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オペレーショナル・リスク計測の新手法はリスクの実態を捕捉できるか?

2015年2月号

ERM事業企画部 副主任コンサルタント 太田賢吾

バーゼル銀行監督委員会からオペレーショナル・リスク計測の新手法が公表された。各行は新手法が有する感応性・非感応性を正しく理解するとともに、規制対応に留まらずリスクの実態を捕捉できるよう、管理の高度化を進めることが望まれる。

 金融危機時、海外の多くの銀行では収益が減少し、規制上のオペレーショナル・リスク(以下、オペリスク)量も、収益の増減に比例する仕組みであったが故に減少した。しかし実態としては、むしろオペリスク量は増大の一途を辿っていたと言われている。このような問題の解決に向け、バーゼル規制におけるオペリスク計測手法の見直しが始まった。

標準的手法の見直しによる問題の解決

 バーゼル銀行監督委員会(以下、バーゼル委)は2014年10月、市中協議文書「オペレーショナル・リスクに係る標準的手法の見直し」を公表した。現行の枠組みではオペリスク計測の手法として、基礎的手法(以下、BIA(※1))、粗利益配分手法(以下、TSA(※2))、先進的計測手法(以下、AMA(※3))から各行が選ぶことになっている。このうちBIAとTSAは標準的手法とも呼ばれ、どちらもオペリスク量を代替する指標として「粗利益」を用い(※4)、これに「掛目」を乗じることでオペリスク量を算出している。また、TSAは8つのビジネス・ラインを設け、それぞれに12%〜18%の異なる掛目を設定している。今回バーゼル委から公表された見直し案はこのBIAとTSAを一本化するとともに、「指標」と「掛目」を見直すことで現行の問題の解決を目指している。以下ではそれぞれの見直しの概要を説明する。

①指標の見直し:新指標の導入

 前述の通り、現行の標準的手法は「粗利益」を代替指標として用いているため、収益が減少(または、費用が増加)するとオペリスク量も減少する。極端な例として、損失超過が発生した場合はオペリスク量がゼロになってしまう。しかし損失超過になっても業務自体がなくなるわけではないため、実態としてオペリスクは存在する。そこで新手法では、粗利益に代わるものとしてBusiness Indicator(以下、BI)(図表)を定義し、これをオペリスク量の新しい代替指標とした。具体的な特徴としては、「金利」や「財務」において損益の絶対値を用いたり、「サービス」の収益と費用を足し合わせたりすることで、収益の減少や費用の増加にも対応できるようにしている。さらに現行の指標には含まれていない「その他業務費用」や「銀行勘定のネット損益」も加えた。新手法は銀行が行うあらゆる業務の規模を捉えることで、その業務自体に潜むオペリスク量をBI に反映させようとしている。

②掛目の見直し:規模(BI)に応じた設定

 バーゼル委が実施した分析では、TSAにおいてビジネス・ライン毎に異なる掛目を設定することの定量的な根拠が得られず、リスク感応度の向上に繋がっていないことが明らかになった。そこで新手法ではビジネス・ラインを廃止し、BIで捉える銀行の「規模」が大きくなるほど掛目が大きくなるよう設定(※5)している。これによって規模が大きな銀行ほど、オペリスク量も大きくなる。

新手法に潜む注意点と真の管理高度化に向けて

 新手法は現行の主な問題点を解決し、リスク感応度を改善している。これによって、各銀行はオペリスクに対し今までよりも適切な量の規制資本(※6)を積むことになる。しかし新手法を導入するだけで、オペリスクの実態把握と内部管理の高度化が期待できるかというと、そこまでは望めないだろう。その根拠として、新手法のリスク感応度に係る限界と注意点を挙げておきたい。

 一つ目は、新手法が内部の統制の強度に感応しないことである。これは「特定の業務規模に対し、等しく特定のオペリスクが潜む」という前提に基づいているからである。しかし本来は同じ規模の銀行でもマニュアルやシステムの整備状況、ルールの遵守状況、行員の教育態勢といった統制の強度によって業務に潜むオペリスクの実態は異なる。BIはこのような統制の差を反映せず、あくまで統制前の固有リスクに感応することに注意したい。

