融会社に相当)が、信用取引業務で資金あるいは証券が不足する証券会社に資金あるいは証券を貸出す「転融通」制度もある。
6) 2014年のデータを見ると、純資本(純資産からリスクを調整したもの)/総資産の比率が下がっており、資本増強の需要が強いことが示唆される(図表1参照)。
7) 「経済参考報」2014年4月4日。
8) 「華夏時報」2014年9月24日。
9) 「第一財経日報」2014年12月30日。
10) 証監会2014年9月19日記者発表会。
11) 東方証券、浙商証券、銀河証券、中原証券、国泰君安証券、華安証券、東興証券(以上、上海証券取引所)、第一創業証券(深セン証券取引所中小企業ボード)。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

神宮健Takeshi Jingu

金融イノベーション研究部
上席研究員
専門:中国経済・金融資本市場

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