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米銀再編史からみた日本の地銀再編への示唆

2015年2月号

NRIアメリカ 金融調査グループ長 吉永高士

米国では過去四半世紀に7,000件余りの銀行合併・買収がみられたが、その99%以上は地域銀行が主体または客体として参画したものである。地銀界においても経営統合を選択肢として排除しないスタンダードが90年代初頭にはすでに確立していた米国の銀行再編史に照らし、今後本格化する可能性が指摘される日本の地銀再編への示唆を考察する。

米銀再編の「主役」は地域銀行

 2008年のリーマンショックよりもさらに20年近く遡る80年代末期以降、米銀経営統合で日本や世界が注目したものの多くは、80年代までに国際金融舞台で一時代をなしたマネーセンターバンク(MCB)やその後のメガバンク誕生に絡む大型再編であった。MCBについては90年代初頭まで経営不安が囁かれ続けたマニュファクチャラーズ・ハノーバーとケミカルの「対等合併」に端を発し、その後に復活を遂げた新ケミカルとチェースおよびJPモルガンの統合で現在のJPモルガン・チェース(JPMC)の原型が2000年代に確立された。MCB同士では他にバンカメリカがコンチネンタルバンクを買収し、その後98年に広域地銀の雄であったネーションズバンクに「対等合併」され、統合後の新バンク・オブ・アメリカは全米初のコースト・トゥ・コースト(東西両海岸に跨る支店銀行基盤を擁する)銀行となった。他のMCB絡みでは、シティコープと保険持株会社トラベラーズの合併で98年に誕生したシティグループは当時収益力で世界最大の銀行グループとなり、バンカーストラストによる98年のドイチェバンクへの身売りもホールセール専業銀行の戦略的岐路を象徴するクロスボーダー大型再編として内外の耳目を集めた。JPMC、バンカメ、シティの旧MCB系にウエルズファーゴを加えた4社は2000年代前半には米メガ銀行グループとみなされるようになったが、その後のリーマンショックを前後とするさらなる銀行買収や異業種統合、営業譲渡、資産売却などでも、いろいろな意味で注目され続けた。

 ところが、過去25年間の米銀の統合(※1)を振り返るとき、MCBやメガなどのいわゆる主要行が当事者となった統合はほんの一握りにすぎない。実際、1990年から2014年12月(※2)までの米銀買収・合併(完了・合意発表ベース。未遂・資産売買を除く)を振り返ると、累計件数7,223件のうち、統合先銀行の総資産が1000億ドル(12兆円)を超える「メガディール」は13件と0.2%にとどまる。これに対し、総資産が10億ドル(1,200億円)以下のいわゆるコミュニティバンクを統合対象とする件数は91%を占め、地域密着を謳う中小地域銀行が行数(※3)だけではなく再編件数でも大多数を占めていることが示される。また、多くの日本の地銀の総資産レンジに相当する総資産100億~1000億ドル(1兆2,000億~12兆円)の米銀を対象とする買収・合併は件数ベースでは全体の1.4%にとどまるものの、統合先銀行の総資産合計額でみるとシェアでは34.2%に上り、これはメガディールの同36.9%にほぼ匹敵する規模となる。統合主体の多くは総資産レンジで被統合側と同程度規模のケースがおしなべて8割以上で推移してきたことも考慮すると、米地銀は同国の銀行再編において主役の一翼を担い続けてきたといっていい。

広域化よりも競争圧力軽減につながる統合

 90年代初頭より米銀経営調査をしてきた筆者の私見として、米地銀再編から日本の地銀が参考にできる可能性があるものとして、以下に3点ほど挙げたい(※4)。

 第一は、統合対象選定のクライテリア(基準)に関するものである。日本でも潜在的統合先選びに際して、ノウハウと顧客基盤共有によるクロスセル増収余地と規模の経済性による効率化余地の2点が言及されることが多いが、米銀統合の場合はさらに競争圧力の最適化(※5)が最重要の判断基準の1つとして常に意識されてきた。米銀の買収・合併においては、中小銀行でも州最大手銀行でも地元の競合相手との統合を最優先の検討オプションとして適否を検討し着実に実行してきたし、新たに買収や自前支店開設で進出先を広げる場合でも進出先市場で続けざまに競合者を買収することを行ってきた。寡占による弊害は厳に戒められねばならないが、県内または県境を越えて採算割れ承知の金利競争による貸出先の奪合いをしないでよい統合先選びは、経営の安定や健全性の強化を通じた複数の地元地域への貢献や経済牽引と矛盾しない。その意味で営業地域の重複はチャンスと捉えたい(※6)。