 二つ目は、オペリスクの顕在化に対し事後的にしか感応しないことである。今回BI に追加された「その他業務費用」には事務事故や不正等のオペリスク事象で生じた損失が含まれる。新手法では直近3年間のBIに掛目を乗じた値の平均値を用いるため、この損失がペナルティとして3年間自己資本比率に反映される(※7)ことになる。ここで注意しなければならないのは、事後的な感応性は単なる規制資本としての保守性の意味合いしかもたず、経済資本(※8)のためには役に立たないという点である。内部管理に有効に活用するためには、大規模な損失が発生するよりも前に苦情等の小さな異常に感応するフォワードルッキングな指標を用いることが望ましい。

 このように、新手法のBI も内部管理という面では万全な指標というわけではない。そのためバーゼル委は内部管理の高度化について規制資本とは切り離し、すべての銀行に対し「健全なオペレーショナル・リスク管理のための諸原則」を遵守させる方針を示している。本市中協議文書と同時に公表された「『健全なオペレーショナル・リスク管理のための諸原則』の実施状況に関するピア・レビュー結果」では、各原則の導入状況や事例が紹介されていて参考になる。中でも筆者が重要と考えるのは「リスクの特定と評価」(※9)である。損失が発生したオペリスク事象だけでなく、関連するデータやニアミスの情報を含めて広く収集・分析することの重要性が述べられている。このような関連情報には潜在的なオペリスクの実態が反映されている可能性が高い。規制とは別に、こうした情報について内部で指標を設定し管理に活用することが望ましい。実際に本邦の先進的な金融機関では、様々なオペリスク関連データから潜在リスクの予兆指標を構築し活用することでフォワードルッキングな管理を実現している(※10)。さらに、指標を定義し定量的に管理することで、リスク許容度(※11)の設定がしやすくなる。その結果として、改善すべき対象とその成果が可視化され、リスク削減を伴うPDCAサイクルが回り始める(※12)。

 単なる規制の変更だと考えるのではなく、真のオペリスク管理高度化に向け、各行はこの機会に自らのオペリスク実態の捕捉と実効性のある管理を検討してほしい。

1) Basic Indicator Approachの略。
2) The Standard Approachの略。
3) Advanced Measurement Approachesの略。
4) 一部の国ではTSAの代わりに代替的手法(ASA:Alternative Standardised Approach)を認めている。ASAではリテール・バンキング、コマーシャル・バンキングについて粗利益ではなく貸付総額を用いる。なお、日本ではASAの使用は認められていない。
5) BIの金額(ユーロ)に応じ、1億以下:10%、1億超10億以下:13%、10億超30億以下:17%、30億超300億以下:22%、300億超:30%の5つのレイヤーに分けて掛目を設定。また、オペリスク量が連続的に変化するよう、各閾値を超えた分にのみ当該レイヤーの掛目を適用するレイヤード・アプローチという計算手法を提案している。
6) リスクが顕在化した場合でも銀行が破たんしないよう損失額を自己資本の枠内に抑えるために、バーゼル規制(第一の柱)において要求される自己資本の水準。
7) AMAにおいても過去5年以上の内部損失データを使用することが求められている。一方、標準的手法には外部損失や損失シナリオが含まれていないことを考えると、AMAよりも規制資本への影響が大きくなる可能性もある。
8) 各行がそれぞれのビジネス環境を踏まえ、経営の立場で「最適」と考える自己資本の水準。
9) 原則6“Risk Identification and Assessment”。
10) 詳細は金融I Tフォーカス2014年10月号「リスク管理パラダイムの進化論」を参照。http://fis.nri.co.jp/ja-JP/publication/kinyu_itf/backnumber/2014/10/201410_4.html
11) 原則4“Operational Risk Appetite and Tolerance”。
12) ピア・レビュー結果によると、原則4と6は、全11の原則の中で最も導入が遅れている2原則でもある。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

太田賢吾

太田賢吾Kengo Ohta

NSグローバル推進部
主任コンサルタント
専門:金融機関のリスク管理

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