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ASEAN のリテール上位中間層向け商品・チャネル戦略

2015年2月号

ホールセールソリューション企画部 主任研究員 片岡佳子

ASEAN主要国の上位リテール銀行では、一定以上の金融資産を有する上位中間層向けの事業を強化する動きがみられる。足元では、商品やチャネルに対する顧客ニーズに変化の兆しも窺われ、今後もその動向を注視する必要がありそうだ。

ASEAN銀行はMass Affluent層向け事業を強化

 近年、ASEANの現地リテール銀行において、一定以上の金融資産を有する「Mass Affluent層(以下、上位中間層)」(※1)と呼ばれる層への事業を強化する動きがみられる。この背景には、①人口成長・経済成長を受けて、豊富な金融資産を持つ層が拡大していること、②こうした層は、金融機関にとって一般的に中間層よりも5-7倍程度収益性が高いといわれていること、③一部の国では銀行の収益環境が厳しさを増しており、新たな収益源を模索する動きがみられること等があると考えられる。

 こうした動きを受け、野村総合研究所は欧州を中心とするリテール銀行の民間団体であるEfma(※2)と共同で、ASEANの銀行における上位中間層向け事業の実態に関する調査を実施(※3)した。調査の結果、リレーションシップ・マネージャー(以下RM)に対するニーズが総じて非常に強いものの、近年は顧客の世代交代によりその傾向に変化の兆しが現れてきていることが明らかになった。

若年層顧客の台頭でニーズに変化の兆し

 はじめに上位中間層顧客が銀行に何を求めているか、その基本的なニーズについて銀行に質問した。すると、半数以上の銀行が、専任のRMへのニーズが最も強いと回答、次いで、支店内の上位中間層専門エリア、各種特典、資産運用のためのアドバイザリーサービスという結果が得られた。実際に上位中間層顧客を多く獲得してきた銀行のこれまでのアプローチを見てみると、①支店内に上位中間層向け特別セクションと選任スタッフを配置、②付加価値サービスとして貸金庫を設置(タイの銀行)、③上位中間層向けのブランドを新たに立ち上げ、④メンバー顧客に対して空港でのラウンジ利用、ハイヤーサービスなど各種特典を提供(シンガポールの銀行)といった、上位中間層を如何に「優遇するか」という点を重視した戦略が中心となっており、商品やサービス自体はあまり重視されていなかった傾向が窺われる。

 しかし、こうした傾向に対して、幾つかの銀行から、顧客年齢層の変化等を要因に、顧客ニーズがシフトしてきている、との指摘が聞かれた。すなわち、これまでは企業経営者など50代以上の中高年顧客が中心であったが、足元では弁護士、医者、金融機関・政府関係者といった高所得のホワイトカラー層や企業家などの若年層が台頭してきており、こうした層は従来型の顧客とは異なるニーズを有しているという指摘である。

 このような指摘を受け、チャネルや商品に対する調査結果を子細にみると、幾つかの点で、実際に上位中間層のニーズが変化していることが見て取れる。

投資性商品、デジタルチャネルへのニーズが高まる

 若年層顧客における代表的なニーズのひとつが、投資関連サービスである。各行に、これまで上位中間層事業を牽引してきた主力商品を聞いたところ、定期預金、住宅ローン、普通預金といった伝統的な商品が中心であり、投資性商品はほとんど浸透していないとの回答が得られた。しかし、今後1-2年の主力商品の見通しについて聞いてみると、投資信託・ユニットトラストとの回答が最も多く、次いで生命保険となっている。従来型の顧客は、投資性商品への理解が十分ではなかったほか、投資を行う場合も不動産投資や自己判断での株式投資を好む傾向があった。一方、増加している若年層顧客では長い年限で安定して資産を増やしたいという意識から、銀行のアドバイスや投資性商品へのニーズが総じて強く、それが投資商品の増加見通しの主な要因(※4)となっているようだ。

 同様のニーズ変化は各行のチャネル戦略においても見て取ることができる。各チャネルの足元の重要度及び今後の投資見通しを聞いたところ、足元では、支店、RM、ATMといった伝統的なチャネルの重要度が最も高かったが、今後の投資ではデジタルチャネル(モバイルバンキング、オンラインバンキング)が支店やATMを大幅に上回り、RMに次ぐ水準となった。若年層を中心に、デジタルチャネルを活用した利便性が重視されており、特に取引執行や情報提供の領域でその傾向が顕著であるようだ。

 なお、投資意欲が最も強かったRMについて、その詳細を聞いたところ、多くの銀行が、「新規ニーズに対応するための人材育成」の必要性を指摘した。従来型の顧客がRMに対して口座開設や取引の伝達といった単純なサポートの提供を期待していたのに対し、若年層の顧客は、投資性商品の説明やアドバイザリーサービスの提供、デジタルチャネルの活用等を求めており、RMが果たすべき役割が変化してきていると言える。

上位中間層向け事業における課題と今後の見通し

 このように上位中間層顧客のニーズに変化の兆しがある中、銀行は主に3つの課題に直面している。

 一点目は、RMが今後も最重要チャネルだと考えられている中で、高度化・多様化する顧客のニーズに応え得る人材が不足している問題だ。RMへの投資意欲は非常に旺盛であるが、人材育成のノウハウは必ずしも確立されておらず、人材確保は各銀行にとって頭の痛い課題といえそうだ。

 二点目が、デジタルチャネル活用の問題だ。投資性商品やアドバイザリーサービスといった、対面チャネルとの親和性が高いサービスへのニーズが高まる中で、デジタルチャネルをどの程度活用し、どう差別化するのか。多くの銀行が模索している状況といえる。

 三点目が、各行における商品・サービス開発体制の未整備さである。商品開発の手法について聞いたところ半数以上が「他行の事例を見て、遅れを取らないように真似る(※5)」と回答しており、自律的・機動的に商品開発を行えていないことがわかる。一部では欧米へのスタディツアー等に参加する等、積極的な取り組み姿勢がみられるが、多くの銀行がまだ情報収集段階のようだ。

 邦銀にとってみると、ASEANの上位中間層市場は収益性と成長性の面で魅力の高い領域だと言える。現状では、RM等の対面チャネルが非常に重視されているため参入障壁が高いものの、今後は若年層の台頭を背景に投資性商品の普及やデジタルチャネルの活用が見込まれるなど、状況は変化しつつある。引き続き、その動向を注視して行く必要がありそうだ。

1) なお、上位中間層の定義であるが、今回の調査では、各銀行内で使用している定義に基づいて回答して貰った。その定義は、国や銀行によってかなりバラつきが見られる。共通点として、ほぼすべての銀行が顧客の預かり資産をフィルタリングの基準としている点、また、その基準はシンガポールが最も高く、インドネシアはその1/10程度と、一人当たりGDP規模に応じた水準となっている点が挙げられる。従ってシンガポールの上位中間層とインドネシアの上位中間層における購買力はかなり異なっているといえる。
2) http://www.efma.com/
3) ASEAN主要国(シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン)の主要銀行に定量、定性的な質問を含むアンケート形式で実施。適宜追加でヒアリングを実施した。
4) 従来型顧客への営業活動が実を結んだという側面もある、との指摘も聞かれた。
5) 実際の回答は「Observe our local market and be a fast follower」となっている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

片岡佳子

片岡佳子Keiko Kataoka

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:金融機関のデジタル化

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