 第二は、上記とも直接関係するが、営業地域の設定に関するものである。一言でいえば、広く薄い広域化ではなく、進出先の各地元市場でそれぞれに厚い営業基盤を確保することはプライシングの健全化だけでなく顧客サービス面でも再編によるメリットが発揮しやすい。つまるところ、広域化を自己目的化させず、自行と営業基盤が重複する隣県を本拠とする大手地銀との統合や複数の中堅銀行の買収はさまざまな歴史的経緯を越えて最優先で検討に値する統合先のオプションとなろう。飛び地で複数の地元市場を持つケースでも、突き詰めれば、隙間を陸続きで埋めることよりもそれぞれの内地や隣接領域の充実につながる統合が優先されると思われる。

 第三は、統合後の名称に関するものである。合併・買収の交渉時、価格面での条件以外では、名称、本拠、CEOポストの3点を統合パートナーのどちらが得るかという決定は顧客や従業員(現・元)を含むステークホルダーの心証にも深いインパクトを与えうるデリケートなものである。今後の日本の地銀再編でも救済色が少ないものが増えるとすればこれらの帰趨が合意成立において一層重視されることは想像に難くない。統合決断でこれらのジレンマやトリレンマに立たされたほぼすべての米銀経営者が最重要視してきたのはCEOポストだが、有力地銀同士の統合でもそれを得た方が本拠地と名称の両方か片方を相手に譲るケースはめずらしくない(※7)。米国で80年代から地銀再編を主導したスーパーリージョナルバンクの多くは、社名から地域性を消した名前を途中から採用した後、それぞれの地銀再編参画の最終段階でそれらの使用もやめた(※8)(※9)。由緒ある名称に対する地元地域や顧客からの愛着は大切にし続けるべき財産だが、事業モデルの大幅修正にも相当するトランスフォーメーショナル(転換的)な統合ディールにおいては例外はありうるだろう。従来の延長線を超えた新しい歴史を創る意志とともに新ブランドを使いこなす地銀があっても違和感はない。

1) 米銀および貯蓄金融機関の合併・買収件数の合計。
2) 2014年は年初から12月25日まで。
3) 2014年第3四半期末のFDIC付保銀行・貯蓄金融機関6,589社のうち総資産10億ドル以下は89.6%を占める。
4) 他に、子会社銀行組織統合、オペレーション標準化、システム統合、本社機能集約とガバナンス態勢など統合合意後の実行に大きな負荷のかかる課題についても米銀の先例には参考にすべきものがあるが、本稿では統合の合意や決断に係るキーファクターにフォーカスする。
5) 誤解を恐れずにいえば「競争圧力の軽減」だが、寡占化による超過利潤を目指すものではなく、過当なプライシング競争に陥らない範囲での財務的な自己規律の確立と言い換えてもよい。
6) 地元県内で4割を超えるシェアを持つ地銀の場合であっても、県境に捉われない「地元地域」の再定義により統合先選定と経営リソース配分の最適化余地を広げられる可能性がある。
7) USバンコープとファーストバンクシステム(1997年)、ノーウエストとウエルズファーゴ(1998年)、ファーストユニオンとワコービア(2001年)の統合など。
8) ネーションズバンク、ファーストユニオン、バンクワンなど。
9) 個々の米銀にとり、地域銀行再編は永遠に終わりのないプロセスではない。米国では全米の付保預金シェアが買収・統合によって10%を超えてはいけないことが連邦法で規定されており、この上限に達した銀行ではバランスシート圧縮などを行わない限り追加的な国内銀行統合の余地はない。地銀再編の主体となりながら成長してきた米銀のうち、この基準に抵触するウエルズファーゴ、バンカメ(旧ネーションズバンク)、JPモルガンチェース(広域地銀のバンクワンを統合)は追加の国内銀行統合の余地は基本的にない。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

Yoshinaga

吉永高士Takashi Yoshinaga

NRIアメリカ
金融・IT研究部門長
専門:米国金融経営調査

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