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金融ITフォーラム報告

2015年2月号

國見和史

野村総合研究所(NRI)は2014年11月20日、「日本には強い金融サービスがある」をテーマに「NRI金融ITフォーラム2014」を開催した。

 アベノミクスも2年目を迎え、日本経済再生に向けたさまざまなチャレンジが続けられている。そうした中、金融業界に期待される役割もますます大きくなっている。そこで、日本における「強い金融サービス」を再確認するとともに、金融業界の皆様と意識を共有することを目的に、計30コマのセッション(プログラム参照)からなる「NRI金融ITフォーラム2014」を開催した。当日は、銀行、証券会社、保険会社、運用会社から合計838名のお客様にご参加いただいた。

 ここでは、特別講演をお引き受け下さった小松製作所 相談役の坂根正弘様、東京大学大学院経済学研究科 教授の伊藤元重様、日本経済団体連合会 常務理事の阿部泰久様、セブン銀行 取締役常務執行役員の石黒和彦様、東京証券取引所 執行役員の横山隆介様の講演を紹介する。

日本再生(ダントツ国家)-企業と国の構造改革-
株式会社小松製作所 相談役 坂根 正弘氏

 企業価値とは何か。私が経営者として辿り着いた結論は、社会、メディア、株主、金融機関、お客様、協力会社、販売・サービス代理店、そして社員という全ステークホルダーから、どれだけ信頼を得ているかの総和である。言い変えれば、「コマツでなければ困る度合い」。中でも、企業価値を創りコマツと共有し、その結果を評価して売上・利益を我々にもたらす一番重要な存在はお客様ということになる。

 私はコマツの社長在任中、「代を重ねるたびに強くなる会社になる」ことを念頭に、継承すべき価値観・行動基準として「コマツウェイ」を作成した。第一章がコーポレートガバナンスの充実で、取締役会の活性化/全ステークホルダーとのコミュニケーション/ビジネス社会のルール順守/リスク処理を先送りしない/後継者育成の5項目からなる。例えば、コマツでは会社の状況を世界中の社員にトップ自らが説明することを徹底しており、他企業には稀有なことと言えよう。第二章がモノづくり編、第三章がブランドマネジメント編。

 コマツで行っているブランドマネジメントとは、「コマツでなくてはならない度合いを高め、パートナーとして選ばれ続ける存在となる」ことを目標とする活動。まず顧客との関係性を見直し、レベルを七段階に分ける。最高のレベル7は絶対にコマツから離れられない顧客。いま世界各国で、コマツでなくては困る度合いを高めようと、顧客関係性レベルを一つでも上げていく活動を展開している。

 ダントツ商品の定義は、他社が数年では追いつけない特長を有すること、キーワードは、環境・安全・ICT(情報通信技術)。しかし、商品だけでは競合メーカーが必ず追いつくので、最終目標はダントツソリューションとなる。チリなどで活躍する無人運転ダンプトラックはその一例。製品だけでなく鉱山管理ICTシステムと合せて提供するため、コマツ以外の製品に目移りすることはなくなる。ここまで行けばダントツ経営になり、競合メーカーは追いつけなくなる。

 コマツはある意味、日本の縮図である。1950年代に石川県から東京に本社を移し、60、70年代は輸出に便利な太平洋側に工場を作り、80、90年代は日本でのモノづくりに自信を失って海外展開を中心に歩んだ。多くのグローバル企業が同じような道を辿っている。深刻なのが、東京本社の一極採用。少子高齢化問題も絡み、この制度が地方を疲弊させ、地縁のない社会を作ってしまった。

 コマツでは2002年から発祥の地、小松市がある北陸への回帰を始めている。教育、購買など一部本社機能を東京から移し、金沢港での工場建設、農業・林業の技術支援等々を行ってきた。2014年には、電力使用量9割減を実現した新工場が小松市に完成。10年前に比べると、コマツの日本における北陸地区の生産比率は5.6%、社員数は9%上昇し、北陸の比重は増加傾向を続けている。

 コマツは2001年に始まる経営構造改革で成長とコストの分離により経営の「見える化」を図り、子会社削減、雇用への着手で固定費を減らすことに成功した。結果として、日本でのモノづくりコスト競争力は決して国際的に負けていないことに自信をつけた。地方自治体でも社会保障費の実態を「見える化」して地域住民が他市町村と比較できるようになれば、このままではいけないと問題意識を持つようになるだろう。

