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近時のグローバルM&A動向と今後の注目点

2015年3月号

金融ITイノベーション研究部 主任研究員 嶋村武史

2014年のグローバルM&Aは大型案件を中心に拡大し、金額ベースでみると2007年以来の高水準となった。今後も最大の市場である米国が牽引し続けると考えられるが、先行きを見通す上で、税制変更や資金調達環境の変化に伴う影響を注視する必要がある。

 金融危機後、取引水準が著しく低下したグローバルのM&A取引(※1)が再び活況を呈している。2007年に4兆米ドル超となり直近のピークをつけたグローバルM&A取引金額は、金融危機後の2009年には半減し2兆ドルを割り込んだ後、しばらく停滞が続いてきた。しかし、2014年の取引金額は約3.5兆ドルと前年比で約5割増加し、2007年以来で最大となった(図表)。

M&A取引拡大の背景

 図表に従いグローバルM&A取引のトレンドを取引金額別に見ると、2014年は特に50億ドル以上の大型案件の拡大が顕著であることが分かる。直近のピークである2007年においては複数のプライベート・エクイティ・ファンド(以下、PEファンド)が協働で大型案件を手掛けるケースが目立ったが、2014年においてはPEファンドではなく企業による大型買収が目立っている。

 では、何故企業による大型買収が活発化したのであろうか。第一に、幾つかの産業は転換点を迎えつつあり、M&Aを活用した業界再編の機運が高まりつつあることが挙げられる。TMT(※2)セクターとヘルスケア・セクターはその最たる例であり、実際これらのセクターにおいては大型案件を中心にM&A取引金額が大きく拡大した。TMTにおいてはインターネット環境の整備やデジタル技術の進歩に伴い通信と放送の融合を進める再編の機運が高まっており、その手段としてM&Aが活用されるケースが出てきている(※3)。また、ヘルスケアにおいては、製薬業界で大型薬品の特許切れが迫る中、新薬開発向けR&Dコストの増大に対応するため、M&Aを活用して重点領域に注力する動きが見られる(※4)。

 第二に、上記で述べた業界再編等を目的とした大型M&A取引を実行するための資金調達の選択肢が幾つかあり、かつ、比較的低コストで調達可能であることも挙げられる。金融危機以降、大企業を中心に手許現金を積み上げていることに加え、2014年は先進国の国債利回りや信用スプレッドは概ね低位に抑えられており、比較的低コストで買収資金をデットで調達できる環境にあった。更に、株価が上昇する中、企業が株式を対価に買収するケースも増加している。

 第三に、株主の姿勢が企業のM&Aに対して前向きになっていることが挙げられる。企業戦略に照らして買収の意義があり、かつ、買収資金を調達できる環境にあっても、買い手と売り手が買収価格で折り合わなければ前に進めない。この点、足許の株式バリュエーションの上昇は、売り手企業の株主が保有株式を売却する金銭的なインセンティブを増大させている。加えて、2014年は大型M&A発表後に買い手企業の株価が上昇するケースが増加しており(※5)、買い手企業の株主もM&Aに対して前向きな姿勢を示していることも追い風となっている。

見通しと今後の注目点

 今後のM&A動向は短期的には最大市場である米国の動向に左右されるであろう。欧州通信セクターの統合の動きや中国企業が外国企業を買収する案件の拡大といった米国外のトレンドも見られるが、M&A取引金額に占める米国の割合は近年増加基調にある(※6)。

 世界経済が減速基調にある中、米国経済の相対的な好調さは目立っており、株価も歴史的な高水準にあることから、今後も引き続き米国関連のM&A取引が活発に行われる素地はあると考える。しかし、2014年のM&A取引金額を押し上げる主要因となった50億ドル以上の大型案件が2014年のような水準で起こるかという点についてはやや懐疑的である。もちろん、M&A取引はミクロの企業行動の積み重ねであるため予測は極めて困難であるが、足許大型M&Aを阻害しかねない要因が顕在化している。

 要因の一つは米国の税制に関連する。ヘルスケア・セクターの大型案件において顕著であったが、2014年には米国企業が相対的に米国より税率が低い外国の企業を買収し、買収後の会社登記を米国からアイルランド等の法人税率が低い被買収先国に置くことで税制上のメリットを得ようと試みる買収案件(タックス・インバージョン)が幾つか見られた。勿論、そのようなM&Aを推進する理由のすべてが税制上の問題だけではないが、課税逃れが主目的だと批判される案件もあった。このような事態を受けて、米国政府は当該取引を制限するべく議論を活発化している。その一環として2014年9月にはタックス・インバージョンに伴う税制上のメリットを減じることを主目的とした税法規の一部改正が発表された(※7)。これによりタックス・インバージョンが完全になくなるとの見方は少数だが、海外子会社の利益を活用した取引を制限するため、一定の歯止めがかかると考えられる。

 更に、米国における高利回り社債のスプレッドが低下基調から上昇基調に転じる等、デットでの資金調達コストに上昇の兆しが見えることも懸念材料として挙げられる。足許は米国の長期国債利回りの低下によってスプレッド拡大の影響が相殺されている面があるが、スプレッド上昇の流れがこのまま継続すれば買収資金調達コストの増加を通じて企業の買収活動に影響を及ぼし得ると考える。これに関連して、近時の原油価格の下落に伴い、エネルギー・セクターの高利回り社債の市況が顕著に悪化していることも懸念材料である。近年、エネルギー関連の資金調達が活発化していたため、当該セクターが高利回り社債全体に占める比率は増加傾向にあった。そのため、当該セクターが不安定になると、他のセクターも含む高利回り社債市場全体への悪影響が懸念される。足許は他セクターへの波及は限定的に見えるが、この点は引き続き注視していく必要があるであろう。

 上記の通り今後のグローバルM&A動向を見通す上では近年その重要度が高まっている米国市場動向が鍵となるが、景気動向や株価動向といった要因のみならず、税制面や資金調達面の環境変化も注視する必要がある。

1) 本稿におけるM&A取引に係るデータの出所はトムソン・ロイター。完了(Completed)及び継続中(Pending)案件が対象。
2) テクノロジー・メディア・テレコムの略称。
3) 例えば、2014年5月に発表されたAT&TによるディレクTVの買収。
4) 例えば、2014年4月に発表されたグラクソ・スミスクライン(“GSK”)とノバルティスとの間の複数の取引。具体的には、GSKがノバルティスのワクチン事業を買収し、ノバルティスがGSKのがん領域製品群を買収する等の取引を行った。
5) トムソン・ロイターによると、2014年(12月2日まで)に発表された米国企業による10億米ドル以上のM&A案件136件のうち、M&A発表後に買い手企業の株価が上昇したケースは3分の2以上に上り、過去7年間の平均である50%を上回った。
6) 米国企業を対象とするM&A取引の比率(金額ベース)は2010年の32%から2014年には44%にまで上昇している。
7) 本拠地を移転した企業が、米国の税金支払いを繰り延べしつつ、海外子会社の利益を活用出来るようにする幾つかの手法を制限する等の、複数の改正を含む。タックス・インバージョンの目的の一つとして、海外子会社が積み上げた利益を、米国に還付して課税されることを避けつつ、有効活用することが挙げられる。当該税制変更の目的の一つは、海外子会社の利益の活用を制限し経済的なメリットを減じることを通じて、タックス・インバージョンを行う企業の誘因を減じることである。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

嶋村武史

嶋村武史Takeshi Shimamura

金融イノベーション研究部
上級研究員
専門:金融・資本市場と金融機関経営

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