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前進し続ける英国の協調的エンゲージメント

2015年2月号

コンサルティング事業本部 上級コンサルタント 金惺潤

英国では、機関投資家が投資先企業と対話し、信頼関係を深めるためのエンゲージメント活動が盛んである。昨今では、複数の機関投資家が協調して活動するための場作り・仕組み作りが進み、エンゲージメントが次の段階へ進化しつつある。

世界金融危機以降の英国におけるエンゲージメント活動の論点

 2014年、日本においてはスチュワードシップ・コードが導入され、機関投資家の責任ある投資行動に注目が集まり始めた(※1)。英国では1991年に機関投資家の責任を定めたコードが制定されて以降、20年以上も機関投資家の在り方が議論されている。特に、2008年の世界金融危機以降、機関投資家の役割が活発に議論されている。

 現在は2012年7月に発表された“Kay Review”を具体的行動に移す取組みが進められている。Kay Reviewとは英国政府の要請を受け、John Kay教授が中心となってまとめた英国株式市場に関するレポートで、17の提言をとりまとめている。その提言の中でも最も重要と認識されているのが、「機関投資家と企業が相互に信頼・尊重するために、スキルと知識のある機関投資家が協力的に企業に働きかけるスチュワードシップの精神が不可欠」であり、Kay Reviewは「機関投資家が協調して企業に働きかけるための投資家のコミュニティが必要」と結論付けている。この提言をきっかけに、英国では協調的エンゲージメント(Collective Engagement)を行うための場作りが具体化する。

インベスター・フォーラム設立とその問題認識

 Kay Reviewの提言以降、保険協会、年金協会、投資顧問協会(※2)などによる合同ワーキングが開催され、2013年12月には機関投資家と資産運用会社が協調してエンゲージメントをするためのインベスター・フォーラムの設立が決定された。市場関係者の中には、大手の機関投資家は個別に関心事項が異なり、連携することに否定的という批判もあったが、フォーラム設立はそうした声を跳ね返した。また、フォーラムという場が存在することで、単独では大きな影響力を発揮できない小規模な年金基金や保険会社も、エンゲージメント活動を行いやすくなると期待されている。

 2014年10月27日、そのインベスター・フォーラムの初会合がロンドンで開催され、多くの機関投資家、資産運用会社、コンサルタント、金融機関などが集結した。そこでは、まず「投資チェーン全体に信頼を醸成することが必要」、「トレードではなく投資を推進すべき」、「企業と投資家の長期的な利害を合致すべき」、「業界の文化を変えていかなければならない」、「未だに企業に対する投資判断とガバナンス評価が分断されている」といった株式投資にまつわる深い問題認識が共有された。

インベスター・フォーラムの4つの取組み

 今後、インベスター・フォーラムは、エンゲージメントによって企業価値や投資家の資産価値を守るために、4つの活動を推進していくと宣言している。

(1)イノベーション・フォーラム

 まず、投資家コミュニティが長期目線の投資行動とエンゲージメントを促進するために、各種のリサーチやイベント開催を進めていく。ここでは、特定企業に関するリスクや、成功するビジネスモデルも議論される。着目すべきは、この活動が投資チェーン全体の文化を変えていくことを狙いとしている点であり、根本から市場関係者の投資に関する発想を変えようとしている点である。

(2)アドバイザリー・フォーラム

 次に、機関投資家、資産運用会社にエンゲージメントの手法や注意点のアドバイスも積極的に行っていく。また、企業経営者に対しても、大規模な企業改革を進める際などにおける投資家との情報共有・開示などについて、アドバイスを行うとしている。

(3)投資家による協調フォーラム

 さらに、特定の企業が戦略面や業務面で中長期的な問題を抱え、競争優位性を失うリスクがある際、その企業に投資する機関投資家と資産運用会社のグループのエンゲージメント活動を支援するとしている。特に、リスクが拡大する前の早期の段階で、対象企業に働きかけることを狙いとしている。

(4)イベントドリブン・フォーラム

 そして、投資先企業がM&Aやスキャンダルに巻き込まれ、投資家の権利や資産価値がリスクにさらされた際には、関係する投資家に対して適切な対応策のアドバイスを行うとしている。

 これらの活動の実践は意欲的な目標であるため、投資先企業や市場関係者との軋轢や誤解が生じないよう、時間をかけながら推進していくと考えられている。

次のステージに向けたチャレンジ

 このように、英国では多くの機関投資家が協調することで、投資先企業へのエンゲージメントを進化させようとしている。今後、エンゲージメント活動を発展させるには、2つの挑戦があると認識されている。

 1つは、上述のインベスター・フォーラムが安定的に推進されることであり、特に資金面での安定が重要と考えられている。現時点では、フォーラムの活動資金は、保険協会、年金協会、投資顧問協会などが負担しているが、将来的には個々の機関投資家や資産運用会社が負担することが必要と認識されている。個々の参加者が費用負担を認めるということは、機関投資家や資産運用会社がフォーラムを通したエンゲージメント活動は資産運用にとって有益と認めることと同義である。コストを投じてエンゲージメント活動を行おうとする投資家の増加は、エンゲージメント活動の成功の証と考えられている。

 もう1つの挑戦は、英国の株式に限定しているエンゲージメント活動を、外国株・債券・不動産・プライベートエクイティなど他の資産クラスに拡張していくことである。英国の機関投資家の資産ポートフォリオに占める英国株式の比率は年々低下している。つまり、英国企業だけにエンゲージメント活動を行っても、資産ポートフォリオ全体の価値を守ることが難しいという懸念が高まっている。外国企業にエンゲージメント活動を行っていくには、海外投資家との協調行動がより重要になる。また、他の資産クラスにエンゲージメント活動を展開する場合は、新たな行動規範やモデルの構築が必要になろう。

 今後も英国のエンゲージメントがどのように進化するのか、英国以外にどの程度波及するのかに注目すべきであろう。

1) 日本においては、2014年2月に金融庁より「責任ある機関投資家の諸原則:日本版スチュワードシップ・コード」が発表された。2014年12月時点で175の機関投資家、資産運用会社などが受入れを表明し、企業と投資家との関係強化・改善に注目が集まっている。
2) 投資顧問協会(Investment Management Association, IMA)、保険協会(Association of British Insurers, ABI)、年金協会(National Association of Pension Funds, NAPF)。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

金惺潤

金惺潤SungYun Kim

NRIインド
社長

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注目ワード : スチュワードシップ・コード

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