 物事には必ず本質があって、何かに着手するためには、まず事実を「見える化」することが重要。本質を見抜き、データを基に語る。そして語るだけでなく可能なことから着手しなければならない。その継続が企業や国を変えていく。民は弱気の議論ばかりせず、強みを磨いて攻めに出るしか日本の復活はない。いよいよ民の出番である。

日本経済の最新動向~金融業界の洞察ポイントを探る~
東京大学大学院経済学研究科 教授 伊藤 元重氏

 日本政府の抱える借金はGDP比220%と巨額で、非常に大きなリスク要因となっている。これから二、三十年、覚悟を決めて向かい合わなくてはならない。但し、足元で重要なのは国債費を除いた歳入と歳出の差、プライマリーバランス(PB)の赤字が今後膨らんでいくか、減っていくかである。政府の最初の目標、「2015年度までにGDP比のPB赤字半減」は何とか達成できそうだが、その次の「2020年度までにPB黒字化」はアベノミクスが成功して税収が増えても社会保障費がそれを超える勢いで増えるため達成が難しく、さらに踏み込んだ歳出入改革が必要となっている。こうしたシナリオは今回の消費増税延期決定の前後で基本的に変わっていない。

 財政の健全化には、「歳出削減」、「増税」、「成長」の3点セットが必要である。

 「歳出削減」では、高齢化が進む中、社会保障費の増加をいかに抑制するかが重要である。たとえば年金は2015年4月からマクロ経済スライドが発動されるが、今後は支給開始年齢引き上げも大きな議論になるだろう。また医療費の適正化も必要である。後期高齢者の一人当たり医療費が最も低い5県と同じ水準が日本全体で実現できれば1.5兆~2兆円削減することができる。

 「増税」は社会保障費を始めとした歳出規模を想定して実施しないといけない。消費税はもちろん重要だが、地域ごとに費用と便益が見えやすくなる地方所得税の在り方も大きな論点となるだろう。

 「成長」も、デフレ下での財政再建が現実的にほとんど不可能であることを考えれば重要である。日本の経済はバランスが悪い。雇用者所得が17年ぶりの高い伸び率で、失業率が完全雇用の水準にあるにもかかわらず、消費が伸びていない。企業の業績は戦後最高水準にもかかわらず投資が伸びていない。そうした企業の好業績が賃金の引き上げ、質のよい雇用増加という好循環につながっていない。こうしたアンバランスを解消するには、消費に慎重な低所得者や30代子育て世代を支援したり、企業が「ここは前に行かなくては」と感じられるような、成長戦略に基づく政策を講じたりする必要があろう。

NISA拡充と投資環境整備に向けた税制のあり方
一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久氏

 今年1月に開始されたNISAは順調なスタートを切ったが、制度の一層の拡充が必要だ。株式の持ち合いが難しくなっている状況で、企業にとって安定株主の確保は極めて重要であり、個人への期待は大きい。ただ6月末時点のNISA開設状況をみると問題は年齢構成である。退職世代が5割以上を占め20~40代の現役世代が少ない。本当にNISAを開いてほしいのは若い世代であり、現役世代に使いやすいものにしたい。

 金融庁の平成27年度税制改正要望には、ジュニアNISA(19歳までが対象。上限80万円)、年間投資上限額の引き上げ(100万円→120万円)などが挙げられている。これが実現すれば合計で年間200万円、子供の教育資金のためにも運用ができる。

 しかし、いくら上限が上がっても、そもそも金銭的余裕の少ない若い世代にはメリットが少ない可能性がある。そこでNISAと従業員持株会とを組み合わせれば、双方の制度をもっと有効に活用できるのではないか。持株会を採用している会社は多いが、加入している従業員の割合は低下している(平成24年度で約4割)。会社から奨励金が出るものの、配当金も含め課税対象であり、持株会としての税制優遇は一切されていない。しかしNISAに持株会会員用の特別勘定を設けることなどにより、持株会の株式をNISAに移し、その優遇措置を受けられるようにすれば、毎月給与天引きで身近な自社の株を購入し、非課税で保有することができる。若い世代にとっては少額からでも簡単に積み立て投資が可能となる。企業にとっては、幅広い世代の従業員に安定的な株主になってもらえる。仕組みを工夫すればすぐにでも実現が可能だと考える。

