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コーポレートガバナンス・コード(案)の意義と課題

2015年2月号

金融ITイノベーション研究部 上席研究員

昨年12月に公表されたコーポレートガバナンス・コード(案)は、迅速・果断な意思決定を経営者が行うことをサポートするための仕組みである。企業は本コードに対応して、経営戦略・計画、経営陣幹部の選任方式の開示など、中長期の企業価値に関わる情報開示を進め、投資家の視点も踏まえた取締役会機能の強化を図ると予想される。

 2014年12月12日、「コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」(以下、コード原案と略)が公表された。コード原案は金融庁と東京証券取引所が共同事務局となり、2014年8月から12月まで、8回にわたる有識者会議の議論を経て公表されたものである(※1)。コード原案では、コーポレートガバナンスを「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」と定義している。つまり、企業経営者が健全な起業家精神を発揮し前向きに経営に取り組むことをサポートする仕組みであることが明示されており、不祥事を含むリスク面よりも、中長期的な企業価値を向上させることを含むリターン面の改善に焦点を当てたものとなっている。

コード原案の内容

 コード原案は5つの基本原則から構成されている(図表参照)。コード策定に当たり「OECDコーポレートガバナンス原則」を踏まえると明記されたことを受け、コード原案の内容は同原則の趣旨に即している(※2)。コード原案では、5つの基本原則を記した上、その基本原則をより詳細に規定した幾つかの原則と、さらにその原則の意味を明確にするための補充原則が記述されている(※3)。

 ともすると、これらの原則に対して、杓子定規にすべて準拠表明をしようと考えている日本企業も多いようである。しかし、中長期の企業価値との関係を無視してコード原案に対する準拠表明を行うのは本末転倒である。そもそも本コードは、「遵守か説明か(※4)」に基づくソフトローであり、準拠表明する場合でもすべての原則に対する遵守義務はない。例えば、基本原則4-8「独立社外取締役の有効な活用」はマスコミでも注目されている原則で、「資質を十分に備えた社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである」と規定されている。しかし、例えばある企業が事業内容の悪化に伴い業績が大きく下降、CEOのリーダーシップの下に権限を集中して経営再建を行っている状況下であれば、「当社は、現在、経営再建途上にあり、再建スピードをアップさせるため経営の意思決定の迅速性を最優先し、CEOが取締役会議長を兼任、また独立社外取締役を置かず内部取締役だけの構成で経営を進めていきます」というような形で記述をすることが可能である。企業は中長期の企業価値を上げるという視点から堂々とその主張を述べるべきである。

企業はどう対応すべきか

 コード原案の内容は、企業が十分な時間をかけて検討すべき項目(※5)が多く、対応にはかなりの時間を要するだろう。あくまで私見だが、企業は最低限、投資家の視点も踏まえた3つの視点から準備を行うべきではないか(※6)。
①投資家視点を踏まえた経営戦略・経営計画の公表
②企業価値向上に資する取締役会機能の確立
③投資家への説明責任の担保

 ①は、株式価値を含めた企業価値向上の戦略や計画をしっかりと立て、公表することである。株式投資家の関心は、企業の株式価値が増加するかどうかである。投資家の視点から言えば、「資本コスト」を上回る収益を獲得できなければ、その企業は「価値破壊企業」となる。従って、株式投資家からみて最も重要な情報開示は、資本コストの考え方の明示、資本コストを中長期的にどの程度の水準で上回ろうとしているかの目標値の明示、その目標値をどのように達成しようとしているのかの方法の説明の3つだと考えられる。この3つの情報は、企業経営者と投資家が、中長期の企業価値に関する議論を行う上での基本データになる。

 ②は、取締役会を中長期の企業価値に関心の高い投資家の視点も踏まえた意思決定を行う機関設計にすべきだということである。重要なのは取締役会機能の実効性を実質的に高めることである。例えば、独立社外取締役は、戦略計画の立案、経営者の指名、経営者の報酬決定などの役割が期待されている。このような決定を行える資質を備えた取締役候補を選び、彼らに必要な情報を提供した上で、取締役会の中でその意見を十分に反映できる取締役会の運営が行われなければならない。こうした機能設計がなされているのであれば、取締役会は今以上に中長期の企業価値向上を図るための意思決定を行うことができるだろう。

 ③は、投資家への説明責任の担保である。①で中長期の企業価値向上を目指す上での方針開示を求めたが、それだけでは十分とは言えない。経営戦略・経営計画の他に、経営陣幹部の選任方針及び手続き、報酬決定方針の開示などから、政策保有株式、買収防衛策に至るまで、株主の視点から見て企業価値に影響を与えると考えられる事項の開示が求められる。

 コード原案への準拠表明は、企業にとって投資家との建設的な対話を促進するための有益な情報提供ツールになると考えられる。その際注意すべきは、説明内容が企業価値を基準に考えたものでなければならない点である。すべての項目について、法的な観点を踏まえ形式美を整えて書いてあるようなものではなく、企業価値との関連が明確に理解できるものでなければならない。経営者自ら、もしくは経営企画やIR部門が主導して、3つの視点から基本方針を明確にすれば、自ずと多岐にわたるコード内容を記述できるだろう。中長期の企業価値に関心の高い投資家に、自らの企業価値を理解してもらう上で絶好の機会が来たと考えて対応することが、企業にとって株式市場での正当な評価を得る上で重要だと考える。

1) 筆者は有識者会議の13名のメンバーの1人として本コードのとりまとめの議論に参加した。
2) ただしOECD原則は2015年に改定予定であり、その改定内容を先取りしてコード原案に反映していること、またOECD原則にはなかった「株主との対話」が第5原則として追加されている点が特徴的である。「株主との対話」は、イギリスやシンガポール等の諸外国のコーポレートガバナンス・コードには入っており、日本版スチュワードシップ・コードと平仄を合わせる意味で重要と考えられ加えられたものである。
3) 5つの基本原則の下に記述された各原則の数は30、補充原則数は38と、総数68もの原則が示されている。序文・基本原則を除いても21頁に亘り詳細な記述が行われている。
4) 英語では、「Comply or explain」と言う。
5) 取締役会の実効性確保のための前提条件の整備やその分析・評価を行うこと(原則4-11)、政策保有株式の方針開示・中長期的な経済合理性の説明(原則1-4)、諮問委員会等の設置による統治機能のさらなる充実(原則4―10)、経営戦略・経営計画の策定・公表における収益性・資本効率等の目標開示(原則5-2)など。
6) ただしこれは株式投資家の視点から考えたものであり、全ての利害関係者の立場を考慮したものではないことを申し添えておく。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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