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米国のロボ・アドバイザーによるヒトとの競争と共生

2015年3月号

NRIアメリカ 金融調査グループ長 吉永高士

米国においては、「ロボ・アドバイザー」と呼ばれる資産管理サービスが2000年代後半以降に一部で台頭している。市場規模は対面営業員の提供するラップ資産残高の1%以下に留まるが、人的営業員との共生関係を確立できれば持続性ある資産管理型サービスの一形態となりうる。

ネットを基本チャネルとするラップ・サービス

 米国で「ロボ・アドバイザー」というとき、ネットを通じたセルフ・プロファイリングと分散ポートフォリオの自動運用を組み合わせたサービスを一般に指す。2014年12月時点で専業者を含め20社以上が提供しており、残高は約190億ドル(約2兆3,000億円)に上る(※1)。対面証券会社や銀行、中小投資顧問会社(RIA(※2))らを通じて提供される個人向けマネジド・アカウント(ラップ)残高が約3.8兆ドルに上るのに比べ1%に満たないものの、過去1年間で2倍近くに増大したとの推計もある。業界関係者のなかには、5年後の20年には残高が2000億ドルに達するとの見通しもあり、個人向け投資商品販売の担い手やサービスとして一定の存在感を発揮し始めている。

 07年頃に始まった業界揺籃期の数年には奇を衒ったような運用アイディアを競う風変わりなものもみられたが、現在生き残る上位プレーヤーのサービスをみると、おおむね①投資家がネット画面を見ながら行うリスク許容度判定等の属性分析や運用方針決定を含むセルフ・プロファイリングと、②運用方針に沿って投信、ETF、個別株式などから成る中長期分散ポートフォリオ投資を自動リバランス付きで行う資産運用という2つの基本機能を提供することが共通している。別名「オンライン・インベストメント・マネジャー」といった呼び方をされることもあるように、ネットを基本チャネルとして提供されるラップ・サービスといった方がよりイメージがしやすいかもしれない(※3)。ただし、コールセンターによる簡単な問合せへの対応や各口座開設のサポート等の人的リソースによる補完は一部ですでに提供されるなど(※4)、完全無人態勢で提供されているわけではない。さらに最近ではパソコン画面で顔をみながらビデオチャットにより限定的な相談サービスを提供するところも出てきたが(※5)、ここでの相談員はロボットではなく、人間である。

個人向けと対面業者向けの2種の事業モデル

 一方、事業モデルのポジショニングとしては、(A)個人投資家に直接サービスを提供するタイプ(以下、A型ロボ)、(B)対面証券会社や中小投資顧問会社の資産管理型営業を補完するラップ商品インフラ(主に小口顧客向け)を提供するタイプ(以下、B型ロボ)の2種に大別できる。今日の専業者の大手は、もともとA型ロボで事業を開始したが、13年頃からB型ロボ事業にも展開し始めるケースが相次いでいる。たとえば専業大手のベターメント社は、提携先のフィデリティをカストディアンとして使うRIA対面営業員が、従来は小口すぎて顧客対象にならなかった投資家へラップ・サービスを提供可能にするプラットフォームとして、B型ロボ・サービスを提供する提携を結んだが、同様の動きは15年以降も着実に増えるとみられている(※6)。さらに、中小対面証券会社らに対面営業員向けラップ用プラットフォームを提供してきた専業アウトソーサー(TAMP(※7)と呼ばれる)らが比較的小口な投資家への活用を念頭に、より簡素なB型ロボ・サービスの提供を開始するなど、対面向けラップ用インフラ業者がさらなる裾野開拓の一環として参入する動きもある(※8)。

 多くの新規参入絡みの話が対面向けのB型ロボに偏っているのは単なる偶然ではない。そもそも米国におけるラップ資産の大部分は1975年の個人向けSMA登場以来、大部分が対面営業員の提案による伝統的なコミッション型資産からのシフトや投資家教育によりもたらされたものである。とくに、顧客が生涯に自分や家族、社会のために成し遂げたいゴールを特定した上で、ラップをその基本的な実行手段に据えるという資産管理型営業(ウエルスマネジメント)プロセスが確立した90年代後半以降その勢いを増し、対面証券販売ビジネスを顧客満足度の高い成長産業として蘇生させた。米国ではラップは商品単品としては宣伝されておらず、担当営業員からゴールを聞いてもらうプロセスごと勧められ、使ってみてよさを実感し、その後に追加資金を入れたり、他人にも勧めてみたくなるサービスであるといわれる。したがって、今後もラップ残高の成長が対面チャネルに牽引されるとすれば、ロボ・アドバイザーの担い手にとりB型ロボ事業への進出や拡充は必然的な選択であろう。

カニバライズか共生か

 2015年のロボ・アドバイザー市場への新規参入で注目されているのは、第1四半期中に予定されている最大手ディスカウント証券チャールズ・シュワブによる個人向け(A型ロボ)の無料提供と、その後のRIA向け(B型ロボ)の提供である。同社の参入が注目されるのは、ラップ市場全体の価格破壊に繋がるのではないかということと、同社RIAカストディアン事業の顧客であるRIAの営業基盤を脅かすのではないかという懸念の声が一部にあるためだ。

 これに対し、同社の公式見解はいずれもノーだが、その根拠は顧客対象もニーズも重複しないということに尽きる。実際、シュワブの個人向けA型ロボ・サービスの対象預入額は5,000~25,000ドルで、これまでのラップ商品の下限25,000ドルを下回るレンジであり、個人向け事業の口座当り預り資産14万ドルや、RIA側の同38万ドルも大きく下回る。また、RIAや証券会社の対面営業員が残高に連動したラップ手数料を個人投資家から得られ続けているのは、投資自体の価値だけではなく、営業員が顧客のゴール(退職、相続、大口購入、財団設立、学資等)のさまざまなニーズに対する複雑な提案を内外専門家とも連携して先取的に行い、その実現まで伴走し続ける対価として位置付けられるからだ。対面営業員が機会費用等によりカバーできない市場をロボ・アドバイザーがカバーすることはあっても、両者の提供価値は同一ではない。だからこそ両者の共生は可能である。

1) コーポレートインサイト社推定。
2) 直訳すれば登録投資顧問会社だが、米国金融界では一般にある個人向け中小投資顧問会社(約16,000社。平均営業員数約3人)を指す。
3)「アドバイザー」は専業者であれ証券会社等の兼業者であれ、対面業者同様に通常の投資顧問業者登録をした上で営業する必要がある。大部分は一任運用が占めるが、他にも定額で一定件数以上の株式売買ができるサービス(米国ではフィー型証券口座の提供は禁止されているため、形式的には非一任型の投資顧問契約のかたちをとる)や日本でいう助言サービスに相当するものなども広義のロボ・アドバイザーにより提供されている。
4) ベターメント社やウエルスフロント社など。
5) バンガード社。
6) RIAカストディアン事業を展開するパージング社やTDアメリトレード社や独立営業員型証券会社のケンブリッジ社などもすでに合意計画や方針を明らかにしている。
7) Turnkey Asset Management Program
8) ちなみに、A型もB型も投資顧問料率は残高連動型の場合で年0.25%~0.35%程度のものが多いが、両者の違いはあまりない。TAMPが対面営業員向けラップソリューション向けに設定しているプライシングに比べればむしろ高めに設定されていることが多い。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

Yoshinaga

吉永高士Takashi Yoshinaga

NRIアメリカ
金融研究室長
専門:米国金融経営調査

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