セブン銀行の経営戦略と今後の展開~共存共栄での金融サービスを展開する「みんなのATM」~
株式会社セブン銀行 取締役常務執行役員 石黒 和彦氏

 セブン銀行では「「共存共栄」の理念に基づくサービスの実現」を経営の基本方針の一つに掲げている。提携金融機関の皆様とは、当社のインフラであるATMを使っていただきながら、win-winの関係で一緒にサービスを作っていきたい。

 当社のATMは2014年夏に設置台数が2万台を突破した。設置場所はセブン-イレブンが圧倒的に多いが、セブン&アイ・グループや金融機関の店舗、商業施設など「お客様に求められている所」に広く展開している。最新の第3世代ATMでは「誰もが使いやすい」を目指して現金取り忘れ対策の強化、1時間当たりの取引可能件数の向上を図るとともに、環境への対応として消費電力をほぼ半減させた。

 金融機関の皆様にはATMに関連して様々な形でセブン銀行をご利用いただいている。例えば地方銀行の皆様とは、訪日のお客様向けに海外カードに対応した当社ATMを観光地や空港に共同で設置している。また、顧客拡大に向けたブランディングの一施策として、ATMの通常画面の上方に位置する第2画面や、利用明細書の余白部分を広告に活用いただいている。

 当社では今後も国内ATM事業の拡充に注力していくが、同時に、新たな成長ステージに向けてそれ以外の事業にも果敢に挑戦していきたい。

 第一に、セブン銀行は自身も免許銀行であるので、口座サービスを充実させ、消費者の皆様におサイフ代わりに利用していただきたいと考えている。

 第二に、国内市場の飽和を見越して、海外ATM事業を進めている。米国でATM運営会社FCTI社を通じて事業を拡大しているほか、インドネシアではATMネットワーク会社Alto Network社との合弁会社を通じて2015年早々に事業を開始する予定である。

 第3に、新たな事業分野として銀行事務代行業務の準備を進めている。大連のパートナー会社を活用して低コスト・高品質の事務サービスを提供するもので、提携行の皆様の事務面での課題解決にご利用いただけるよう提案していきたい。

OTCデリバティブ清算へのJPXの取り組み
株式会社東京証券取引所 執行役員 横山 隆介氏

 JPXグループは、東京証券取引所グループと大阪証券取引所(現在は大阪取引所)の経営統合により2013年1月に発足した。発足時の中期経営計画では、①新しい日本株市場の創造、②デリバティブ市場の拡大、③取引所ビジネス領域の拡大という3つの柱を掲げた。今回の講演の主題であるOTCデリバティブの清算は、③に含まれるもので、具体的にはグループ傘下の日本証券クリアリング機構(JSCC)が担っている。

 まずは、OTCデリバティブ清算にかかる規制背景を振り返る。2009年9月に開催されたピッツバーグ・サミットでは、標準化されたデリバティブは2012年末までに中央清算機関(CCP)で清算されるよう定められた。これは、金融危機での反省を受けたもので、CCPを通じて清算されることでシステミックリスクの軽減や市場の透明性向上などが期待される。わが国では、まず2012年11月にJSCCへの既存参加者に対し利用が義務付けられた。対象者は今後段階的に拡大される予定である。

 こうした規制導入に先行する形で、JPXグループではサービスの拡充を図っている。例えば、CDSインデックスについては2011年7月、金利スワップ(円建て)については2012年10月にそれぞれ清算サービスを開始している。2014年10月末の債務負担残高はCDSで約1兆円、金利スワップで約1,000兆円となった。

 OTCデリバティブの清算事業は海外清算機関も交え、競争が激化している。JPXグループとしては、規制対応のみならず、更なる競争力向上のための施策として、①JGB先物と金利スワップを1つのポートフォリオとして扱うクロスマージニングや、②外貨建て金利スワップの清算、③シングルネームの清算をそれぞれ予定している。これらにより、グループとしての収益基盤を固めるとともに、参加者にとっての利便性も一層高めたいと考えている。


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※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

國見和史Kazushi Kunimi

金融ITイノベーション事業本部
金融イノベーション研究部契約研究員

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